サッカーの国で野球が主役に イタリア・ネトゥーノ80年の物語 video poster
ローマ近郊の海辺の町ネトゥーノでは、イタリアでは珍しく、サッカーではなく野球が主役です。第二次世界大戦中に芽生えたこのスポーツへの思いは、約80年を経た2025年の今も、町の空気を静かに形づくっています。
サッカーの国で、野球が愛される町
イタリアと言えばサッカーを思い浮かべる人が多いなか、ネトゥーノは例外的な存在です。ここでは人々の会話も、子どもたちの遊びも、週末の予定も、自然と野球を中心に回っています。フットボールが王様ではない、イタリアで唯一の町だと言われています。
始まりは第二次世界大戦の解放作戦
物語の起点は、第二次世界大戦です。連合軍がナチス・ドイツに占領されていたイタリアを解放したとき、海岸線に位置するネトゥーノにも兵士たちがやって来ました。そのときこの町に持ち込まれたのが、野球という新しい遊びでした。
スタジアム併設の小さな博物館には、当時を写した戦時中の写真が並んでいます。そこには、解放直後の緊張感の中で、それでもボールとバットを手に笑う人々の姿が刻まれています。写真は、野球がどのようにしてネトゥーノの日常へと溶け込んでいったのかを静かに語りかけます。
ネトゥーノ・ベースボールクラブと親子二代の物語
ネトゥーノの野球の中心にあるのが、ネトゥーノ・ベースボールクラブです。捕手としてプレーするマリオ・トリンチさんは、クラブのレジェンドとして知られるグリエルモ・トリンチさんの息子でもあります。
マリオさんは、町と野球の関係を「一人ひとりの趣味ではなく、みんなで抱える情熱だ」と表現します。個人の好き嫌いを超えて、町全体が同じチームを応援し、勝敗に一喜一憂する。そのあり方を、彼は「集団のパッション」と呼びます。
数えきれないトロフィーが示す80年
クラブマネージャーのロベルト・デ・フランチェスキさんとマリオさんの案内で、スタジアムの博物館を歩くと、壁一面に所狭しと並んだトロフィーが目に飛び込んできます。数えきれないほどの優勝カップや盾が、戦後から続く章立てのように並んでいます。
戦時中の写真が物語の第1章だとすれば、トロフィーの列はその続きにあたります。一つひとつのカップには、シーズンの記憶や、ある年の劇的な逆転勝利、ある世代の選手たちの名前が刻まれています。それは、町の人々が積み重ねてきた時間そのものでもあります。
2025年の今も続く「みんなの時間」
2025年の現在も、ネトゥーノのスタジアムは、人々と野球を結びつける場所であり続けています。そこに足を運ぶ人々にとって、野球は単なるスポーツ観戦ではなく、家族や友人、隣人と過ごす大切な時間です。
グラウンドでプレーする選手たちの背後には、第二次世界大戦という大きな歴史の転換点から始まり、親から子へと受け継がれてきた約80年の物語があります。マリオさんとロベルトさんが案内する博物館は、その物語を形として残す場所であり、次の世代に手渡すための記憶装置でもあります。
一つの町が教えてくれる、スポーツと記憶の力
ネトゥーノの歩みは、スポーツが地域社会にもたらすものを静かに示しています。全国的にはサッカーが圧倒的な人気を誇る国の中で、一つの海辺の町が野球を自分たちの物語の中心に据えてきました。
戦争という非日常の中で偶然もたらされたゲームが、やがて日常の一部になり、世代をまたいで受け継がれていく。その過程を丁寧に記録し、振り返る場としてのスタジアム博物館は、スポーツ史であると同時に、この町の近現代史でもあります。
2025年の今、世界各地でスポーツの在り方が変わりつつあるなか、ネトゥーノの野球の物語は、一つの場所に根を張った「みんなのゲーム」がどれほど長く、深く人々の心を結びつけていくのかを静かに教えてくれます。
Reference(s):
Everyone's Game: Baseball's enduring legacy in an Italian seaside town
cgtn.com








