イギリスが攻撃型原潜を最大12隻へ拡充 「戦時即応体制」構築を急ぐ
イギリス政府が攻撃型原子力潜水艦の艦隊を最大12隻体制に拡充し、防衛戦略の見直しを通じて「戦時即応体制」を整える方針を示しました。2025年12月時点で、欧州の安全保障と防衛産業の行方を占う重要な動きとなっています。
攻撃型原潜を最大12隻に増強へ
イギリス国防省は、現在7隻体制の攻撃型原子力潜水艦(原潜)を、次世代の新型艦に置き換えながら、2030年代後半までに最大12隻まで増やす計画を明らかにしました。これらの原潜は原子力で動きますが、搭載するのは通常兵器であり、核兵器は積まないとされています。
イギリスは、核弾頭を搭載した戦略原潜の艦隊を別に運用しており、その核抑止力の中核となる弾頭についても、新型への更新計画が進んでいます。政府は今回、この新しい核弾頭開発プログラムの費用が150億ユーロ規模になると初めて公表しました。
ジョン・ヒーリー国防相は、最先端の潜水艦が国際水域で警戒にあたり、自国で開発する核弾頭プログラムを進めることで、「国内の安全を守りつつ国外でも存在感を発揮する」と強調しています。
戦略防衛見直しと「戦時即応体制」
今回の発表は、近く公表される戦略防衛見直し(Strategic Defense Review)に先立つものです。この見直しでは、イギリス軍を本格的な戦闘にすぐ対応できる「戦時即応体制」へ移行させることが柱とされ、変化する安全保障環境にどう備えるかが示されます。
政府が示した主な施策は次の通りです。
- 次世代攻撃型原潜の建造と艦隊拡充
- 少なくとも6カ所の兵器・火薬工場の新設
- 各種兵器システムをつなぎ、人工知能(AI)で標的の識別と攻撃を支援する「デジタル・ターゲティング・ウェブ」の構築
- 防御的サイバー作戦を主導し、攻撃的サイバー能力との連携も調整する新組織の設置
- 高度な通信妨害など、敵の通信・指揮統制を乱す技術の強化
- 老朽化した軍人向け住宅の改善を通じた人材の確保・定着と士気の向上
新たな原潜は、イギリス、アメリカ、オーストラリアによる安全保障枠組み「AUKUS」のもとで共同開発されるモデルとなる予定で、海洋での存在感と同盟国との連携を強化する狙いがあります。
欧州の防衛力再構築とトランプ大統領の圧力
キア・スターマー首相は、アメリカのドナルド・トランプ大統領が「欧州は自らの安全保障にもっと責任を負うべきだ」と迫ったことを受け、他の欧州諸国の指導者と同様に、防衛力の立て直しを急いでいます。長年、アメリカの軍事力に依存してきた欧州が、自前の防衛力をどこまで高めるのかが問われています。
スターマー氏は、イギリスの国内総生産(GDP)に対する防衛費の比率を2027年までに2.5%へ引き上げ、長期的には3%を目指すと公約しています。さらに、近代的な軍事力を持つ国家との戦争で「戦い、勝利する」準備を整えなければならないと警鐘を鳴らしてきました。
2025年7月に首相に就任して以来、スターマー氏は戦略防衛見直しの策定を指示し、その過程で弾薬工場、戦場テクノロジー、軍住宅などへの数十億ユーロ規模の投資計画を相次いで打ち出しています。
防衛投資は経済と世論をどう動かすか
イギリス経済は成長の鈍化と財政の厳しさに直面しており、スターマー政権の支持率も低下傾向にあるとされています。こうした中で首相は、防衛費の増額を単なる軍拡ではなく、「雇用と富を生む投資」と位置づけています。
兵器工場やサイバー防衛組織、AI関連の軍事技術などへの投資は、地域経済やハイテク産業の育成にもつながる可能性があります。一方で、限られた財源の中で社会保障や医療、教育とのバランスをどう取るのかという疑問も残ります。
軍人向け住宅の改善に踏み込んだ点は、人材の確保や家族の生活環境を重視する流れとも合致します。戦闘能力だけでなく、「人」と「生活基盤」への投資が即応性につながるという発想が背景にあるといえます。
日本からどう見るか
イギリスの原潜拡充と戦時即応体制への転換は、海洋安全保障やサイバー空間、AIといった新しい領域での競争が激しくなる中、先進国がどのように防衛力と経済を両立させようとしているのかを映し出しています。
日本にとっても、同盟国との連携や抑止力のあり方、そして防衛産業・テクノロジーへの投資をどのように社会全体の利益につなげるかという点で、参考になる論点が多いニュースといえます。今後のイギリスの防衛改革の行方は、欧州だけでなくインド太平洋の安全保障にも静かに影響を及ぼしていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








