イタリアに根づく螳螂拳:ダンテ・バジリ氏がつないだ中国武術の系譜 video poster
イタリアの静かな稽古場で、螳螂拳(Tanglangquan)の「蟷螂の鉤(かぎ)」のような手が、低く力強い構えとともに繰り返されます。2026年のいま、この中国武術がヨーロッパの地で息づいている背景には、37年前に中国本土へ渡った一人の指導者の歩みがあります。
稽古場にある「螳螂拳らしさ」
指導に立つのはダンテ・バジリ氏。生徒たちは、細部まで整った動作を求められながら、型と攻防の理屈を身体に落とし込んでいきます。螳螂拳は、相手の力を外し、間合いを詰め、連続した技で主導権を握ることを大切にする流派として知られます。
- 手の形:蟷螂の前脚を思わせるフック状の形で、受け・絡め・制する動きを作る
- 姿勢:低いスタンスで軸を保ち、上半身の切り返しを速くする
- 連動:手先だけでなく、足運びと体幹で「次の一手」へつなぐ
37年前、中国本土へ──学びの入口は北京体育大学
バジリ氏が中国本土へ渡ったのは、今から37年前、1989年ごろ。学びの拠点となったのが北京体育大学でした。そこで出会ったのが、山東螳螂(Shandong Mantis)系の螳螂拳です。
武術は、技の形だけでなく、呼吸、タイミング、身体の使い方、そして「なぜその動きになるのか」という背景を含めて伝承されます。バジリ氏はその一つ一つを吸収し、学びを自国へ持ち帰る道を選びました。
海を越えた継承:アジアに行ったことのない弟子たちへ
それから長い年月、バジリ氏はイタリアで中国武術を教え続けてきました。生徒の中にはアジアへ渡った経験がない人もいますが、稽古の積み重ねが「遠さ」を埋めていきます。
武術の伝承は、国境を越えると同時に、翻訳が必要になる場面も増えます。言葉や生活文化が違っても、身体で理解できる部分がある一方、師から弟子へと受け渡される細部は、時間をかけて整えていくしかありません。だからこそ、継続が力になります。
「カンフーにパスポートはいらない」—いま広がる意味
この物語が静かに示すのは、文化が広がるルートが、必ずしも大きなイベントや流行だけではないということです。中国本土で学んだ技術と身体知が、イタリアの日常の中で繰り返され、世代を越えて更新されていく。螳螂拳が海を渡ったのは、翼ではなく、一人の粘り強い献身によってでした。
2026年のいま、世界の距離は縮まったようでいて、相互理解は簡単ではありません。それでも、稽古場の床の上では、言語や国籍と別の次元で「同じ動き」を共有できます。情熱と反復が、文化を長持ちさせる——そんな現実的で、少し希望のある光景がそこにあります。
Reference(s):
Mantis across continents: An Italian master's kung fu legacy
cgtn.com








