カナダ・トルドー首相が辞任表明 トランプ次期大統領の関税圧力と国内不満
カナダのジャスティン・トルドー首相が、約9年続いた政権に幕を下ろす辞任表明を行いました。米国との関税対立が続く中での決断は、カナダ政治と北米経済に大きな影響を与えそうです。この国際ニュースを日本語で整理し、今後の焦点を見ていきます。
トルドー首相、辞任を電撃表明
今週、トルドー首相は首相公邸のリドー・コテージ前で演説し、今後数カ月のうちに辞任する意向を明らかにしました。ただしすぐに退くのではなく、与党・自由党が新しい党首を選出するまで、首相兼党首として続投するとしています。
首相は同時に、連邦議会を来年3月24日まで「プログ(休会)」すると発表しました。プログとは、会期を一旦終わらせて審議を止める手続きで、新体制づくりに集中する狙いがあるとみられます。
この日、トルドー首相は次のように語りました。
- 「この国が次の総選挙で、本当の選択肢を持つことが重要だ」
- 「私は戦いから逃げる人間ではないが、党内の内紛を抱えたままでは、次の選挙で最善の選択肢にはなれないことが明らかになった」
背景にある支持率低下と生活コスト高
トルドー首相は現在53歳。2015年11月に首相に就任し、カナダでは比較的長期政権の一つとなりました。しかし人気はここ2年ほどで大きく揺らぎ、物価上昇と住宅価格高騰が有権者の強い不満につながっています。
とくに、食料品や家賃の値上がりが続く「ポスト・コロナ期」の生活コスト高は、都市部の若い世代や中間層に重くのしかかりました。国際ニュースとしても繰り返し報じられてきた「住宅難」は、カナダ国内政治の最重要テーマの一つになっています。
最新の世論調査でも、自由党の苦境がはっきりと数字に表れています。12月22日に公表されたイプソス・カナダの調査では、次のような結果が示されました。
- 保守党:支持率45%
- 自由党:支持率20%
- 新民主党(中道左派):支持率20%
このまま選挙に突入すれば、保守党の圧勝と自由党の大敗は避けがたいとの見方が広がっています。こうした空気の中で、自由党の議員たちからは「党を立て直すには首相交代が必要だ」との声が公然と上がり、最近では財務相が辞任し、政権の支持回復策を「有権者向けの政治的なパフォーマンスだ」と批判していました。
トランプ次期大統領の関税発言と「51番目の州」論
トルドー首相の辞任表明は、米国との関税問題が再燃するタイミングとも重なっています。米国のドナルド・トランプ次期大統領は、1月20日に就任する予定で、それまでに新たな通商・関税方針の議論が進むとみられています。
トランプ氏は以前から、米加貿易をめぐり次のような主張を繰り返してきました。
- 就任後、カナダからの全輸入品に一律25%の関税を課す可能性
- カナダが関税を免れる方法として、「米国の51番目の州になる」という挑発的な提案
昨年11月、トランプ氏は自身の別荘・マール・ア・ラゴでの会談の場でも、トルドー首相に対し「カナダは米国の一部になるべきだ」と伝えたとされています。さらに12月8日に放映された米NBCのインタビューでも、米国がカナダとの貿易収支で不利な立場にあると主張し、「それならカナダを米国の州にしてしまうという選択肢もある」といった趣旨の発言を繰り返しました。
トルドー首相の辞任表明を受け、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、カナダが米国との貿易黒字と政府補助金に依存していると批判したうえで、「トルドーはそれを理解して辞任した」と主張しました。
こうした発言は、現時点で具体的な政策提案というより、国内支持層向けの強硬姿勢のアピールとみる見方もあります。ただ、関税が実際に発動されれば北米経済全体に波及するため、市場や企業は神経をとがらせています。
ビジネス界と各州の危機感
米国との関税をめぐる対立と、自由党内の混乱は、カナダのビジネス界や各州政府にとっても大きな懸念材料です。とくに米国と経済的な結び付きが強い製造業や自動車産業、資源関連企業にとって、追加関税は直接的な打撃となりかねません。
10の州を抱えるカナダでは、州政府トップである「プレミア(州首相)」たちからも、連邦政府に対して早急な対応を求める声が上がっています。最大人口を持つオンタリオ州のダグ・フォード州首相は、次のようにコメントしました。
「この重要な局面で、カナダは安定と強さを世界に示す必要があります。連邦政府は、壊滅的な影響を与えかねない関税をいかに回避するのか、その戦略を国民に早急に説明しなければなりません。」
企業経営者や投資家の間では、「党内の権力闘争ではなく、対米交渉と国内経済対策に政治のエネルギーを集中してほしい」という声が広がっています。
今後のスケジュールと政治の焦点
今回の動きによって、カナダ政治のカレンダーは大きく組み替えられました。現時点で見えているポイントを整理すると、次のようになります。
- トルドー首相は、自由党が新党首を選出するまで首相職を継続
- 連邦議会は来年3月24日まで休会
- 総選挙は制度上、来年10月20日までに実施する必要がある
- 議会再開と党首選の日程を考えると、総選挙は早くても5月以降との見方が有力
つまり、トルドー首相はしばらくの間、首相としての権限を維持したまま、トランプ次期大統領による関税の脅しや通商交渉の最初の局面に対応することになります。国内の政治空白を最小限にとどめつつ、対外的には強い交渉力を示せるのかが焦点です。
カナダ政治はどこへ向かうのか
今回の辞任表明は、単に一人の首相交代ではなく、カナダ社会が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。
- 生活コスト高と住宅不足という国内問題に、どの政党が説得力ある解決策を示せるのか
- 米国との関税・通商をめぐる駆け引きの中で、カナダはどのように自国の利益と主権を守るのか
- 政権与党の自由党は、世代交代と路線見直しを通じて信頼回復ができるのか
トルドー首相は、辞任を決断した理由について「カナダへの愛が私を動かしてきた」と語りました。その言葉が単なる美辞麗句に終わるのか、それとも次のリーダーにつながる「バトン」となるのかは、これから数カ月の自由党党首選と、来年の総選挙で試されることになります。
今回のカナダの動きは、日本を含む各国にとっても「物価高と政治」「安全保障と通商交渉」「リーダー交代と政権の安定」という共通のテーマを考える材料になりそうです。国際ニュースを日本語で追いながら、自分たちの社会のあり方も静かに見直してみるタイミングと言えるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com







