スイスの村を氷河崩落が埋める アルプスで何が起きたのか
2025年5月、スイス南部アルプスの山あいにある小さな村ブラッテンが、崩れ落ちた氷河と土砂の巨大な流れにのみ込まれました。研究者たちは、この出来事を気候変動がアルプスにもたらす影響を象徴するものだと見ています。
村を一瞬でのみ込んだ氷河崩落
数百万立方メートル規模とされる氷、泥、岩が、ビルヒ氷河の下の山肌から一気に崩れ落ち、ブラッテンの大部分を埋め尽くしました。わずかに残った家もその後の洪水で浸水し、風光明媚だった山里の面影はほとんど失われました。
ブラッテンの住民およそ300人は、崩落が起きる前の5月上旬、ビルヒ氷河の背後で山が崩れ始めたことを受けてすでに避難していました。この早期避難が、多くの命を守ったとみられます。
危険すぎて近づけない現場
それでも、64歳の男性1人が崩落時に危険区域にいたとみられ、行方不明となりました。警察によると、現場は極めて不安定で、木曜日には捜索を中断せざるを得なかったといいます。
山肌はなお崩れやすく、数千トンの岩石が積み重なった状態のため、救助隊が入り込んで地盤を安定させたり、下流の洪水リスクを抑えたりする作業はほとんどできませんでした。
ロンツァ川をふさぐ土砂と高まる水位
崩落で生じたがれきの山は、およそ2キロにわたってロンツァ川をせき止めました。氷河の融解水と川の水が行き場を失い、急激な洪水が発生するのではないかという懸念が広がりました。
当初、当局は上流にたまった水が一気に決壊すれば壊滅的な洪水になり得ると警告しましたが、その後の専門家による分析では、最悪の事態に至る可能性は低くなったと評価されています。
スイス・ヴァレー州の治安担当トップ、ステファン・ガンツァー氏は会見で、専門家の情報は大規模な決壊が起きる可能性は高くないと示していると説明しました。同時に、前日に起きた崩落を踏まえ、あり得ないとされていたことが現実になったとして、あり得ないという言葉を簡単には使いたくないとも述べました。
当局によると、ロンツァ川と氷河の融解による水位は1時間に80センチのペースで上昇していました。下流のフェルデンの村では、万一の急激な増水に備えるため、人工ダムの水をあらかじめ抜き、流入してくる水を受け止められるよう準備が進められました。
アルプスの氷河と気候変動
今回の氷河崩落について、科学者たちは気候変動の影響が背景にあるとみています。気温の上昇で氷河の後退や融解が進むと、氷が支えていた岩盤が不安定になり、大規模な崩落や土石流が起きやすくなると指摘されています。
アルプスのような高山地域では、氷河や永年凍土が山の安定性を保つ重要な役割を果たしてきました。そうした自然の支えが弱まることで、これまでの経験則では想定しにくかったタイプの災害が増える可能性があります。
消えた集落と失われた365年の家
被災の衝撃は、数字だけでは語りきれません。文化研究者のヴェルナー・ベルヴァルトさん(65)は、ブラッテン近くの小集落リートで、1654年に建てられた木造の家に暮らしていました。しかし今回の土砂の奔流は、家族の歴史が刻まれたその家ごと集落をのみ込みました。
ベルヴァルトさんは、そこに集落があったことさえ分からないほど一帯が変わり果ててしまったと話します。そして、誰もここで起きるとは思わなかったことが現実になったのだと振り返りました。
低い確率のリスクとどう向き合うか
今回のスイスの氷河崩落は、気候変動が進む時代におけるリスクのとらえ方を問いかけています。ガンツァー氏が語ったように、起こりそうにないとされていた出来事が、ある日突然起きるかもしれないからです。
早めの避難や人工ダムの水位調整など、当局の対策は一定の成果を上げましたが、それでも集落は失われ、行方不明者も出ました。どこまで危険を想定し、どの段階で避難やインフラ整備に踏み切るのかという判断は、スイスだけでなく、多くの山岳地域や河川流域が直面する課題です。
アルプスの山あいで起きたこの出来事は、遠いヨーロッパのニュースにとどまらず、気候変動と自然災害に向き合う私たち一人ひとりの考え方を見直すきっかけにもなり得ます。
Reference(s):
Swiss residents in shock after glacier debris buries village
cgtn.com








