COP30で問われる健康危機 気候変動は「公衆衛生の非常事態」か
地球温暖化は環境問題にとどまらず、「健康危機」としてCOP30の重要テーマになりつつあります。2025年の医学誌ランセットによる「ランセット・カウントダウン」報告書は、その現実を最新のデータで示しています。
なぜCOP30で「健康」が問われているのか
気候変動に関する国際交渉の場であるCOP30では、「温室効果ガスの排出量」だけでなく、人間の健康への影響が大きな論点になっています。ランセット・カウントダウン2025年報告書によると、気候変動による健康上の脅威を追跡する20の主要指標のうち、12が過去1年で過去最悪の水準に達しました。
つまり、気候変動は将来の抽象的なリスクではなく、「今この瞬間に人の命と健康を奪っている危機」として可視化されつつあります。
気候変動がもたらす直接の健康被害
報告書が示すのは、気候変動がすでに日常生活と健康を直接脅かしているという現実です。
極端な高温・豪雨・暴風の増加
猛暑、洪水、暴風などの極端な気象現象は、これまでより頻繁に、そしてより激しく起きるようになっており、多くの死傷者を生んでいます。突然の災害は、けがや溺死といった直接の被害だけでなく、避難生活による体調悪化など、さまざまな形で健康をむしばみます。
暑さで命を落とす人が増えている
気温上昇に伴い、熱中症などの暑さに関連する病気は増加しています。ランセット・カウントダウンの試算では、1990年代以降、暑さに関連する死亡が63%増え、2012年から2021年には毎年平均54万6千人が極端な暑さによって命を落としているとされています。これは、ほぼ「1分に1人」が猛暑のために亡くなっている計算です。
こうした熱関連疾患は、とくに高齢者や屋外で働く人など、暑さの影響を受けやすい人々に集中しがちです。
感染症リスクの広がり
気温が上がると、蚊など病原体を運ぶ生物の生息域が広がり、マラリアやデング熱といった「ベクター媒介性感染症」のリスクが高まります。これまであまり見られなかった地域で、これらの感染症が問題になる可能性も指摘されています。
医療体制と健康格差へのダブルパンチ
気候変動は、すでに存在する健康格差を悪化させ、世界中の医療体制にこれまで以上の負担をかけています。
もともと病気や災害に弱い人ほど、気候変動の影響を強く受けます。たとえば次のような人たちです。
- 高齢者や基礎疾患のある人
- 冷房や安全な住環境へのアクセスが限られている人
- 屋外での肉体労働に従事する人
こうした人々は、猛暑や洪水に直撃されやすく、十分な医療を受ける前に状態が悪化してしまうリスクが高くなります。
一方で、頻発する災害や感染症の拡大は、病院や救急医療などの現場にも大きなストレスを与えています。電力や交通の遮断、患者の急増などが重なれば、医療従事者は限られた資源で多くの命を守らなければならなくなります。
化石燃料依存と不十分な適応策
ランセット・カウントダウン報告書は、この健康危機の背景に「化石燃料への依存」と「適応策の不足」があると述べています。言い換えれば、多くの被害は避けられたはずのものであり、今後の選択しだいで減らすことができるということです。
報告書が示す状況を踏まえると、COP30で問われるべきポイントは次のようなものだと考えられます。
- 温室効果ガス削減策を、「健康被害を減らす対策」としてどう位置づけるか
- 猛暑や洪水、感染症のリスクに備えるために、医療・保健体制をどう強化するか
- もっとも影響を受けやすい人々を守るための支援を、国内外でどう進めるか
気候変動は「健康危機」なのか
「気候変動は健康危機か」という問いに、ランセット・カウントダウン2025年報告書のデータは明確な方向性を示しています。気温上昇は、すでに毎年数十万人規模の命を奪い、熱中症、災害、感染症といった形で人々の生活を揺さぶっています。
重要なのは、この危機が単に「環境の問題」ではなく、「公衆衛生の非常事態」として扱われるかどうかです。気候政策と健康政策を切り離して考えるのではなく、両者を一体のものとして捉える視点が求められています。
COP30は、その転換点になり得る場です。ニュースや交渉の行方を追うとき、排出量の数字だけでなく、「その決定が誰の健康をどれだけ守るのか」という観点を合わせて見ていくことが、これからの私たち一人ひとりに求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








