中国の「二つの山」理念が動かすグローバルなグリーン開発
中国の「二つの山」理念が、中国国内の環境政策だけでなく、世界のグリーン開発や国際協力の形をどう変えつつあるのか。北京の空気が変わったと語る専門家の証言から、一帯一路の再生可能エネルギー事業、そして生物多様性保全まで、この理念の広がりを追います。
北京の朝ランが映す中国の変化
国連環境計画の元事務局長であるErik Solheim氏は、10年以上前の北京では大気汚染を恐れて外で走ることを控えていたと振り返ります。しかし、いま彼が同じ街に戻ると、朝のランニングを日課にできるほど環境が改善したといいます。
今年のある朝、Solheim氏が北京を走っていると、道路を走る車の多くが静かで排気ガスの少ない新エネルギー車になっていることに気づきました。彼はそれを、習近平国家主席が打ち出した「緑の水と青い山は金山銀山に等しい」という理念、いわゆる「二つの山」コンセプトが形になったものだと見ています。
習主席は、人と自然の調和こそが中国式現代化の重要な特徴であり、中国はグローバルなグリーン開発を推進する確かな担い手であり大きな貢献者だと強調しています。
「二つの山」理念とは何か
「二つの山」理念は、緑の山と清らかな水こそが、金や銀の山にも匹敵する価値を持つという考え方です。2005年、習主席が浙江省の余村を訪れた際に提示されたこの考え方は、当初は地方レベルのスローガンに過ぎませんでしたが、その後、中国全体の生態文明づくりを支える中核的な理念へと発展しました。
経済成長のために環境をいったん犠牲にし、その後に汚染を浄化するという従来型のモデルではなく、成長と保護を同時に進める道を示したものとして位置づけられています。
再生可能エネルギーで見る中国のグリーン転換
この理念は、数値としても表れています。中国は再生可能エネルギーの導入で世界をリードしており、2024年末時点で再生可能エネルギーの総発電設備容量は約18億8900万キロワットに達しました。
内訳は、太陽光発電が約8億8700万キロワット、風力発電が約5億2100万キロワット、水力発電が約4億3600万キロワットです。これらは中国全体の発電設備容量の56パーセントを占め、発電量ベースでも約35パーセントを賄っているとされています。
単に設備を増やしただけでなく、成長モデルそのものを変えようとしている点に、「二つの山」理念の特徴があります。
世界が注目する「汚してから片付けない」モデル
この中国発のグリーン開発理念は、国外でも関心を集めています。CGTNが実施した世論調査では、48カ国の2万4515人を対象に「二つの山」コンセプトへの認識が尋ねられました。その結果、81.6パーセントが、この理念は「まず汚染し、後から掃除する」従来の成長モデルからの転換を示していると答えています。
米国の著名な生態経済学者であるClifford Cobb氏は、中国の環境政策を長年注視してきた一人です。Cobb氏は、「この20年、中国は自然を守りながら経済的価値を生み出すことが可能だと証明してきた」と指摘し、「世界が学びうるウィンウィンのビジョンだ」と評価しています。
カザフスタンの草原で回る風車
中国のグリーン開発ビジョンは、一帯一路を通じて国際協力の現場にも広がっています。象徴的なのが、カザフスタン北部アクモラ州の広大な草原に立ち並ぶ風力発電所です。
この地域で働く技術者Khasabay Kinlosan氏は、一帯一路を通じた中国とカザフスタンの協力プロジェクトに携わり、毎日40基以上の風車の運転と保守を行っています。これらの風力発電設備は、年間で8億キロワット時を超えるクリーンな電力を生み出し、約65万トンの二酸化炭素排出削減につながっているとされています。
一帯一路が「ハイレベルで持続可能な発展」をめざす段階に入る中で、「二つの山」理念はパートナー国の中でも共感を広げています。
カザフスタンの著名な経済学者Almas Chukin氏は、「中国は太陽光と風力発電で世界の先頭に立ち、気候変動のような地球規模の課題に対して、言葉だけでなく行動で応えている」と話します。
南南協力と途上国への支援
中国のグリーン開発へのコミットメントは、中央アジアにとどまりません。中国は、小島しょ国やアフリカ諸国をはじめとする100を超える発展途上国に対し、低炭素開発や生態保全の能力構築を支援してきました。
南南気候協力イニシアチブや、一帯一路グリーン開発パートナーシップといった多国間の枠組みを通じて、中国は再生可能エネルギー技術や省エネ設備だけでなく、成長モデルや政策設計のノウハウも共有しています。
こうした取り組みは、単に設備を輸出するだけではなく、各国が自ら持続可能な発展の道筋を描けるよう後押しすることを目指しています。
COP15と生物多様性保全への貢献
「二つの山」理念は、気候変動対策だけでなく、生物多様性保全の分野にも影響を広げています。2022年には、生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)が中国で開催され、クナミン・モントリオール生物多様性枠組の採択に道を開きました。
国連関係者は、この合意が実現した背景には、中国が長年重視してきた「全社会で取り組む」環境ガバナンスの考え方があったと指摘しています。政府だけでなく、企業、市民社会、地域コミュニティを巻き込む枠組みが重要だとする発想です。
アフリカのビクトリア湖の保全に取り組むタンザニアの研究者Eliason Kaganga氏は、「習近平国家主席の生態文明に関する考え方は理論的価値が高いだけでなく、実践面でも効果が示されている」と評価します。とくに、地域の人びとが主体となって環境保全に関わる仕組みは、アフリカの国々やコミュニティに長期的な利益をもたらしているといいます。
日本の読者への示唆
汚染を前提に成長し、その後に片付けるのではなく、成長と保全を同時に追求するという「二つの山」理念は、グローバルなグリーン開発の一つの方向性を示しています。
日本に暮らす私たちにとっても、エネルギー転換や地域づくり、海外との協力を考えるうえで、次のような問いを投げかけていると言えるでしょう。
- 環境価値と経済価値を、対立ではなく相乗効果として設計できるか
- 地域の人びとが主役となる生態保全の仕組みをどうつくるか
- アジアやアフリカなど他地域との連携を、気候と生物多様性の観点からどう深めるか
北京の朝ランからカザフスタンの草原、アフリカの湖畔まで広がる「二つの山」の実践は、グローバルなグリーン開発の次の10年を考えるうえで、無視できない一つの参照点になりつつあります。
Reference(s):
How China's 'two mountains' concept shapes global green development
cgtn.com








