トランプ捜査のジャック・スミス特別検察官が辞任 米国政治の行方は
米国でドナルド・トランプ次期大統領の刑事責任を問うた連邦捜査を率いてきたジャック・スミス特別検察官が、米司法省を辞任しました。2020年大統領選の結果覆しや機密文書の持ち出しを巡る訴追が取り下げられるなか、この辞任は法の支配と政治の関係にどんな問いを投げかけているのでしょうか。
スミス特別検察官とはどんな人物か
ジャック・スミス氏は、米司法省が任命する特別検察官として、トランプ氏に関する2つの連邦刑事事件を担当してきました。以前は戦争犯罪の検察官として国際的な事件の捜査に関わってきた経歴を持ち、政治から一定の距離を置いた独立した立場での捜査が期待されていました。
裁判所文書で明らかになった辞任のタイミング
スミス氏の辞任は、フロリダ州にある連邦地裁のアイリーン・キャノン判事宛てに提出された裁判所文書から明らかになりました。この文書でスミス氏側は、トランプ氏の機密文書事件を担当してきたキャノン判事に対し、自身の最終報告書の公表を差し止めている命令を解除するよう求めています。
文書の脚注には、スミス氏が1月7日に司法長官に対し最終の機密報告書を提出し、1月10日付で米司法省から離任したと記されていました。つまり、特別検察官としての主要な仕事はすでに完了しており、そのうえで正式に職を離れたことになります。
止まった2つの連邦刑事事件
スミス氏は、トランプ氏が大統領を離れた後に直面した4件の刑事事件のうち、連邦レベルの2件を担当しました。ひとつは2020年大統領選の結果を覆そうとしたとされる行為を巡る事件、もうひとつは退任後も機密文書を不正に保管していたとされる事件です。
しかし、これら2件の訴追は、相次ぐ司法判断によって事実上ストップしました。フロリダ州のトランプ氏任命の連邦判事が機密文書事件を棄却したうえ、連邦最高裁は元大統領には公的な行為について広範な免責が認められるとの判断を示しました。この最高裁の判断には、トランプ氏が任命した判事3人も加わっており、その公正さを巡って議論を呼びました。その結果、いずれの事件も公判に至ることはありませんでした。
なぜ訴追は取り下げられたのか
昨年11月5日の大統領選で、トランプ氏は民主党のカマラ・ハリス副大統領を破り、次期大統領の地位を得ました。その後、スミス氏は両方の連邦事件について、訴追の取り下げを裁判所に求めました。理由として挙げられたのは、現職大統領を刑事訴追しないという米司法省内の長年の慣行です。
取り下げを求める文書の中で、スミス氏のチームは、それまでに起こしていた訴因の法的な正当性をあらためて擁護しており、事件の中身が弱まったからやめるわけではないと示唆しました。そのうえで、トランプ氏のホワイトハウス復帰が確実視されるなかでは、訴追を続けることが現実的ではないと説明しています。
崩れつつあるトランプ氏の刑事リスク
スミス氏の辞任は、トランプ氏をめぐる一連の刑事事件が大きくしぼみつつあることを象徴する出来事でもあります。連邦レベルの2件が事実上立件不能になったことで、当時、就任を控えていたトランプ氏が刑事責任を問われないまま終わる可能性が高いとの見方が強まりました。
こうした捜査と訴追は、トランプ氏の支持層の間で強い反発も呼び、政治的な攻撃だとする見方が広がりました。その怒りが、選挙での巻き返しにつながったとみる分析もあります。スミス氏の退任は、その一連の攻防がひとまず終わりを迎えつつあることを示す節目とも言えます。
トランプ氏の反応と司法への影響
スミス氏の辞任自体は、ある程度予想されていた動きでもありました。トランプ氏はこれまでも集会やSNSでスミス氏を激しく批判し、大統領就任の日である1月20日にただちに解任すると公言していました。さらに、スミス氏や自らを捜査した関係者に対して報復を示唆する発言も繰り返しており、政権移行後の司法の独立性に懸念を抱く声も出ています。
他の事件はどうなっているのか
トランプ氏は2023年、現職あるいは元職として初めて刑事訴追された米大統領となりました。最初の事件はニューヨーク州でのもので、2016年の大統領選挙中にアダルト映画女優への口止め料の支払いを隠そうとした疑いでした。
その後に続いたのが、スミス氏による2つの連邦事件です。ひとつは、退任後も機密指定された文書をフロリダ州の自宅などに保管していたとされる事件。もうひとつは、2020年の選挙結果を覆そうとする一連の行動に関する事件で、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃につながったとされる選挙妨害の試みが焦点となっていました。
加えて、ジョージア州の検察も、同州での選挙結果を変えようとした疑いでトランプ氏を起訴しました。スミス氏の辞任と連邦事件の行方が注目される一方で、州レベルの訴追が今後どのように扱われるのかも、大きな論点として残っています。
何が問われているのか──日本から見る視点
今回のスミス氏の辞任は、ひとりの検察官の去就にとどまらず、民主主義と法の関係をどう考えるかという問いを投げかけています。日本から米国の国際ニュースを追ううえで、次のような視点が手がかりになりそうです。
- 特別検察官という仕組みが担う役割と、その限界
- 現職大統領を起訴しないという慣行の是非
- 最高裁判決など司法判断が政治に与える影響
- 刑事訴追がかえって政治的支持を強めてしまうリスク
米国政治は、日本を含む世界経済や安全保障にも大きな影響を与えます。トランプ氏と司法をめぐる攻防は、一見すると米国内の話題に見えますが、法の支配や権力者の責任のあり方について、私たち自身の社会を振り返るヒントにもなりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








