ヨーロッパ中世武術HEMA、中国で静かなブーム 騎士の思考法に学ぶ video poster
ヨーロッパ中世武術が中国で注目される理由
ヨーロッパの中世武術「Historical European Martial Arts(HEMA)」が、ここ数年、中国の愛好家たちの間で静かな注目を集めています。単なる中世ごっこや歴史再現ではなく、「騎士はどう考え、どう戦略を組み立てていたのか」という思考法そのものに魅力を感じる人が増えているのが特徴です。
HEMAとは何か――文献からよみがえる「失われた武術」
HEMAは「歴史的ヨーロッパ武術」と訳され、中世から近世にかけて書かれた剣術や格闘の教本を読み解き、その技術と戦い方を現代に再構成する試みです。日本の古武術やアジアの武術と同じように、ヨーロッパにも体系立った武術文化が存在していましたが、それが近代のなかで一度途切れ、現代の研究者や実践者が再発見しているという位置づけです。
HEMAで扱われるのは、長剣、片手剣、短剣、素手による組み打ちなど多様な技術です。特徴的なのは、単に「強い技」を追い求めるのではなく、距離感、タイミング、身体の角度、視線の使い方といった要素を総合的に組み合わせて戦いをデザインしていく点にあります。
「鉄」と「戦略」が出会う場所――騎士の認知パターンとは
HEMAが興味深いのは、技そのものだけでなく、ヨーロッパの騎士たちの「考え方」や「認知パターン」に迫ろうとしているところです。中世の教本には、どの順番で状況を見て、どこに意識を置き、どのタイミングで決断するかといった思考の流れが、簡潔な言葉と図で示されています。
例えば、次のような思考のパターンが見られます。
- 相手との距離を一瞬で測り、「踏み込める距離」か「危険な距離」かを判断する
- 相手の剣先の位置から、次に来る攻撃の方向を先読みする
- 一撃で決着がつかない前提で、「次の一手」を常に準備しておく
- 自分と相手のリスクを天秤にかけ、「損して得を取る」交換をあえて選ぶ
こうしたパターンは、現代の戦略ゲーム、スポーツ、さらにはビジネスの場面にも通じるものがあります。HEMAは、ヨーロッパ騎士の「戦う認知科学」を、身体を通して体験する方法とも言えます。
中国の愛好家がHEMAから何を学んでいるのか
このHEMAに、中国の愛好家が関心を寄せています。中国では伝統的な武術文化が今も広く知られていますが、それとは異なる「もうひとつの武術の系譜」として、ヨーロッパ中世武術が注目されているのです。
愛好家たちは、中世の教本を読み解く海外の研究コミュニティや動画を参考にしながら、剣の構えや足運びだけでなく、「敵をどう観察し、どう決めるか」という思考のスタイルにも学びを見いだしています。そこから得た発想を、自国の武術の稽古や、現代のトレーニング、さらには日常の意思決定にも応用しようとする動きも見られます。
ヨーロッパの騎士文化と中国の豊かな武術文化が、HEMAを媒介として静かに交差していると言えるでしょう。
なぜ2020年代の若い世代に響いているのか
2020年代に入り、世界各地で「戦略」や「ゲーム的思考」への関心が高まっています。オンラインゲーム、ボードゲーム、シミュレーションゲームなど、現代の娯楽の多くは、限られた情報や資源の中で最適解を探す遊びです。
HEMAは、そうした現代的な感覚と相性が良い武術です。
- 身体を動かしながら、リアルタイムに状況判断を求められる
- 一つひとつの技に、「なぜその選択が合理的なのか」という理屈がある
- 歴史資料を調べ、自分たちで解釈・再構成するプロセス自体がクリエイティブである
このため、単なる格闘技以上に、「思考力や観察力を鍛える知的な遊び」としても受け止められています。中国の愛好家がそこから刺激を受けているのは、自然な流れかもしれません。
武術がつなぐグローバルな対話
武術は、本来は戦いの技術ですが、現代では国や地域を越えた文化的な対話の場にもなっています。アジアの武術が世界に広がったように、ヨーロッパ中世武術もまた、異なる背景を持つ人々をつなぐ共通言語になりつつあります。
中国の愛好家たちがHEMAから学んでいるのは、単に剣の振り方ではありません。歴史のなかで培われた別の思考スタイルを知り、自分たちの文化や日常の考え方を相対化する視点でもあります。
「鉄」と「戦略」が出会うHEMAの世界から、私たちは次のような問いを受け取ることができます。
- 自分は、どのようなパターンで状況を認識し、決断しているのか
- そのパターンは、どの文化や歴史から受け継いだものなのか
- 別の文化の「戦い方」を知ることで、自分の思考を更新できるのか
中国で広がるHEMAへの関心は、単なるニッチな趣味の話ではなく、武術を通じて世界の人々が互いの考え方を学び合う時代が来ていることを示す一つのサインとも言えます。
Reference(s):
cgtn.com








