マーク・カーニーがカナダ自由党新党首に トルドー後継の次期首相へ
カナダの与党・自由党の党首選で、元中央銀行総裁のマーク・カーニー氏(59)が圧勝し、ジャスティン・トルドー氏の後任として次期首相に就任する見通しとなりました。米国との貿易戦争が激しさを増し、早期の総選挙も迫る中での指導者交代は、国際ニュースとしても大きな意味を持ちます。
自由党党首選でカーニー氏が圧勝
公式発表によると、カーニー氏は党員投票で有効票の86%を獲得し、約15万2,000人が投票した党首選で、クリスティア・フリーランド前財務相を大差で破りました。結果は日曜日に公表されました。
カーニー氏が率いる自由党は現在、長年の同盟国である米国との貿易戦争のただ中にあり、近く実施される総選挙にも備えなければなりません。そうした「荒れた海」で舵を取る役割を担うのが、今回選出された新党首です。
トルドー退任の背景と与党の危機
トルドー氏は、9年以上にわたる政権運営の中で支持率が急落したことを受け、今年1月に退任の意向を表明していました。これにより自由党は、後継を早急に決めるためのスピード党首選を余儀なくされました。
2025年初めの時点で、自由党は世論調査で20ポイント以上も野党・保守党にリードを許し、「このままでは政権が消滅しかねない」とまで言われていました。しかし、カーニー氏の登場と対米関係の緊張が重なったことで、状況は徐々に変わります。
現在の複数の世論調査では、ピエール・ポワリエーヴル氏が率いる公式野党・保守党と自由党の支持率は、統計上ほぼ互角とされています。
「政治の素人」が初の首相へ
カーニー氏は、カナダとイングランドという2つの主要7カ国(G7)の中央銀行総裁を務めた経歴を持つエコノミストです。一方で、選挙で選ばれた職に就いた経験はなく、「本格的な政治経験のない人物が首相になるのは初めて」とも指摘されています。
本人は党首選の中で、「2つのG7中央銀行を率いた経験が、トランプ米大統領との交渉や経済運営に生かせる」と強調し、自らが最適な候補だと訴えてきました。党内から最も多くの支持表明を集めた本命候補が、そのまま勝利した形です。
米国との貿易戦争と対トランプ戦略
カナダは現在、ドナルド・トランプ米大統領の下での米国と、貿易をめぐる深刻な対立に直面しています。トランプ氏は、カナダの輸出依存型の経済を揺るがしかねない追加関税を繰り返しちらつかせており、両国関係は緊張をはらんだ状態が続いています。
こうした中でカーニー氏は、自身が米国との通商交渉を指揮するのに最もふさわしいと主張してきました。選挙戦では、次のような方針を掲げています。
- 米国が関税を引き上げれば、同じ規模で報復関税を課す「ドル・フォー・ドル」(1ドルの関税には1ドルで返す)の方針
- 官民が連携して投資を押し上げる協調的な投資戦略
また、トルドー政権のもとでの経済成長は「十分とは言えない」と繰り返し批判し、現状維持からの脱却を訴えました。
さらに、トランプ氏がカナダを「米国の51番目の州として併合してやる」といった挑発的な発言を繰り返し、強硬な関税措置と相まって、カナダ国内では対外的な圧力に対抗するために国内で結束すべきだという空気が強まったとされています。
「国旗の下に団結」世論の変化
日曜日には、首都オタワの連邦議会議事堂前で抗議デモが行われ、数十人のカナダ人がトランプ氏に抗議するプラカードを掲げました。国内政治への批判よりも、対米姿勢への怒りを前面に出したデモだったと伝えられています。
ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の政治学者、リチャード・ジョンストン氏は、こうした状況を「1年前には予想できなかった『国旗の下に団結する』瞬間が起きている」と表現し、「このタイミングで自由党は、消滅の危機から救われたと言っていいだろう」と分析しています。
カーニー氏による新しい出発への期待と、トランプ政権の強硬な通商政策が重なったことで、自由党の支持は短期間で大きく回復した形です。
迫る総選挙と少数政権の可能性
自由党関係者によると、カーニー氏は数週間以内に総選挙を実施する方針だとされています。法律上、総選挙は10月20日までに実施しなければならないとされていますが、複数の世論調査は、自由党と保守党のいずれも単独過半数には届かない可能性が高いと示しています。
その場合、どちらの党が第1党になるにせよ、他党の協力を得ながら政策を進める少数政権や、複数政党による連立政権が現実味を帯びます。政治的な安定と、対米交渉での一貫性をどう両立させるかが今後の焦点となりそうです。
議席ゼロから出発する異例の首相
法的には、カーニー氏は連邦下院に議席を持たなくても首相を務めることができます。しかし、カナダの政治慣行では、首相はできるだけ早く下院議席を獲得するのが通例です。
1984年には、ジョン・ターナー氏が自由党党首選に勝利した時点では下院議員ではなかったにもかかわらず首相に就任した例があります。カーニー氏も同様に、何らかの形で議席を得ることが求められるとみられます。
日本から見たカナダ政局の意味
今回のカナダの政権交代劇は、日本にとっても無関係ではありません。カナダは主要7カ国(G7)の一員であり、米国の隣国として北米の貿易と経済を支える重要なパートナーです。
- 米国との貿易戦争の行方は、世界のサプライチェーンやルールに基づく貿易体制に影響を与えかねません。
- 中央銀行出身の指導者がどのように財政・金融政策を組み合わせ、通商交渉に臨むのかは、他の先進国の政策運営にも示唆を与えます。
- 対外的な圧力に直面したとき、有権者はどのようなリーダー像を求めるのかという問いは、日本を含む多くの民主主義国に共通するテーマです。
カーニー氏のもとでカナダ政治がどのように変化し、米国との関係、さらには国際経済にどのような影響を及ぼしていくのか。今後も注視しておきたい動きです。
最後に、要点を整理すると次のとおりです。
- 元中央銀行総裁のマーク・カーニー氏が自由党党首選で圧勝し、トルドー氏の後任となる見通し
- 米トランプ政権との貿易戦争と「51番目の州」発言が、カナダ国内の結束を強める要因に
- 自由党は支持率低迷から一転し、保守党と拮抗するまでに回復
- ただし総選挙後も単独過半数は見込み薄で、少数政権や連立政権の可能性が高い
- 議席を持たない首相という異例のスタートが、カナダ政治の行方をさらに不透明にしている
Reference(s):
cgtn.com








