タンザニア、2016年の野生動物取引禁輸を見直しへ 人と動物の衝突が背景
タンザニア政府が、2016年から続く「生きた野生動物の輸出・取引禁止」の撤廃(または限定的な解除)を検討しています。2026年3月時点で禁輸は約10年に近づき、人と野生動物の衝突が増えるなか、規制下の取引再開で被害の抑制と収入増を両立できるのかが焦点になっています。
いま何が起きているのか:禁輸の撤廃を「衝突の緩和策」に
政府関係者は、管理されたかたちで取引を再開すれば、集落や都市周辺に出没する野生動物による被害を減らしつつ、地域と国に収益をもたらす可能性があると説明しています。対象は、被害が目立つとされるヒヒやサルなど「問題個体・問題種」を中心にした限定的な運用が念頭にあるとされます。
都市部でも目立つ被害:スマホ動画が示す“日常の侵入”
野生動物が人の生活圏に入り込む事例は、都市部やその周辺でも増えているとされます。国内の一部地域では、サルが食料品の屋台や住宅に入り込み、生活や生計に影響を与える様子を撮影した映像が出回っています。
ダルエスサラームの食料品販売者、ナシール・アマニ氏は、被害の切実さをこう語りました。
「本当に追い払えない。できるのは、可能なら大事なものを守ることだけ。持ち物を守る以外に、身を守る現実的な方法がない。叩こうとしても効果がない」
禁輸はなぜ始まったのか:乱獲と持続不可能な輸出への歯止め
禁輸は2016年、密猟の横行や持続不可能な輸出を抑える目的で導入されたとされています。政府側は一方で、禁輸期間中に海外の買い手を中心とする需要を取り込めず、推計で約10億ドルの潜在収入を失ったとも見積もっています。
また、2022年には、既存在庫の処分を目的に6か月間の一時的な制限解除が行われた経緯もあります。
地方では衝突が先鋭化:村で約250匹が殺された事例も
北部の農村部では、野生動物による被害を理由に住民側の反発が強まり、村人がサルやヒヒを約250匹殺したとされる出来事も報じられています。住民は、作物が繰り返し荒らされ、食料を求めて家に侵入されたと主張しています。
政府の狙い:殺処分から「管理された取引」へ?
観光・天然資源相のアシャトゥ・キジャジ氏は、政府として禁輸に至った課題を解決しつつ、住民の懸念に対応する方針だと説明しています。大統領の指示を受け、省として対応を進めているという趣旨の発言も紹介されました。
政府が描くロジックは大きく次の2点です。
- 被害をもたらす個体を「売却」できれば、無秩序な殺処分を減らし、住民の不満を緩和できる
- 取引が地域収入や国家収入につながり、被害対応の原資にもなり得る
一方で保全側の懸念:根本原因は「生息地の縮小」
保全関係者は、衝突の根本要因は生息地の喪失だと指摘します。森林は農地拡大や薪(まき)の採取などにより、年間約40万ヘクタールが失われているとされます。
自然保護に携わるマルコム・ライアン氏は、人口圧力の変化をこう説明しています。
「2000年当時、人口はいまの半分以下で、3500万人未満だった。いまは7000万人。農地を広げ、動物の野生の領域を奪っているのは私たちだ。人と野生動物のバランスを見つけなければならない」
観光大国としてのジレンマ:規制取引は“抜け道”を生まないか
反対する立場からは、たとえ規制した制度であっても、違法取引のルートを再び開く危険があるという警告が出ています。野生動物はタンザニアの国際的に知られた観光、特にサファリ観光を支える基盤でもあり、個体数への影響が観光産業に跳ね返る可能性も論点です。
数字で整理:議論の土台になっている前提
- 禁輸:2016年から(2026年3月時点で約10年)
- 2022年:6か月の一時的な制限解除(既存在庫の処分)
- 潜在収入:禁輸期間に約10億ドルを逸失したとの政府推計
- 野生動物:推計約400万頭(高密度地域の一つとされる)
- 森林減少:年約40万ヘクタール
- 人口:2000年は3500万人未満→現在は7000万人(関係者の説明)
今後の見どころ:限定解除か、全面撤廃か
政府は「限定的で管理されたアプローチ」に傾いているようですが、対象種の範囲、取引の許可条件、監視体制、地域への収益配分、そして密猟対策との整合など、制度設計の細部が結論を左右しそうです。
人の暮らしの安全と、野生動物保全、観光を含む経済の持続性。そのバランスをどう形にするのか。禁輸の見直しは、単なる規制緩和か規制強化かではなく、土地利用や生活基盤の変化を映す“鏡”として議論が続きそうです。
Reference(s):
cgtn.com







