香港の「叮叮」を支える職人たち 世界最大トラムの舞台裏 video poster
香港では、世界最大の現役二階建てトラムのフリートが毎日街を走り続けています。その数は165両。すべてが手作業で組み上げられた「叮叮(ディンディン)」と呼ばれる車両です。香港島西部のホイッティ・ストリート車庫では、約90人の職人たちが、このギネス世界記録を持つトラムを一両ずつ整備し、寿命を延ばしています。本記事では、その舞台裏と、香港の都市の記憶を支える人たちの姿を紹介します。
世界最大の二階建てトラム、その舞台は香港
国際ニュースや観光情報でおなじみの香港には、世界でも珍しい大規模な二階建てトラム網があります。現在運行している165両は、現役の二階建て電車としては世界最大のフリートとされ、ギネス世界記録にも認定されています。
チンチンと鳴るベルの音から、香港の人びとはこのトラムを親しみを込めて「叮叮(ディンディン)」と呼びます。ゆっくりと街を走る二階建てトラムは、香港の住民や訪れる人にとって、日常の風景の一部であり、都市の象徴でもあります。
90人の職人が守るホイッティ・ストリート車庫
このトラムを支える中枢が、香港島にあるホイッティ・ストリート車庫です。ここで日々、約90人の職人が修理や組み立てを担当し、一両一両を手作業で仕上げています。大量生産の工場というより、大きな工房のような空気が漂う場所です。
車庫での仕事は、次のような地道な工程の積み重ねです。
- 車体の点検や補修、必要に応じた溶接作業
- 内装の座席や床板など、木材や金属部品の加工と交換
- 電気配線や照明などのチェックと組み立て
- 運転席周りの制御装置の調整と安全確認
外装パネルから車内の細かな部品、電気系統に至るまで、トラムは文字通り「パーツごと」に分解され、磨かれ、組み直されていきます。完成した車両は、また香港の街へと戻り、日々の運行に加わります。
手作りだからこそ生まれる一両ごとの個性
香港の二階建てトラムは、すべてが手作りの積み重ねです。職人の手の感覚と経験が仕上がりにそのまま反映され、同じ型の車両であっても、細かな違いが生まれます。
乗客は気づかないかもしれませんが、長年トラムに向き合ってきた職人にとっては、一両一両が性格の違う「顔なじみ」のような存在です。微妙な走行音や振動の変化から、どこに不調があるのかを感じ取ることもあるといいます。
100年前のコントローラーが今も現役
ホイッティ・ストリート車庫で驚かされるのは、一部の車両がいまもなお、100年前の設計のコントローラー(運転台の制御装置)や、数十年前に製造されたモーターで走っていることです。トラムという乗り物の歴史そのものが、車両の中に残っているとも言えます。
もちろん、それらがそのまま放置されているわけではありません。定期的な分解点検や部品交換を通じて、安全に使い続けられるよう細心の注意が払われています。古い部品の構造を深く理解し、現代の安全への意識に合わせて調整するには、高度な技能と時間が必要です。
部品を簡単に使い捨てるのではなく、できるだけ長く活かし続けるという姿勢は、資源を大切にするという意味でも改めて注目されています。
香港の街とともに走り続ける「叮叮」
二階建てトラムは、単なる移動手段以上の存在です。窓越しにビクトリア・ハーバーや密集したビル群を眺めながら、ゆっくりと揺れ進む車内には、香港の時間の流れが凝縮されています。
毎日の通勤に使う住民、観光で訪れた人、世代を超えてトラムに親しんできた家族。その日常の背後には、ホイッティ・ストリート車庫で黙々と働く職人たちの手仕事があります。彼らがいるからこそ、古い車両も新しい車両も、同じ「叮叮」として街を走り続けることができるのです。
テクノロジーの時代に問われる、継承という選択
世界各地の都市が新しい交通インフラを導入し、スピードや効率を競い合うなかで、香港は手作業で作られた二階建てトラムを大切に走らせ続けています。そこには、単に古いものを残すという以上の意味があります。
最新技術の導入と、長く受け継がれてきた仕組みをどう両立させるか。ホイッティ・ストリート車庫で働く90人の職人たちの姿は、効率だけでは測れない価値を都市がどう守るのかを、静かに問いかけています。世界最大の二階建てトラム165両を支える彼らの仕事は、2025年の今も、香港の街を動かし続けているのです。
Reference(s):
cgtn.com








