トランプ大統領の大統領令連発 米国の三権分立は揺らぐのか
2025年1月20日の就任からわずか4カ月あまりで、ドナルド・トランプ米大統領が150本以上の大統領令に署名したことが、米国の三権分立と行政権の行方をめぐる大きな議論を呼んでいます。本記事では、米国の専門家2人の分析をもとに、「大統領令による統治」がもたらす変化を整理します。
4カ月で150本超 「大統領令による統治」が常態化
米政府の公式記録である連邦官報によると、トランプ大統領は2025年1月20日の就任以来、4カ月強で150本以上の大統領令を発出しました。前任のジョー・バイデン氏が4年間の在任中に署名した大統領令は162本とされており、そのペースの速さが際立ちます。
対象となっているのは、関税や貿易、出生地主義(米国で生まれた人に市民権を与える原則)、移民や国境警備など、米国内外に影響する幅広い分野です。議会での本格的な審議を経ることなく、大統領令を日常的な統治手段として用いるやり方は、一部で「大統領令による統治」とも呼ばれています。
こうした動きをどう見るべきかについて、中国国際テレビの英語ニュースチャンネルCGTNのメールインタビューに対し、ミシガン大学ディアボーン校の政治学者ミッチェル・ソレンバーガー氏と、ジョージタウン大学ロースクールの教授デービッド・スーパー氏が見解を述べています。
歴史的には大統領令自体は珍しくない
ソレンバーガー氏は、まず大統領令という手段自体は新しいものではないと強調します。大統領が行政機関に指示を出す「命令文書」としての大統領令は、初代大統領ジョージ・ワシントンの時代から使われてきました。
さらに、単純に本数だけを比較すると、過去の大統領の方がむしろ多くの大統領令を出していた時期もあります。ソレンバーガー氏が挙げる例は次の通りです。
- フランクリン・ルーズベルトは、1年間に300本を超える大統領令を出した年があり、200本を超える年も複数回あった。
- ハリー・トルーマンも、1945年と1946年にそれぞれ134本、1947年に98本、1948年に100本の大統領令を出している。
このため、ソレンバーガー氏は「長期的なトレンドとして見れば、大統領令の本数はアイゼンハワー以降むしろ減少傾向にあり、歴代大統領の間で増減を繰り返してきただけだ」と指摘します。
焦点は「数」より「中身」と「使い方」
では、なぜトランプ大統領の大統領令が「前例がないほど攻撃的」と評されるのでしょうか。ソレンバーガー氏は、「本当に重要なのは本数ではなく、どのような文脈で、どのような内容の政策を押し出すために使っているかだ」と述べます。
「大統領令を見るときは、量ではなく文脈に目を向けるべきだ。」
同氏によると、歴代の大統領も、ときに物議を醸す大統領令を出してきました。例えば、トルーマン大統領は1952年に国内の製鉄所を政府が接収する大統領令を出し、ジョージ・W・ブッシュ政権は2001年に軍事委員会を創設する大統領令を発しています。
ただし、ソレンバーガー氏は、トランプ大統領の場合は性質が異なると警鐘を鳴らします。関税、移民、国境警備、政府支出削減など、実に多くの政策分野で、大統領権限の「外縁ぎりぎり」まで押し広げる形で命令を連発しているからです。しかも、議会の承認を求めたり、裁判所との法的なせめぎ合いを覚悟して一歩一歩前進させるというより、一気に大きな変更を打ち出す傾向が強いといいます。
ソレンバーガー氏は、「これほど多くの分野で、大統領令を攻撃的に用いて権限拡大を図った政権は、米国大統領史上ほとんど例がない」とまで述べています。
「法的効果」と「政治的メッセージ」の二層構造
一方、スーパー氏は、トランプ大統領の大統領令を詳しく読むと、その中身には大きく二つのタイプがあると指摘します。
一つ目は、出生地主義や関税に関するものなど、実際に法的な効果を持つ大統領令です。これらは移民制度や通商政策といった具体的なルールに直接影響し得るもので、実務にも直結します。
もう一つは、実務面での変更がほとんどない、いわば「政治的メッセージ」としての大統領令です。スーパー氏は、英語を米国の「公用語」とすることをうたった大統領令を例に挙げます。この大統領令には、実際には何も変えてはならないという趣旨の文言が明記されており、行政運営の実態は変わらないとされています。
スーパー氏によれば、実務上の大きな変化はむしろ、大統領令そのものではなく、その後に大統領の意向を汲んだ下位の行政官が行う決定や通達から生じている場合が多いといいます。大統領令は、その方向性を示し、政治的な議論を動かす「旗印」の役割を果たしている側面が強いのです。
しかし、こうした手法が積み重なることで、議会が法律を通じて政策を決め、行政府がそれを実施するという従来の分業は揺らぎます。スーパー氏は、「多くの大統領令や関連する行政措置は、議会が定めた法律と正面から矛盾したり、議会の授権がない分野に踏み込んでいる」と分析し、「三つの権力が互いに抑制し合う憲法体制から、強い大統領制への移行が進んでいる」と警告します。
200件超の訴訟 司法との対立が常態化
こうした動きは、司法との正面衝突としても表れています。米国の法制度を研究する機関による集計では、2025年1月20日以降、トランプ政権の政策をめぐる国内訴訟はすでに200件を超えました。
ソレンバーガー氏は、この訴訟ラッシュこそが、大統領令を通じた一方的な権限行使の広がりを物語っているとみています。関税、出生地主義、移民、国境警備、政府支出の見直しなど、多岐にわたる分野で、大統領が従来の憲法や法律の理解の「限界」を押し広げようとしているからです。
象徴的な例として同氏が挙げるのが、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)を使った関税措置です。トランプ大統領はこの法律を根拠に、広範な品目に一律の関税を課すという、これまでの大統領が取ってこなかった手法を打ち出しました。
また、政府支出や行政機構の見直しでも、トランプ大統領は独自のアプローチを取っています。ソレンバーガー氏によると、大統領は政府支出を包括的に精査するための新組織DOGEを一方的に創設し、単なる調査委員会にとどまらず、支出の削減や政府機関の廃止、職員の解雇にまで踏み込んでいます。過去の政権も支出見直し委員会を設置したことはありましたが、DOGEのように「評価」と「削減」を同時に進める権限を持たせた例は前例がないといいます。
ソレンバーガー氏は、こうした「かつてない」「法的に疑問が多い」措置が次々と取られている以上、多数の訴訟が起きるのは自然な結果だと指摘します。その上で、「現在見られる大統領と司法の対立は、長年にわたる大統領権限拡大の積み重ねが、トランプという『全てのレバーを引く意志を持った人物』を得たことで一気に噴き出したものだ」と述べています。
弱まる抑制と均衡 その背景にあるもの
ソレンバーガー氏は、現在の状況を、単に一人の大統領の資質だけで説明することには慎重です。その背景には、過去数十年にわたり、さまざまな政権や議会、司法が積み重ねてきた「大統領への権限集中」の流れがあるからです。
同氏によれば、歴代の大統領も少しずつ権限を広げてきましたが、それを可能にしたのは、議会が自らの立法権限の一部を大統領に委ねてきたこと、そして司法がとくに外交や人事などの分野で大統領に大きな裁量を認めてきたことです。その結果、合衆国憲法の起草者たちが想定していたような、三権が互いに厳しく抑制し合う構図は、20世紀初頭までの姿と比べて明らかに弱まっているといいます。
トランプ大統領は、そうして蓄積されてきた権限を最大限に活用し、時に新たな権限まで作り出そうとしている存在だ、とソレンバーガー氏は見ています。
裁判所はどこまで歯止めになれるのか
では、司法はどこまで大統領権限の暴走に歯止めをかけることができるのでしょうか。スーパー氏は、その役割がかつてないほど重くなっていると指摘します。
同氏によると、トランプ政権の高官たちは、政府運営を大きく変える決定を下す際に、必ずしも法務官僚や弁護士と綿密に相談しているわけではないと報じられています。そのため、多くの措置は、法律の素人から見ても違法性が明らかなものになっているといいます。
通常、裁判所は行政府の判断に深入りすることを極力避けようとします。加えて、トランプ大統領は最高裁判所で6対3の多数派を握り、多数の下級審判事を任命してきました。このことも、裁判所が大統領との正面衝突を避けたいと考える理由になっているとスーパー氏は見ています。
しかし同氏は、トランプ政権の一部の措置は、合衆国憲法の原則にあまりに反しているため、裁判所としてももはや傍観できないケースが増えていると指摘します。大統領が裁判所の命令に従わない姿勢を見せる場面もあり、「最高裁がどこまで違法な行為に歯止めをかけられるのか、まだ全体像は見えていない」と述べています。
強まる大統領制をどう読むか
ソレンバーガー氏とスーパー氏の分析を総合すると、トランプ政権下の米国では、「三権分立のもとでの大統領」から「強い大統領制」へと重心が移りつつあることが浮かび上がります。2025年6月時点の議論ではありますが、この変化は今も米国政治を読み解くうえで重要な視点と言えます。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- 大統領令そのものは歴史的にも広く用いられてきたが、トランプ大統領は多くの分野でその「攻撃的な活用」を進めている。
- 一部の大統領令は実務を動かす法的効果を持ち、別の多くは政治的メッセージとして議論を動かしている。
- 国際緊急経済権限法の新たな使い方やDOGEの創設など、法的なグレーゾーンに踏み込む動きが、前例のない数の訴訟を生んでいる。
- 過去数十年の大統領権限拡大と、議会・司法の弱体化が積み重なった結果、現在の「強い大統領制」への傾斜が生まれている。
一人の指導者にどこまで権限を集中させるべきか、そしてそれに対して議会や司法がどのように歯止めをかけるべきかという問題は、米国だけでなく、多くの民主主義国に共通するテーマです。2025年12月の今も、トランプ政権をめぐる動きは続いており、米国の制度がどのようにバランスを取り直していくのかは、今後も注視すべき論点と言えるでしょう。
今回取り上げたのは、このメールインタビュー前半の主なポイントです。後半では、米議会と裁判所がどのような手段で大統領権限に対抗し得るのかが、より具体的に議論されています。
Reference(s):
Q&A: Can Congress, courts check Trump's executive powers? (Part One)
cgtn.com








