米軍のイラン核施設空爆、その後の現地-イラン人記者が語る日常と不信
2025年6月13日の米軍によるイラン核施設への空爆から数カ月。現地では何が起き、人々はどう暮らしているのか。イランのジャーナリスト、メフディ・ラティフィ氏の証言から見えてくる姿を整理します。
空爆後も続く「日常」 戦争体験が生む覚悟
中国の国際メディアCGTNは、米軍によるイラン核施設空爆後の日曜日に、イランの政治・国際問題を専門とするジャーナリスト、メフディ・ラティフィ氏への文書インタビューを実施しました。
ラティフィ氏によると、2025年6月13日の空爆後も、テヘランをはじめ多くの都市では「比較的落ち着いた日常」が続いています。人々は仕事に出かけ、店も開いており、夜間に自宅で過ごす人が増えているものの、「広範囲の避難生活」という状況ではないといいます。
背景には、イラン人が長期にわたるイラン・イラク戦争などの経験を通じて、外部からの攻撃に対して一定の備えと覚悟を持っていることがあります。ラティフィ氏は、人々が「どんな攻撃にも備えつつ、できる限り日常を維持しようとしている」と述べています。
空爆がもたらしたものは、社会の分断ではなく「むしろ連帯の強まり」だといいます。イスラエル側が期待したような内部対立ではなく、相互支援や情報共有が広がり、異常事態の中でも人々は気持ちを保とうとしていると伝えています。
インフラは「おおむね良好」 病院や核施設への攻撃も
ラティフィ氏は、電力、インターネット、公共サービスなどの重要インフラについて「現時点ではおおむね良好な状態が保たれている」と説明します。政府はエネルギーや燃料の供給を管理し、市民も協力的だといいます。
一方で、空爆の標的となった施設もあります。米軍は核施設を攻撃しましたが、ラティフィ氏によれば、こうした施設は事前に避難措置がとられていたといいます。ラティフィ氏は、これを核拡散防止条約に反する行為であり、国際法違反だと強く非難しています。
また、イスラエルによる攻撃で、ケルマンシャーやテヘランなどの病院や医療センターが被害を受けたとも指摘します。民間インフラや科学者を狙った攻撃は「戦争犯罪」に当たるとの認識を示し、イラン側はその実態について国際社会から説明を求められていると述べています。
インターネットについては、一部地域でイスラエルのスパイ活動への対応として制限がかかったものの、現在は全国的にほぼ利用可能な状態に戻っているといいます。ただし、今後の情勢によっては再び制限がかかる可能性にも言及しました。
「外交への信頼はほぼ消えた」 米国への深い不信
今回の空爆は、核問題をめぐる交渉のさなかに起きました。ラティフィ氏は、イランが善意を示すために再び交渉のテーブルに戻ったにもかかわらず、米国がイスラエルと協力して「まさにその交渉の最中に」核関連施設を攻撃したと指摘します。
ラティフィ氏は、過去の核合意(JCPOA)をめぐる経緯もあり、イランの人々はもともと米国の外交に楽観的ではなかったと振り返ります。その上で「現在、イラン国民の間で米国への信頼はまったく存在しない」と述べ、特にトランプ氏のような人物への不信が強いと語っています。
こうした経験と今回の空爆が重なり、「本物の外交に向けた窓は、ほとんど完全に閉ざされてしまった」とラティフィ氏は見ています。外交の可能性をどう捉えるかは国際社会の議論に委ねられていますが、少なくとも現地からは極めて厳しい見方が示されているといえます。
科学者暗殺と「知への攻撃」 テフランチ氏の死が意味するもの
今回の一連の攻撃では、複数のイラン人科学者が殺害されたとされています。その中には、イスラミック・アーザード大学の学長であり、ラティフィ氏が所属する通信社の設立に関わったモハンマド・メフディ・テフランチ氏の名前も挙がりました。
ラティフィ氏によれば、テフランチ氏は核科学者ではなく、磁性や電磁気学を専門とする物理学者でした。ただし、イランの現代科学の発展に大きな影響力を持ち、多くの研究者を育ててきた人物だったといいます。
ラティフィ氏は、ここ数年で暗殺された他の科学者の中にも、医療研究など非軍事分野に携わっていた人々が多く含まれていると指摘します。その上で、標的にされているのは「核エネルギーそのものではなく、科学や知識、そして国の未来だ」と訴えます。
とはいえ、これは「行き止まりではない」とも語ります。暗殺された科学者たちは何千人もの後進を育てており、その中には師を超える人材もいるといいます。ラティフィ氏は「知識は爆弾で破壊できない。人々の心に生き続け、世代から世代へ受け継がれていく」と強調しました。
私たちはこの声から何を学ぶか
ラティフィ氏は、一人のジャーナリストとして「世界中の人々に、イランの人々の物語を読み、自分の目で真実を確かめてほしい」と呼びかけます。イランで標的にされているのは、自由や独立、進歩への模索だと訴えました。
今回のインタビューは、軍事衝突のニュースでは見えにくい、市民の日常や感情、そして知識をめぐる攻防を映し出しています。遠く離れた日本から状況を見ている私たちにとっても、「どのような情報に触れ、どう判断するか」を問い直す材料になりそうです。
中東情勢や米国とイランの関係を理解するうえで、次のような視点が重要になってきます。
- 当事者の証言を通じて、現地の生活や感情の変化を見る
- 軍事行動と外交プロセスの関係を丁寧に追う
- 科学者や研究者への攻撃が持つ長期的な影響を考える
イラン情勢をめぐる議論は、今後も続いていきます。ラティフィ氏の言葉を一つの手がかりに、複数の情報源に目を向けながら、自分なりの視点を育てていくことが求められています。
Reference(s):
cgtn.com








