韓国・尹錫悦大統領への逮捕失敗、その後に何が起きるのか
韓国で初めて現職大統領に逮捕令状が出されるという異例の事態のなか、高位公職者犯罪捜査処(CIO)が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の身柄確保に失敗しました。緊迫した対峙の後、韓国政治と司法の行方に国内外の注目が集まっています。
大統領官邸で何が起きたのか
CIOは、ソウルの裁判所が発付した逮捕令状に基づき、金曜日の朝、ソウル中心部の大統領官邸に入り、尹大統領の逮捕を試みました。令状は火曜日に出されており、現職大統領への逮捕令状は韓国の現代史で初めてとされています。
捜査官らは午前7時21分ごろ官邸周辺に到着し、警察などによる複数の警戒線を突破して、約40分後には官邸の正門に到達しました。その後も兵士や大統領警護班の隊列をかいくぐり、最終の警護線まで進みましたが、約5時間半にわたるにらみ合いの末、逮捕手続きの続行を断念しました。
CIOは午後1時30分ごろ、現場の捜査官の安全を理由に執行中止を決定したと説明し、法的手続きに応じようとしない尹大統領の姿勢に「深い遺憾」を表明しました。現場では兵士や警護要員とのもみ合いも発生しましたが、けが人は確認されていません。
背景にある「戒厳」と弾劾
今回の逮捕令状は、尹大統領が「内乱」の首謀者の疑いで捜査対象となっていることに関連しています。尹氏は12月3日の夜に戒厳令を宣言しましたが、その数時間後、国会がこれを無効化しました。
その後、国会は12月14日に尹大統領に対する弾劾訴追案を可決し、憲法裁判所に付託しました。憲法裁判所は最大180日間かけて弾劾の是非を審理することができ、その間、大統領としての権限は停止されています。
このため、尹大統領は形式上は「在任中」でありながら、職務権限が停止された状態で逮捕令状の対象となる、極めて異例の局面にあります。
短期的には何が起きるのか
まず焦点となるのは、逮捕令状の今後の扱いです。令状は発付から1週間、次の月曜日まで有効とされており、その間にCIOがどのような「次の一手」を打つのかが注目されています。
CIOは、今回の執行中止について「今後の対応は関係機関との協議と検討の上で決定する」としています。考えられるシナリオとしては、例えば次のようなものがあります。
- 大統領警護班や軍当局との調整を進め、より安全な条件を整えたうえで、再度の逮捕試行を検討する
- 警護側が物理的に逮捕を阻めば「司法妨害」にあたるとの立場を改めて示し、警告と協議を通じて自発的な協力を促す
- 令状の有効期限内に執行が困難な場合、追加の法的措置や新たな令状請求の是非を検討する
現場周辺には約2,700人の機動隊員が動員されていたとされ、今後も安全確保と緊張緩和の両立が課題となります。
弾劾審理という「もう一つの戦場」
逮捕の成否とは別に、尹大統領の政治的な命運を左右するのが、憲法裁判所での弾劾審理です。弾劾訴追案はすでに憲法裁判所に送られており、最大180日に及ぶ審理が続くことになります。
憲法裁判所は、戒厳令の宣言やその後の対応が憲法や法律に違反していたかどうか、また大統領としての職務遂行に重大な瑕疵があったかどうかを中心に判断するとみられます。その結論次第で、尹氏が罷免されるのか、それとも権限を回復して職務に復帰するのかが決まります。
一方で、刑事捜査はCIOに加え、警察庁の捜査部門や国防部の捜査本部も加わる合同捜査体制で進められており、弾劾審理と並行して事実関係の解明が進むことになります。
韓国社会と民主主義への影響
現職大統領への逮捕令状発付と、その執行をめぐる対立は、韓国の民主主義と法の支配のあり方を問い直す出来事です。戒厳令の発動とその撤回、弾劾、逮捕令状という一連のプロセスは、行政権・立法権・司法権のバランスが試される局面とも言えます。
今後、与野党の政治攻防や市民社会の反応によって、事態はさらに緊迫する可能性もありますが、鍵を握るのは次の3点です。
- CIOが令状の有効期限内にどこまで踏み込んだ対応を取るのか
- 大統領警護体制や軍が法執行機関との関係をどのように整理するのか
- 憲法裁判所が弾劾審理でどのような基準と判断を示すのか
韓国政治は、権力行使の限界と責任をめぐる重要な分岐点に立っています。今後の一歩一歩が、同国の民主主義の質を左右することになりそうです。
Reference(s):
What happens next after S. Korean investigators fail to arrest Yoon?
cgtn.com








