万博建築が都市を変える:パリ・グラン・パレから大阪・関西万博を考える
1900年のパリ万博のために建てられたグラン・パレは、ガラスと鉄と石を組み合わせた壮麗な建築であり、いまもパリの文化を象徴する存在です。120年以上前の万博建築がなぜ現代まで生き続けているのか──その歩みは、2025年の大阪・関西万博の「その後」を考えるヒントになります。
1900年パリ万博から生まれた「都市の舞台装置」
グラン・パレ(Grand Palais)は、1900年に開かれたパリの世界博覧会のために建設されました。設計思想は、当時のフランスが誇ったボザール様式。重厚な石造の外観と、ガラスと鉄骨による巨大な屋根を組み合わせ、「フランスの芸術と技術を世界に見せるショーケース」として構想された建物です。
万博は、各国が最新の技術や文化を披露する「世界の見本市」です。そのための建物は、ともすると会期が終われば役目を終える一時的な舞台装置になりがちです。しかしグラン・パレは、博覧会の終了後も取り壊されることなく、パリの中心部に残され、使われ続けてきました。
ガラスと鉄と石がつくる「開かれたモニュメント」
建物の内部に入ると、まず目に入るのが広大なガラス張りの天井です。鉄骨のアーチが大きなスパンを支え、自然光がホール全体をやわらかく照らします。ガラスと鉄という当時の先端素材に、石の装飾的なディテールが重なることで、技術と芸術の両方を体現する空間が生まれています。
この構成は、単に「見栄えが良い」だけではありません。大きな無柱空間は展示のレイアウトを柔軟に変えることができ、光や音の演出によって雰囲気を大きく変えられます。万博後の長い年月にわたって、さまざまなイベントを受け止めてこられた背景には、こうした「使いやすさ」と「余白」の設計がありました。
100年以上使われ続ける万博レガシー
グラン・パレは、建設から1世紀以上が過ぎた現在も、パリを代表する文化・イベント空間として稼働し続けています。もともとはフランスの芸術と革新を見せるための会場でしたが、その後も機能を変えながら生き延びてきました。
ここでは、次のようなイベントが開かれてきました。
- 美術展やアートフェアなどの大型展覧会
- ファッションショーやコレクション発表
- スポーツイベント
- 世界的ブランドによる特別なランウェイショー
巨大なガラス天井の下に人工の森や海、宇宙空間を再現するショーも行われ、建物そのものが舞台装置として再解釈されてきました。1900年の万博で掲げられた「創造性と技術の融合」というテーマが、21世紀のファッションやエンターテインメントのかたちで更新されているとも言えます。
こうした長期的な活用によって、グラン・パレは観光名所であると同時に、パリの日常的な文化活動を支えるインフラにもなりました。一度のイベントのためだけではなく、都市の生活に溶け込み続ける万博建築の姿がここにあります。
大阪・関西万博と「その後」を考える視点
グラン・パレの歴史は、「万博のためにつくられた建物は、その後どう生きるのか」という問いを投げかけます。2025年の大阪・関西万博では、多様なパビリオンや会場デザインが構想されていますが、その価値を測る物差しは、会期中の賑わいだけではありません。
たとえば、次のような問いが浮かびます。
- 10年後、20年後に、どの建物や空間が残っているのか
- 万博終了後、その場所はどのように使われるのか
- 地元の人々にとって、日常的に訪れたい場所になりうるのか
グラン・パレのように、展示会からスポーツ、ファッションまで幅広い用途を受け止める柔軟な空間であれば、万博の「後」の時間を豊かにする可能性が高まります。逆に、あまりに特定の用途だけに最適化された建物は、会期後に活用の幅が限定されてしまうかもしれません。
長く生きる万博建築の条件とは
グラン・パレの歩みから見えてくるのは、万博建築が「一度きりのスペクタクル」で終わるのか、「都市の長期的な資産」になるのかを分けるいくつかのポイントです。
- 多用途に使えるシンプルな空間設計
用途を限定しすぎず、展示やイベントの内容に合わせて柔軟に使い方を変えられること。 - 都市の交通や街並みとの自然なつながり
会場そのものが「街から浮いた特別な場所」ではなく、日常の動線の延長としてアクセスしやすいこと。 - 市民に開かれたデザイン
特別なイベントがない日でも訪れやすく、「自分たちの場所だ」と感じられること。 - 時間とともに意味を更新できる余白
新しい技術や表現が現れても、それを受け止める余裕を建物が持っていること。
グラン・パレは、こうした条件を満たしつつ、時代ごとのニーズを取り込みながら生き延びてきました。博覧会のために生まれた建物が、世紀をまたいで都市の重要な舞台であり続けている例だと言えます。
「会期後の風景」を想像する
2025年の大阪・関西万博をめぐる議論が続くなかで、グラン・パレの物語は、万博建築をどう位置づけるかを静かに問いかけています。
万博会場が閉門した翌日、その場所にはどんな風景が広がるのか。人々はまたそこで集い、学び、楽しむのか。それとも、記憶の中だけの「一度きりの舞台」として残るのか。
パリのグラン・パレを見上げるとき、そこにあるのは単なる歴史的建造物ではありません。万博が都市にもたらす長い時間軸と、建築が世代を超えて創造性を受け渡していくプロセスそのものです。大阪・関西万博に向けて交わされるさまざまな議論の中で、この静かな前例は、会期後の都市を思い描くための一つの手がかりになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








