米議会がトランプ大統領の大型税制・歳出法案を可決 その中身と波紋
2025年7月、アメリカ議会がドナルド・トランプ大統領(2期目)の看板法案とされる大型税制・歳出パッケージ「One Big Beautiful Bill」を僅差で可決しました。本記事では、その中身とアメリカ社会・政治への影響を、年末時点で改めて整理します。
ぎりぎり4票差で可決、ホワイトハウスは「勝利」を宣言
法案は、トランプ政権が数日間にわたり議会共和党に強い圧力をかける中で、下院本会議の最終採決を迎えました。結果は218対214と、わずか4票差での可決でした。
ホワイトハウスは採決直後、SNSで大きく「勝利」を宣言し、トランプ大統領が独立記念日にあたる7月4日(金)に署名すると発表していました。
一方で、民主党のハキーム・ジェフリーズ下院院内総務は採決前日、約9時間にわたって演説を続けて採決を引き延ばし、法案に反対する市民の声を代弁しました。
この法案の成立は、単独の連邦判事による政権政策の差し止めを制限する最高裁判決や、イスラエルとイランの停戦につながったとされるアメリカ軍の空爆など、ここ最近の一連の「勝利」に続く、トランプ政権2期目最大の立法成果と位置づけられています。
法案の中身:大規模減税と社会保障削減のセット
「One Big Beautiful Bill」は、トランプ氏の選挙公約を幅広く盛り込んだ「てんこ盛り法案」です。軍事費の増額、大規模な移民摘発・強制送還、1期目の減税措置の延長など、多岐にわたる項目が一本にまとめられています。
10年間で4兆ドルの減税
最大の柱は、今後10年間で合計4兆ドルの減税を行う税制改革です。同時に、少なくとも1.5兆ドルの歳出削減も盛り込まれています。
具体的には、残業代やチップ(心づけ)収入への課税を軽くする措置や、相続税・贈与税の非課税枠の大幅な拡大などが含まれます。これらの非課税枠は今後、物価上昇(インフレ)に応じて自動的に引き上げられる仕組みになっています。
トランプ大統領は、こうした減税によって経済成長が加速すると強調してきましたが、多くの専門家は「恩恵の多くは富裕層に集中する」と指摘しています。
メディケイドと食料支援に過去最大級のカット
歳出削減の標的となったのが、低所得層や障害のある人びとを支えてきた社会保障プログラムです。
- 低所得者向け公的医療保険「メディケイド」の予算を、今後10年でほぼ1兆ドル削減
- メディケイドの利用条件を厳格化し、多くの人に追加の要件を課す
議会予算局(CBO)は、これらの変更により、今後10年のうちに最大約1,200万人が医療保険の保障を失う可能性があると試算しています。別の推計では、保険を失う人は1,700万人に達するとの見方もあり、特に地方の小規模病院には、閉鎖の波が押し寄せると懸念されています。
食料支援策「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」も対象となりました。SNAPは4,000万人以上の低所得層が利用する制度ですが、給付を受けられる年齢の下限が54歳から64歳へと引き上げられます。これにより、今後10年で2,300億ドルの支出削減が見込まれています。
さらに、バイデン政権期に導入されたクリーンエネルギー関連の税優遇策が縮小・撤廃される可能性が高まり、再生可能エネルギーのインフラ整備や電気自動車などの普及計画にも影響が及ぶとみられています。
軍事費と国境警備に重点配分、債務上限も5兆ドル引き上げ
こうして捻出された「節約分」は、主に国防費と国境警備の強化に振り向けられます。トランプ氏が選挙戦で繰り返し訴えてきた「軍の再建」や「国境の壁の強化」といった公約を、財政面から支える形です。
同時に、連邦政府が抱える債務の上限(デットシーリング)を、追加で5兆ドル引き上げることも盛り込まれました。これにより、当面の政府債務不履行(デフォルト)リスクは遠のく一方、長期的な財政規律への懸念は強まっています。
財政赤字は拡大、負担は低所得層に集中か
議会予算局などの試算によると、この法案は今後10年間で、アメリカの財政赤字をさらに3.4兆ドル押し上げる可能性があります。
一方で、食料支援やメディケイドなど、低所得層の生活を支えてきた政策は大幅に縮小されます。そのため、批判派は「貧しい人から富める人への巨大な所得移転だ」と訴えています。
- 恩恵:高所得層や資産を持つ家庭、大企業にとっては大幅な減税
- 負担:低所得者、障害のある人、高齢の労働者、地方の医療機関など
無党派の調査機関ピュー・リサーチ・センターの最新の世論調査では、法案に「反対」と答えた人が49%、「賛成」は29%にとどまりました。多くの回答者が「財政赤字が拡大する」「低所得層に悪影響が出る一方で、富裕層には有利だ」と懸念を示しています。
ホワイトハウスは、こうした調査結果に異議を唱え、「個別の政策については全国各地で強い支持が確認されている」と主張しましたが、世論の分断は明らかです。
与野党の思惑:トランプ氏は「痛み」を負わず、議員がリスクを背負う?
支持派を代表して、共和党のジョンソン氏は「バイデン=ハリスの急進的政権下では、すべてが絶対的な惨事だった。私たちは一つの大きくて美しい法案で、それを可能な限り修復しようとした」と語り、トランプ政権の「成果」を強調しました。
これに対して、ジェフリーズ氏は「この一つの大きくて醜い法案、この無謀な共和党の予算案、この嫌悪すべき立法は、アメリカ人の生活の質を高めるものではない」と強く批判しました。
トランプ氏の前任者であるジョー・バイデン氏も、「無謀なだけではない——残酷だ」とコメントし、法案が弱い立場にある人びとを切り捨てていると非難しました。
民主党系のストラテジスト、ハイマ・ムーア氏は、トランプ氏には任期制限があるため、「不人気な法案を押し通しても、長期的な政治的代償は小さい」と分析します。その一方で、「今後の選挙に出る共和党候補たちが、そのツケを払わされる」とも指摘しました。
実際に、ネブラスカ州選出のドン・ベーコン下院議員とノースカロライナ州選出のトム・ティリス上院議員の2人の共和党議員が、トランプ氏との対立の後に相次いで引退を表明しており、民主党にとっては議席奪取の好機と見る向きもあります。
民主党は、法案への反対世論を追い風に、2026年の中間選挙で下院の過半数奪還を狙う構えです。低所得層から富裕層への「所得再分配」だとするデータを掲げ、争点化を進めています。
これからの焦点:アメリカ社会はどこへ向かうのか
大規模な減税と社会保障の削減、軍事費と国境警備の増強——「One Big Beautiful Bill」は、アメリカ国家の優先順位を大きく組み替える法案です。
今後数年にわたり、次のような論点がアメリカ政治と社会の中心テーマとなりそうです。
- 医療・食料支援の縮小に、州政府や地方の医療機関はどう対応するのか
- 減税が本当に中長期の経済成長や賃金上昇につながるのか
- エネルギー転換のペースが鈍り、気候変動対策に遅れが出ないか
- 2026年中間選挙で、有権者は「大規模減税と福祉削減」をどう評価するのか
2025年も残りわずかとなる中、この法案はアメリカ国内だけでなく、世界経済や国際政治にも少なからぬ影響を与える可能性があります。数字のインパクトだけでなく、「誰のための政策なのか」という問いを、私たちも含めて静かに考える必要がありそうです。
Reference(s):
U.S. Congress narrowly passes Trump's flagship megabill. What's next?
cgtn.com








