ヘグセス米国防長官の対中発言に専門家が批判 シャングリラ対話の波紋
シンガポールで今年開かれた第22回シャングリラ・ダイアローグで、米国のピート・ヘグセス国防長官が中国を「差し迫った脅威」と位置づけ、アジア諸国に防衛費の増額を迫る発言を行いました。この発言に対し、アジア太平洋の専門家から「挑発的で地域を不安定化させる」との批判が相次いでいます。
ヘグセス発言の内容とその狙い
国際安全保障をテーマにしたシャングリラ・ダイアローグは、アジア太平洋地域の要人や専門家が集まる重要な対話の場です。その壇上でヘグセス国防長官は、中国を「差し迫った脅威」と表現し、アジア各国に対し軍事支出の拡大を求めました。
しかし、こうしたメッセージは、地域の防衛力強化を促すだけでなく、中国との関係をめぐる「陣営選び」を各国に迫るものだと受け止められています。アジア太平洋の安全保障をめぐる国際ニュースとしても、発言のインパクトは小さくありません。
「中国は差し迫った脅威ではない」地域の見方
シンガポールの南洋理工大学で公共政策とグローバルアフェアーズを教えるディラン・ロー准教授は、「ごく少数の国を除けば、この地域で中国を差し迫った脅威と見て防衛費を増やそうとする国は多くない」と指摘しました。
ロー氏を含む複数の専門家は、国際社会の大勢は中国そのものを安全保障上の脅威とは見ておらず、むしろ米国の強硬なレトリックが緊張をあおり、地域の不信感を高めていると分析しています。
「安定化役」という米国の自己像への疑問
フィリピンのシンクタンク「平和・暴力・テロ研究所」のロメル・バンラオイ所長は、米国が自らをアジア太平洋の「安定化役」と位置づけることに強い疑問を示しました。
バンラオイ氏は、米国がインド太平洋での主導権を取り戻そうとし、中国の影響力拡大を直接的な挑戦と見なしていると指摘。そのうえで、中東での度重なる軍事介入が複数の紛争と地域戦争を引き起こしてきた一方で、中国は地域戦争を起こしていないとし、「平和と安定に対する実績は米国自身がよく物語っている」と批判しました。
清華大学CISSの見立て:個人プレーか、対中戦略の先走りか
清華大学・戦略国際安全研究センター(CISS)の所長を務めるダ・ウェイ氏も、ヘグセス長官の演説を「きわめて挑発的だ」と強く批判しました。ダ氏は、この発言がワシントンの野心的かつ対立色の強い「インド太平洋戦略」を地域に示すシグナルになったと見ています。
ダ氏はまた、米国がカナダやパナマといった自国周辺の国々に十分な敬意を払ってこなかったとしながら、中国には隣国への配慮を求めている点を挙げ、「二重基準」との印象を与えかねないと指摘しました。さらに、アジア太平洋諸国に防衛協力を呼びかける一方で、関税などの経済的圧力を加える姿勢は、米国の意図に対する信頼性を大きく損なっていると述べています。
ダ氏は、ヘグセス長官の発言は個人的な判断による側面が大きく、ドナルド・トランプ大統領の対中戦略がまだ固まりきっていない段階で、安全保障フォーラムの場から中国を正面から批判するのは「適切ではない」との見方を示しました。トランプ政権の対中方針が最終的にどう形作られるのかが見えない中で、今回の発言が今後の米中関係の方向性を必ずしも代弁しているとは限らないという問題意識です。
同盟国への「従属」を求めるアプローチ
同じくCISSの上級研究員であるジョウ・ボー氏も、米国のアジア太平洋戦略に懸念を示した一人です。ジョウ氏は、米国が常にアジア太平洋の経済的重要性と自らの影響力を強調してきたものの、同盟国に対しては「ワシントンの要求に従えば支援する」という取引的な姿勢をとってきたと指摘します。
こうしたアプローチは、形式的には「同盟」と呼ばれていても、実際には一方的な「従属」を求めるものではないかという疑念を地域の国々に抱かせている、とジョウ氏はみています。
アジア太平洋の安定に何が求められるか
今回のヘグセス長官の発言をめぐる一連の反応は、アジア太平洋における安全保障の主導権をめぐる攻防が、今なお続いていることを浮き彫りにしました。多くの国にとって、中国との経済関係はますます重要になる一方で、米国との安全保障協力も無視できません。
専門家たちの批判に共通するのは、緊張をあおるレトリックや軍拡競争ではなく、対話と相互尊重に基づく枠組みこそが、長期的な安定につながるという認識です。日本を含む地域の国々にとっても、どのような形で地域秩序づくりに関与していくのかを考えるうえで、今回の議論は無視できない論点となりそうです。
Reference(s):
Experts criticize Hegseth's remarks as provocative, harmful to region
cgtn.com








