国連、ガザ人道危機は戦闘開始以来最悪と警告 封鎖と治安崩壊が深刻化
国連の人道機関は、空爆や封鎖、治安の崩壊が重なるガザ地区の状況について、2023年10月の戦闘開始以来、最悪の人道危機にあると警告しました。本記事では、その主なポイントを日本語で整理します。
国連「開戦以来最悪の人道状況」と警告
国連人道問題調整事務所(OCHA)は、ガザ地区の人道状況を「壊滅的」であり、2023年10月に戦闘が始まって以来、最も深刻だと表現しました。空爆、栄養失調、大規模な避難、治安の崩壊が重なり合い、220万人超の住民が深刻な支援ニーズを抱えているとしています。
OCHAによると、戦闘開始から約80日が経過した時点で、イスラエルによる物資の全面封鎖が続き、人道ニーズは「爆発的」に増加しました。現在ガザに入っている援助物資の量は、ごく限られたものにとどまり、住民全体を支えるには程遠いと指摘しています。
報告によれば、ある木曜日には、国連と人道支援団体が用意した支援物資を載せたトラック5台が、ケレム・シャローム/カレム・アブ・サレム検問所を通じてガザ地区に入ることができました。しかし、同じ検問所から出発しようとしていた別の60台は、周辺での激しい戦闘のため引き返さざるを得なかったといいます。
国連事務総長報道官ステファヌ・デュジャリック氏は、検問所周辺、とくに中間地帯とされるエリアでは、武装した集団の活動が目立っていると説明しました。5台のトラックにはデイル・アルバラの野戦病院向けの医療物資が積まれていましたが、その多くが翌日に略奪されたと述べています。
封鎖と治安崩壊で支援が届かない構図
OCHAは、約80日にわたる封鎖の結果、ガザでの人道ニーズが急増した一方で、搬入される支援物資の量と種類には厳しい制限がかかっていると指摘しました。国連とそのパートナー団体は、こうした制約と治安上の危険のなかでも、可能な範囲で支援活動を続けています。
報告によると、米国が運営しイスラエルが支援するガザ・ヒューマニタリアン・ファウンデーションも、独自に支援活動を続けていますが、その具体的な活動内容について国連は把握していないとしています。
一方で、現地の治安の崩壊は、人道支援そのものを危険にさらしています。OCHAは、デイル・アルバラの野戦病院の倉庫が武装した集団に襲撃され、大量の医療機器や医薬品、栄養補助食品が略奪されたと報告しました。これらは本来、栄養失調の子どもたちのために用意されていたものです。
OCHAは、こうした略奪行為に関わった者の責任を問う必要があるとしたうえで、そもそも人道ニーズを満たし、物資不足を緩和することが、略奪の抑止にもつながると強調しました。そのためには、複数の検問所やルートを通じて、支援物資と商業物資の双方を大幅に増やし、安全に配送できる体制を整えることが不可欠だと訴えています。
医療施設への攻撃と支援団体への被害
医療インフラも危機的な打撃を受けています。OCHAによれば、ガザで最後まで部分的に機能していた病院の一つ、アル・アウダ病院が、数日にわたる繰り返しの攻撃を受け、木曜日に避難を余儀なくされました。その後も、南部のデイル・アルバラやアル・ブレイジ、アン・ヌセイラット難民キャンプ周辺で攻撃が続いたといいます。
同じ週には、ある空爆がジャーナリスト一家の自宅を直撃し、一家の9人が死亡、15人が負傷したと報告されています。民間人への被害が続くなか、国際的な支援団体も犠牲になっています。
ガザで炊き出しや栄養支援を行っていた国際NGO IHHは、2日間で職員5人が死亡し、2人が負傷したと報告しました。OCHAは、一般市民と同様に、人道支援団体のスタッフも常に保護されなければならないと強調しています。
広がる避難と「命をつなぐ移動」
OCHAによると、ガザでは避難が続いており、直近2週間だけで約20万人が新たに住居を追われました。イスラエル当局は木曜日、ガザ北部、ガザ市東部、デイル・アルバラの一部など、ガザ全域の約30%にあたる地域に対して、新たな避難命令を出したとされています。
避難命令は、最北部と最南部の県全域に加え、その間にある3県の東側エリアを広く対象にしてきました。しかしOCHAのパートナー団体によると、最近確認されている住民の移動は、必ずしも避難命令に従ったものではなく、多くが食料や生活必需品を求めての移動だということです。
ガザ市では、住居を失った人びとの緊急ニーズに対応するため、OCHAのパートナー団体が試験的な取り組みとして、45戸分の緊急シェルター・キット(応急的な居住用セット)を配布しました。限られた資源を持ち寄り、最も厳しい状況にある世帯から支援を始める試みだと説明されています。
国連の要求: 封鎖解除と公的秩序の回復
OCHAは声明で、ガザにおける公共の秩序と安全の回復について、イスラエルが「占領勢力」として一次的な責任を負っていると指摘し、それを最優先課題とするよう求めました。そのうえで、法執行基準に基づいて活動できる民間警察をガザで機能させる必要性にも言及しています。
またOCHAは、「犯罪的な略奪は、法にのっとった手段で断固として止められなければならない」としたうえで、ガザに対する封鎖の全面解除と、広範な貧困と欠乏の根本原因に取り組む必要性を改めて強調しました。人道支援が安全かつ妨げられることなく届けられる環境の確保は、国際社会全体の責務だと訴えています。
ヨルダン川西岸でも高まる緊張
OCHAは、ガザの陰で見えにくくなっているヨルダン川西岸の状況にも注意を呼びかけています。報告によれば、イスラエル人入植者による暴力は増加傾向にあり、これまでに220人以上のパレスチナ人が負傷しました。月平均にすると約44人で、少なくとも過去20年で最高の水準だとされています。
こうした攻撃に加え、4つ目の入植地前哨基地が建設されたことなどを受けて、マガイヤル・アド・ディールに暮らしていたベドウィン系住民約120人の共同体が、強制的に退去させられたといいます。
さらに、ヨルダン川西岸北部サルフィト県では、イスラエル当局による移動制限が続き、およそ9万人の住民の医療・教育・生計手段へのアクセスが妨げられているとOCHAは指摘しました。9日間にわたる治安作戦に続いて導入されたこれらの制限により、住民は大きく遠回りを強いられ、交通費の増大や日常生活の混乱が生じているということです。
OCHAは、こうした状況のなかでも、市民の基本的なニーズが満たされるよう、安全で妨げられないかたちで重要なサービスにアクセスできることが不可欠だと訴えています。
読み手として押さえておきたい視点
今回の国連報告は、ガザとヨルダン川西岸で進む人道危機を、多角的に映し出しています。ニュースを追う私たちが意識しておきたいポイントを、最後に3つに絞って整理します。
- 人道支援へのアクセス:トラック5台分の支援物資がようやく搬入される一方で、60台が引き返しを強いられる現実は、封鎖と治安悪化が支援のボトルネックになっていることを示しています。
- 治安の空白が生むリスク:病院倉庫や支援物資が略奪される事態は、公的な治安の枠組みが崩れたとき、最も弱い立場にある人びとが大きな代償を払うことを物語っています。
- ガザと西岸を結ぶ視点:注目が集まりやすいガザだけでなく、ヨルダン川西岸でも暴力と移動制限が強まり、生活基盤が揺らいでいることが、数字と具体的な事例から浮かび上がっています。
国際ニュースを日本語で追う読者として、現地の状況を一面的に捉えず、「誰の生活が、どのようなかたちで脅かされているのか」という問いを持ち続けることが、遠く離れた私たちにできる第一歩と言えそうです。
Reference(s):
UN says Gaza humanitarian situation worst since beginning of war
cgtn.com








