習近平氏、リマAPEC首脳会議で「開放・グリーン・包摂」ビジョンを提示
2024年11月、ペルーのリマで開かれた第31回APEC経済首脳会議で、中国の習近平国家主席がアジア太平洋の今後の方向性を示す演説を行いました。キーワードは「開放」「グリーン」「包摂」。2026年に中国がAPECを主催するのを前に、そのメッセージを振り返ります。
リマで開かれた第31回APEC首脳会議
習主席は、「時代の責任を担い、アジア太平洋の発展を共に促進する」と題したスピーチで、世界経済が「100年に一度の変革」と低成長に揺れ、世界の開放度を示す指標も低下していると指摘しました。アジア太平洋協力は、地政学的な緊張、一方主義や保護主義の高まりといった課題に直面している、とも述べています。
そのうえで、アジア太平洋のエコノミーは「より大きな責任」を担っており、連帯と協力によってこうした課題に向き合うべきだと主張しました。APECが合意した長期目標「プトラジャヤ・ビジョン2040」の着実な履行と、「アジア太平洋運命共同体」の構築を呼びかけ、3つの具体的な提案を示しました。
キーワードは「開放」「グリーン」「包摂」
演説を一言でまとめると、アジア太平洋における「開かれた連結性」「グリーンとイノベーション」「誰も取り残さない発展」をどう実現するかという問いかけです。習主席のメッセージは、次の3つの柱に整理できます。
- 開放的で相互に結びついたアジア太平洋協力の枠組み
- グリーンとイノベーションを成長の触媒に
- すべての人に恩恵が行き渡る包摂的な発展
それぞれの中身をもう少し具体的に見ていきます。
提案1:開かれたアジア太平洋とFTAAPの推進
第一の提案は、「開かれた連結性の高いアジア太平洋協力のパラダイム」を築くことです。習主席は、世界貿易機関(WTO)を中心とする多角的貿易体制と開放経済へのコミットメントを改めて表明しました。
貿易や投資、技術、サービスの流れを妨げる「壁」を取り除き、産業・サプライチェーンの安定と円滑さを守ること。地域と世界の経済循環を促進すること。こうした課題に応える鍵として、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の役割を強調しました。
FTAAPについては、10年前の北京APEC首脳会議でプロセス開始が決定された歴史に触れつつ、今回新たな指針となる文書を採択することで、「開かれたアジア太平洋経済」に新たな弾みをつけたいと述べています。
中国自身の取り組みとしては、改革を開放によって推進していく方針を示しました。具体的には、通信、インターネット、教育、文化、医療などの分野での段階的な市場開放や、地域的な包括的経済連携(RCEP)の高水準な履行を挙げています。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)や、デジタル経済連携協定(DEPA)への参加を積極的に模索すると表明しました。
さらに、ペルーとの自由貿易協定(FTA)改定のための議定書に署名し、ASEANとの自由貿易地域を「3.0」へと高度化する交渉を実質的に妥結したことにも触れています。デジタル貿易やグリーン分野の協定を通じて、世界に開かれた高水準の自由貿易ネットワークを広げていく考えです。
提案2:グリーン・イノベーションで新たな成長エンジンを
第二の提案は、「グリーン・イノベーションをアジア太平洋の触媒にする」ことです。習主席は、人工知能(AI)、量子情報、生命・健康といった最先端分野での交流と協力を強める必要性を指摘しました。
オープンで公正、公平で差別のないイノベーションのエコシステムを育てることで、生産力の「飛躍的な発展」を実現できると強調しています。
同時に、「きれいで美しいアジア太平洋」を掲げ、環境保護の優先、資源の節約と効率的利用、グリーンかつ低炭素の発展、そして経済社会全体のグリーン転換を進めるべきだと訴えました。デジタルとグリーンの両方の転換を連動させることで、新たな成長の原動力を生み出そうという発想です。
中国は、自国の実情に即して「新質生産力」の育成を進めるとともに、グリーン・イノベーション分野で関心を持つ各エコノミーとの協力を深めていくと説明しました。新たに「グローバル越境データ流通協力イニシアチブ」を打ち出し、効率的で便利かつ安全な国境を越えるデータ流通を促進するための協力を提案しています。
APECの枠組みの中でも、中国は船荷証券のデジタル化(digital bill of lading)、グリーンなサプライチェーンに関する能力構築、AIのアプローチに関する対話、食料サプライチェーンのデジタル化などのイニシアチブを提案しており、アジア太平洋の高品質な発展に貢献したいと述べました。
提案3:誰も取り残さない包摂的な発展
第三の提案は、「普遍的に利益が行き渡る包摂的なアジア太平洋の発展」です。習主席は、APECの場を活用して経済・技術協力を強化し、開発途上のエコノミーや社会的に弱い立場にある人々への支援を広げる必要性を強調しました。
成長の「パイ」を大きくするだけでなく、その果実を公正に分配し、より多くのエコノミーと人々が発展の恩恵を受けられるようにすることが重要だとしています。
議長エコノミーであるペルーが、非公式経済から公式かつグローバルな経済への移行をめぐる協力を積極的に進めていることにも触れ、中国が掲げる「人を中心に据え、社会の公平・正義を追求し、人々の生活を改善する」という発展理念と重なると評価しました。
中国はAPECの場を通じて、住民所得の向上や中小企業の産業クラスター形成を支援するイニシアチブを進める考えを示し、アジア太平洋経済の「普遍的で包摂的な発展」に貢献したいとしています。
中国の改革開放とAPEC 2026への布石
演説の後半では、中国の改革開放とアジア太平洋との関係に話題を広げました。習主席は、改革開放を「中国と世界が共に発展し進歩する歴史的プロセス」と位置づけ、今後もこの流れを加速させる方針を示しました。
数カ月前に開かれた中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議では、高水準の社会主義市場経済の構築、高品質な経済発展、高水準の対外開放、人々の生活水準の向上、「美しい中国」の建設などに関わる300を超える重要な改革措置が打ち出されたと説明しています。
こうした改革を通じて、中国のさらなる発展はアジア太平洋地域や世界全体に新たな機会を提供すると強調しました。
また、中国は2026年にAPECを主催する予定であり、各エコノミーと協力してアジア太平洋の協力を一段と深め、人々により多くの利益をもたらしたいと述べました。
習主席は、中国の古典にある「自ら立ち、また人を立てる」という言葉や、ラテンアメリカの「真に自国の利益を高める唯一の方法は、寛大に世界に開かれることだ」という言葉を引用しつつ、中国の発展という「エクスプレス列車」に各国が乗り込み、平和的発展と互恵協力、共同繁栄を特徴とする世界的な現代化に共に貢献しようと呼びかけました。
アジア太平洋の行方を考えるための3つの視点
リマAPECで示されたこのメッセージは、アジア太平洋の将来を考えるうえで、今も重要なヒントを与えてくれます。特に次の3つの視点は、アジア太平洋に関心を持つ私たちにとっても無関係ではありません。
- 通商ルールの行方:FTAAPやデジタル・グリーン分野の協定づくりが、今後の地域経済の「ルール」をどう形作っていくのか。
- テックとデータの協力:AIや越境データ流通、サプライチェーンのデジタル化など、新しい協力分野がどのようなビジネスや働き方を生み出すのか。
- 包摂と格差の問題:非公式経済から公式経済への移行支援や中小企業のクラスター形成などは、格差の是正や社会の安定にどうつながるのか。
APECの歩みは、アジア太平洋を世界でもっともダイナミックな地域、そして世界経済の主要な成長エンジンへと押し上げてきました。その次のステージをどう描くのか――リマでの習主席の演説は、その問いを投げかけています。読者のみなさんは、「開放」「グリーン」「包摂」という3つのキーワードを、自分の仕事や生活とどう結びつけて考えるでしょうか。
Reference(s):
Full text of Xi's speech at 31st APEC Economic Leaders' Meeting
cgtn.com








