米ウクライナ鉱物協定は成立するか レアアースと戦後復興をめぐる駆け引き
米ウクライナ鉱物協定は成立するか レアアースと戦後復興をめぐる駆け引き
米国とウクライナが、レアアースなどの鉱物資源の収益分配を巡る協定の交渉を続けています。トランプ米大統領は合意が「かなり近い」と強調する一方で、ウクライナ側は安全保障上の保証や条件の一方的な内容に強い懸念を示しており、合意成立はなお不透明です。
「安全保障の保証なき」協定案にウクライナが難色
トランプ大統領は土曜日、ウクライナのレアアース(希土類)やその他の天然資源から得られる収益を米国と分け合う協定について、「かなり合意に近づいている」と発言しました。この枠組みは、ロシアとの紛争終結に向けた取り組みの一環とされています。
しかし、関係筋は、現在の草案はゼレンスキー大統領が受け入れられる内容ではないとの見方を示しています。ある交渉関係者は米CNNに対し、「戦争被害を受けている国から、防衛費にかかるコスト以上のものを奪おうとする奇妙な提案だ」と語りました。
ウクライナ国営放送ススピルネによると、文書作りの作業は一晩中続いたものの、肝心の「安全保障の保証」を巡る調整が難航し、前進が止まっているといいます。
ゼレンスキー大統領はこれまで、トランプ政権が過去3年間の支援への「返済」として、総額5000億ドル相当の鉱物資源を求めていることを拒否してきました。米国側から具体的な安全保障上の約束が示されていないためです。
それでも同大統領は、ウクライナと米国双方のチームが協定に向けた作業を続けていることを認めています。現在の案では、グラファイト(黒鉛)、ウラン、チタン、そして電気自動車のバッテリーに不可欠なリチウムなど、ウクライナの「重要鉱物」の50%を米国が取得する構想だとされています。
交渉関係者は、現行案が「米国側の義務をほとんど規定していない一方で、ウクライナにはほぼ全てを差し出すことを求めている」ため、ウクライナ側は修正を求めていると明かしました。
なぜ米国はウクライナのレアアースにこだわるのか
今回の鉱物協定が国際ニュースとして注目される背景には、レアアースの地政学的重要性があります。レアアースは17種類の元素の総称で、スマートフォンやハードディスク、電気自動車やハイブリッド車など、幅広い先端技術製品に欠かせません。
米政府高官は、もし米ウクライナ鉱物協定が成立すれば、米国の中国への依存度を下げることにつながると説明しています。この高官はCNNに対し、「協定案は米国に財政的な保証を与えると同時に、そのことがウクライナに対する安全保障上の保証にもなる」と述べました。
遼寧大学ロシア・東欧・中央アジア研究センターの崔征所長も、こうした見方に同調しています。崔氏は、中国が世界のレアアース供給網で支配的な地位を持ち、米国がレアアースなど重要鉱物の輸入に大きく依存している現状を指摘します。近年、中国はレアアース輸出の管理を徐々に強化しており、米国の防衛およびハイテク産業で供給途絶への懸念が高まっているといいます。
崔氏は、米ウクライナ鉱物協定の構想について、「米国の財政負担を和らげると同時に、ウクライナ支援を経済的な利益へと転換し得る」と説明します。紛争終結後も続く鉱物開発権を通じて、米国は長期的な利益を確保できる可能性があるからです。さらに、「米軍需産業に必要な原材料の確保にもつながる」と指摘しました。
崔氏は、この鉱物協定がロシア・ウクライナ紛争の解決プロセスの中に米国の利害を深く組み込むことになり、今後のロシアとの交渉において米国の「切り札」を増やす効果もあると分析しています。
ウクライナのジレンマ:支援継続か資源保全か
ウクライナは当初、鉱物協定案を直接的に拒否していましたが、現在は米国との協議に応じる姿勢へと軟化しています。崔氏によると、その背景には米国からの圧力があるとされます。
サウジアラビアで行われた米露和平協議や、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の対立をめぐる動きも含め、米国はウクライナに対し、鉱物協定を受け入れなければ紛争終結後の対ウクライナ支援の継続に影響が出かねないとほのめかしているといいます。
崔氏は、この動きにより「ウクライナの戦後復興ニーズが資源開発と結びつけられ、同国は長期的な国益とのバランスを取らざるを得なくなっている」と指摘します。ウクライナの立場の変化は、米国による支配割合の上限設定など協定条件の見直しや、米国が約束した短期的な支援の到着などが影響している可能性もあるといいます。
米クリストファー・ニューポート大学の孫泰宜准教授は、ウクライナの選択肢の少なさを強調します。同氏は、米国の支援と欧州各国の追加的なコミットメントなしには、戦争の継続が困難となり、ウクライナが過去3年間に払ってきた犠牲が無駄になりかねないと指摘。そのうえで、「たとえ大幅な譲歩を伴うとしても、米国から意味のある約束やコミットメントを引き出すことは、何の合意も得られないよりは好ましい」と述べています。
さらに孫氏は、米国にレアアースへのアクセスを認めることは、資源をロシアに奪われるよりも望ましいとの見方を示しました。米国の支援なしには、ウクライナがこれら資源の支配権をロシアに奪われる可能性があるためです。
埋蔵量の不確実性と欧州の警戒
交渉が続く一方で、ウクライナの鉱物資源の実態そのものにも疑問が呈されています。ウクライナ地質調査所の元総裁ロマン・オピマフ氏は、国内のレアアース埋蔵量について「現代的な評価が存在せず、推計はソ連時代の古い調査に基づいている」と指摘しました。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のグレースリン・バスカラン氏も英紙フィナンシャル・タイムズに、「データは古く、何がどれだけ存在するのかについて分かっていることは非常に少ない」と語っています。つまり、前提となる資源量自体がはっきりしないまま、大きな経済・安全保障上の取引が議論されている状況です。
欧州諸国も、この鉱物協定によって米国が資源を独占的に押さえ、自らの利益が脇に追いやられることを懸念していると崔氏は述べています。同氏は、協定が締結された場合、欧州連合(EU)がウクライナからの資源輸出を制限する法律を制定し、協定の実効性を弱めようとする可能性もあると指摘しました。
署名は近いのか:残された論点
トランプ大統領は合意が近いと示唆し、ウクライナと米国の実務チームも協議を続けています。しかし、
- ウクライナが求める具体的な安全保障の保証
- 米国が取得する鉱物資源の割合や対価の在り方
- 米国側の義務や長期的なコミットメントをどう明文化するか
- 不確実な埋蔵量評価と、それに基づくリスクの配分
- 欧州の利害や規制動向をどう織り込むか
といった論点は、いずれも解決には時間がかかるテーマです。
ウクライナにとっては、戦争継続と戦後復興に不可欠な米欧の支援を確保しつつ、自国の戦略的資源をどこまで差し出すのかという難しい判断が迫られています。一方、米国にとっては、レアアース供給の多様化と財政負担の軽減、さらにはロシアとの交渉力強化という複数の思惑が絡み合っています。
米ウクライナ鉱物協定が近く署名されるのか、それとも条件見直しや第三者(欧州など)を巻き込んだ再交渉に向かうのか。交渉の行方は、ウクライナの戦後復興だけでなく、世界の資源・安全保障バランスにも静かな影響を及ぼしそうです。
Reference(s):
Prospects of the U.S.-Ukraine minerals deal: Will it be signed soon?
cgtn.com








