NATO防衛相会合、防衛費GDP比5%目標で深まる溝
北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合で、防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げる方針に「大筋合意」が示される一方で、期限と支出項目をめぐる対立が浮き彫りになりました。安全保障の不安が高まるなか、防衛か福祉かという重い問いが各国の政治と社会に突きつけられています。この国際ニュースは、欧州だけでなく世界の安全保障議論にも影響を与えそうです。
ブリュッセル会合で見えた「大筋合意」と深い溝
2025年にブリュッセルで開かれたNATO国防相会合では、加盟32カ国が防衛費を将来的にGDP比5%へ引き上げる方向性について、おおむね一致しました。ただし、いつまでにどこまで増やすのか、どの支出を防衛費として数えるのかをめぐっては、深い溝が残ったままです。
NATOのマルク・ルッテ事務総長は会合後、記者団に対し「幅広い支持がある。合意に非常に近づいている」と述べ、3週間後に予定されていたハーグでのNATO首脳会議(2025年6月24〜25日)までに合意に達するとの自信を強調しました。
ルッテ案:3.5%+1.5%の二段構え
ルッテ事務総長が示した妥協案は、2032年までに次の二つの目標を達成するというものです。
- 中核的な軍事支出をGDP比3.5%まで引き上げる
- インフラなど広い安全保障関連支出をさらに1.5%上積みし、合計で5%とする
一見すると数字の積み上げですが、「何が中核的な軍事支出に当たるのか」「どこまでを安全保障関連インフラとみなすのか」という線引きは容易ではなく、各国の思惑がぶつかるポイントになっています。
米国の圧力:同盟に求めるのは「旗」ではなく戦力
防衛費GDP比5%という野心的な目標を最初に打ち出したのは、昨年末にこの案を提示した米国です。ワシントンは、欧州の同盟国に対して防衛予算の大幅な増額を繰り返し求めており、応じなければ欧州での安全保障上の関与を縮小しうるとの姿勢もにじませています。
会合に出席した米国防長官のピート・ヘグセット氏は、記者団に対し、同盟は「旗や会議だけではなく、戦闘に即応できる部隊と能力を伴っていなければならない」と強調しました。その一方で、「まだ納得していない国もいくつかあるが、最終的には合意に至るだろう」と、各国を説得していく考えを示しました。
2032年は遅すぎる?5%は高すぎる?加盟国の本音
最大の争点となったのは、2032年という期限設定と、5%の中身をどう分けるかでした。ある国にとっては「遅すぎる」一方で、別の国にとっては「高すぎて現実的でない」目標となっています。
バルト諸国:5%達成を前倒しに
リトアニアのドビレ・サカリエネ国防相は、2032年の達成目標について「明らかに遅すぎる」と批判し、2030年までの前倒しを主張しました。エストニアのハンノ・ペフクル国防相も、自国は来年には防衛費をGDP比5%に到達させる見通しだと述べ、他の加盟国にも今後5年以内の達成を促しました。
ドイツ・スペイン・ベルギー:財政と産業がネックに
これに対し、スペイン、ドイツ、ベルギーなどは、5%という水準は自国の財政と産業能力を踏まえると「極めて達成が難しい」との立場です。英国とイタリアも、より現実的なラインとして、2035年までに中核的防衛費を3.5%に引き上げることを当面の目標としています。
まずは現在の「2%目標」が試金石に
NATOはこれまで、加盟国が防衛費としてGDP比2%を確保することを共通の目標としてきました。NATOのデータによると、2025年夏の終わりまでには、32加盟国のうち23カ国がこの水準に達する見通しだとされています。
スペインとイタリアは2025年末までに2%に到達すると約束しており、カナダは2027年までにこの基準を満たす計画です。2%への到達ですら時間を要している国があるなかで、次のステップとしての5%目標は、政治的にも財政的にも大きなハードルと言えます。
新たな能力目標:必要な戦力と足りないリソース
今回の国防相会合では、防衛費だけでなく、新しいNATOの「能力目標」も承認されました。これは、同盟としてどのような軍事能力をどれだけ確保すべきかを示すもので、集団防衛を実行するための裏付けとなります。
優先分野として示されたのは、主に次のような能力です。
- 航空・ミサイル防衛
- 長距離打撃能力
- 兵站(ロジスティクス)と補給の体制
- 大規模な陸上機動部隊
ドイツは兵力6万人増を表明も、人員不足が課題
ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、NATOの軍備拡充に積極的に貢献する姿勢を示し、新たに6万人の現役兵を追加する計画を明らかにしました。「ドイツの規模と経済力を考えれば、NATOの軍備増強に大きな役割を果たす責任がある」と述べています。
しかしドイツは、長年の人員不足という現実にも直面しています。募集を強化しているにもかかわらず、兵力の総数は昨年さらに減少し、兵士の平均年齢も上昇傾向にあります。必要な能力をそろえるには、予算だけでなく人材確保という別の難題も乗り越えなければなりません。
オランダ・ベルギー:防衛と福祉の板挟み
財政制約は、多くの加盟国に共通する悩みです。オランダ国防相ルーベン・ブレケルマンス氏は議会で、NATOの義務を果たすには、毎年160億〜190億ユーロを追加で投じる必要があるとの見通しを示しました。
ベルギーのフィンセント・ファン・ペテヘム予算相も、財政赤字を抱えたまま防衛費を増やせば、将来の増税や社会保障の削減につながりかねないと警告しています。「今日の赤字の1ユーロは、将来の税、あるいは福祉国家に対する削減の1ユーロだ」と述べ、防衛と福祉のどちらも持続可能でなければならないと訴えました。
読者が押さえておきたい3つの視点
今回のNATO防衛費をめぐる国際ニュースは、単なる数字の引き上げ交渉ではなく、各国の社会や政治のあり方にも直結するテーマです。議論を追ううえで、次の3つの視点を意識しておくと整理しやすくなります。
- 安全保障の不安と有権者の許容範囲:防衛費の増額には世論の理解が欠かせません。どこまでなら負担を受け入れられるのかが、各国の政治判断を左右します。
- 財政と産業能力の制約:数字を掲げるだけでは、兵器や部隊、人材をすぐに増やすことはできません。予算、産業基盤、人材育成の三つをどうバランスさせるかが鍵です。
- 「防衛費」の定義をどうするか:軍事そのものだけでなく、インフラやロジスティクスなど、広い意味での安全保障支出をどこまで含めるかによって、目標の意味合いは大きく変わります。
防衛か福祉かという二者択一ではなく、限られた資源をどう配分し、どのような社会を目指すのか。NATOの議論は、私たち自身の社会の優先順位を考えるきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
NATO defense ministers struggle to bridge divides over defense budget
cgtn.com








