チベット医学の担い手ゲンチュエ・ムラン 青海省で広がる伝統医療と教育 video poster
中国の伝統医学の一部として発展してきたチベット医学。その担い手の一人であるゲンチュエ・ムラン医師が、中国・青海省ナンチェン(Nangqian)県で地域医療と教育を支えています。
チベット医学、標高の高い大地が育んだ知恵
チベット医学は、中国の伝統医学の中でも重要な位置を占める医療体系です。標高の高い厳しい自然環境の中で暮らしてきたチベットの人々が、長い時間をかけて培ってきた知識と技術が結晶したものだとされています。
高地で直面する厳しい自然条件やさまざまな病気への対応を通じて、地域の人々は体の変化を細かく観察し、身近な薬草や治療法を工夫してきました。こうした経験が積み重なって、一つの体系だった医療としてまとめられてきたのがチベット医学です。
2006年には、チベット医学が中国の国家級文化遺産として正式に認定されました。2025年の今から見れば、およそ19年前に、その文化的価値と医療的な意義が改めて評価されたことになります。
ゲンチュエ・ムラン医師、故郷に戻った名医
こうした伝統医療を、現代の地域社会の中で実践しているのが、青海省ユシュ(Yushu)地方ナンチェン県のゲンチュエ・ムラン医師です。チベット医学の名医として知られ、地元の人々から厚い信頼を集めています。
ムラン医師は2006年に大学を卒業すると、都市部ではなく生まれ育った故郷に戻る道を選びました。それ以来、およそ19年間にわたって地域で患者と向き合い、チベット医学の知恵を日々の診療に生かしています。
遠隔地の遊牧民へ、無償の巡回診療
日々の診療だけでなく、ムラン医師は移動の難しい人たちへの支援にも力を入れています。青海省の高地には、遠く離れた牧草地で暮らす遊牧民の村が点在し、医療機関までの移動が大きな負担になることも少なくありません。
ムラン医師はそうした地域をたびたび訪れ、移動手段が限られた村人たちに無償で診療や健康相談を行っています。病院に来られない人のもとへ医師が出向くことで、早い段階での受診や治療につながり、命を守ることにも役立っています。
孤児を受け入れ、チベット医学の人材を育てる
ムラン医師の取り組みは医療にとどまりません。地元の孤児を自ら受け入れ、生活の面倒を見ながら学びの場を提供してきました。家族を失った若者たちが、将来の仕事や生き方を描けるよう支えることも、地域医療の一部だといえます。
さらに、ムラン医師はユシュ・チベット医学職業学校を設立し、チベット医学の知識と技術を学ぶ専門人材の育成にも取り組んでいます。ここで学んだ若者たちは、将来、各地の医療現場で活躍することが期待されています。
ムラン医師は、この学校について「私たちの学校は、民族団結の真の結晶です」と語っています。さまざまな背景を持つ学生たちが集まり、伝統医療を通じて学び合う場は、地域社会のつながりを強める役割も果たしているといえます。
伝統医療の担い手から見える、地域社会のこれから
現代医療が高度化し、都市部と地方の格差が課題となるなかで、ムラン医師のように地域の文化と生活に根ざした医療を実践する存在は、ますます重要になっています。
チベット医学のような伝統医療は、単に病気を治す技術ではなく、自然環境とともに生きてきた人々の知恵や価値観を映し出すものでもあります。遊牧民への無償診療や孤児支援、職業学校での人材育成というムラン医師の活動は、その知恵を次の世代につなぎながら、地域全体の安心と安定を支える試みといえるでしょう。
国際ニュースとして伝えられるこうしたストーリーは、私たちにとっても、医療や福祉、教育をどう地域につなげていくのかを考えるきっかけになります。遠い高地の町で続く静かな実践は、2025年を生きる私たちの社会にも、どこか通じる問いを投げかけています。
Reference(s):
The story of Gengque Mulan, a bearer of traditional Tibetan medicine
cgtn.com








