オーストラリア自由党が2050年ネットゼロ撤回 エネルギー価格を最優先に
オーストラリアの保守政党・自由党が、2050年までの温室効果ガス排出「ネットゼロ」目標を撤回し、エネルギー価格の引き下げを最優先に掲げる方針へ転換しました。気候変動対策と電気料金のどちらを重視するのか、同国の政治と経済をめぐる議論が一段と熱を帯びそうです。
自由党がネットゼロ目標を撤回
オーストラリアの自由党は木曜日、これまで掲げてきた「2050年までに排出実質ゼロ(ネットゼロ)」の政策を取り下げると表明しました。与党の中道左派・労働党とは対照的に、今後は「手頃なエネルギー価格」を最優先にするとしています。
発表は、自由党内の中道派と右派のあいだで数カ月にわたって続いていた気候政策をめぐる対立に区切りをつけるものです。党は前日の5時間に及ぶ会合で、目標撤回を多数決で決定しました。
野党党首のスーザン・レイ氏は記者会見で、「きょう自由党は、まず手頃なエネルギーを優先することを決めた」と述べました。そのうえで、「技術、選択、そして自発的な市場によって到達できるのであれば、ネットゼロは歓迎する」とし、目標そのものを完全に否定するわけではないと説明しています。
パリ協定は維持、しかし国内目標は見直しへ
レイ氏によると、自由党はパリ協定(パリ気候合意)からは離脱しない方針です。一方で、労働党政権が進めている国内の排出削減目標や再生可能エネルギー導入目標については、政権を取れば撤回すると明言しました。
つまり、国際的な枠組みにはとどまりつつも、自国の約束の中身を大幅に組み替える構えです。自由党は、排出削減のペースについて「他の比較可能な国々と歩調を合わせつつ、技術が許す限り速く進める」としていますが、数値目標の具体像は示していません。
新方針の柱:石炭、原子力、ガスをどう使うか
自由党の計画には、エネルギーシステム全体を見直す内容が含まれています。
- 老朽化した石炭火力発電所の早期閉鎖を防ぐ
- 現在の原子力発電禁止を解除し、原子力導入を可能にする
- 新たなガス供給と関連インフラへの投資を拡大する
これらはいずれも、短期的には電力供給の安定と価格抑制につながりうる一方で、長期的な排出削減との両立が問われる選択です。特に石炭火力の延命は、環境団体や若い世代からの反発を招く可能性があります。
連立パートナー・国民党との足並み
今回の決定により、自由党は農村部を支持基盤とする国民党と足並みをそろえることになります。国民党は今月初め、これまで掲げてきたネットゼロ目標をすでに撤回していました。
両党はオーストラリア連邦政治で長年連立を組んできましたが、気候変動政策ではしばしば温度差が指摘されてきました。自由党がネットゼロから一歩退いたことで、保守陣営としてのメッセージをそろえつつ、地域社会や資源産業の不安に応えるねらいがあるとみられます。
労働党政権の気候目標との鮮明なコントラスト
一方、労働党政権は、2005年比で2035年までに62〜70%の排出削減を目指し、2050年までのネットゼロ達成も維持しています。9月には、産業施設の脱炭素化を支援するための33億豪ドル規模の資金配分も発表しました。
これに対し自由党は、排出削減よりもエネルギー価格の抑制と経済への影響を強調する立場です。次の連邦選挙に向け、有権者は「気候目標」と「生活コスト」のどちらを優先するのか、選択を迫られることになりそうです。
国内政治と国際的な影響
自由党は、2021年にスコット・モリソン元首相の下で2050年ネットゼロにコミットしていました。今回の方針転換は、その約束からの明確な方向転換を意味します。
国内では、次のような影響が懸念・期待されています。
- 電気料金やガス料金の負担がどこまで軽減されるのか
- 石炭・ガス関連産業の雇用と地域経済の安定
- 再生可能エネルギー事業への投資意欲の変化
- 長期的な産業競争力やイノベーションへの影響
国際的には、パリ協定にとどまりつつも国内の気候目標を後退させる動きとして注目される可能性があります。他国の保守政党にも影響を与え、気候変動対策をめぐる政治の対立軸をより鮮明にするかもしれません。
私たちが見ておきたいポイント
今回のニュースは、「気候危機」と「生活のコスト」という、世界の多くの国が直面しているジレンマを象徴しています。日本を含むアジア太平洋地域にとっても、他人事ではありません。
- エネルギー価格の高止まりが続くなか、各国の政治はどのような選択をしているのか
- 技術革新だけで、どこまで排出削減と経済成長の両立が可能なのか
- 企業や投資家は、政策の振れ幅にどう対応しようとしているのか
オーストラリア自由党の方針転換は、一国の政党の話にとどまらず、「脱炭素のスピード」と「社会の受容力」のバランスをどう取るかという、より大きな問いを私たちに投げかけています。
Reference(s):
Australia's conservative Liberal Party abandons net-zero policy
cgtn.com







