インドがWTOで対米報復関税を提案 自動車関税巡り緊張
インド政府が世界貿易機関(WTO)に対し、米国の自動車および一部自動車部品への25%関税への対抗措置として報復関税の導入を提案しました。ロイター通信などの報道によると、米印の通商摩擦が、ルールに基づく国際貿易体制を揺さぶる新たな局面を迎えています。
WTOで何が起きているのか
インドがWTOに提出した通告によると、米国が自動車と一部の自動車部品に課す25%の関税により、インドの対米輸出約28億9000万ドル相当が影響を受ける見通しです。米側が徴収すると見込まれる追加関税額は7億2500万ドルに達するとされています。
通告は、米国の措置がインドの貿易に与える不利益に対し、インドは同等の水準で譲許やその他の義務を停止する権利を留保すると明記しています。具体的には、米国から輸入される製品に対し、追加関税という形で同額程度の負担を課すことを検討していると読み取れます。
一方で、インド側は現時点で、どの品目にどの程度の関税を課すのか、対象となる米国製品や税率の詳細までは示していません。今後の交渉や国内産業への影響を見極めながら、報復措置の中身を詰めていくとみられます。
対立の背景:自動車関税と市場開放要求
今回の動きの発端となっているのは、米国が導入した輸入自動車および一部自動車部品に対する25%の関税です。インドは、この措置が自国の輸出産業に大きな打撃を与えるとしてWTOの場で対抗する構えを見せました。
インドはこれまで、米国との協議の中で、自国の高い関税率を一定程度引き下げる用意があるとシグナルを送ってきました。しかし、農業や乳製品市場の大幅な開放を求めるワシントンの要求については譲歩せず、ここが最大の争点となっています。
期限を巡る駆け引き:トランプ米大統領の警告
トランプ米大統領は、米印が7月9日までに貿易協定で合意できなければ、インドからのすべての輸入品に対して26%の関税を課すと警告し、期限を区切った圧力を強めています。
これに対しインド側は、この期限設定を事実上退けています。インドのピユシュ・ゴヤル商業産業相は金曜日の発言で、国家利益こそが常に最優先であり、単に期限に間に合わせるために取引を急ぐことはしないと強調しました。
ゴヤル氏は、国家の利益にかなう良い条件であれば、インドは先進国との間でいつでも協定を結ぶ用意があると述べています。その一方で、インドはどの貿易協定も、内容が完全に詰め切られ、国家利益に合致したと判断できる場合にのみ受け入れるとし、時間枠より中身を重視する姿勢を鮮明にしています。
数字で見る米印貿易の現状
米国通商代表部(USTR)によると、2024年の米印間の二国間貿易総額は約1290億ドルでした。内訳は、米国からインドへの輸出が418億ドル、インドから米国への輸出が874億ドルで、米国側の貿易赤字は457億ドルとなっています。
さらに、今年4〜5月のインドの対米輸出額は172億5000万ドルと、前年同時期の141億7000万ドルから増加しました。貿易額が拡大する一方で、関税の引き上げや報復措置を巡る不透明感が高まっている構図です。
WTOの報復関税とは何か
WTOの枠組みでは、一方的な関税引き上げなどによって貿易上の不利益を受けた加盟国は、紛争解決手続きを経たうえで、相手国からの輸入品に対して関税を引き上げるなど、譲許の一時停止を行うことが認められています。
インドが今回示したのは、まさにこの仕組みを使う準備があるというシグナルだといえます。影響額と同程度の追加関税を課すことで、米国に政策変更や協議での譲歩を促す狙いがうかがえます。
もっとも、どの品目を対象にするかによって、影響を受けるのは米国企業だけでなく、インドの輸入企業や消費者にも及びます。インド政府は、自国産業の保護と消費者価格の安定という二つの課題の間で難しい判断を迫られています。
広がる波紋とこれからの焦点
自動車は、部品供給から最終組み立てまで、多国籍の企業が関わる代表的なグローバル産業です。米国市場向けのサプライチェーンには、インド企業だけでなく、アジアや欧州、日本の企業も深く組み込まれています。米印間で関税の応酬が続けば、コスト増や投資計画の見直しにつながる可能性があります。
今回の動きで注目すべきポイントは次の通りです。
- インドが最終的にどの米国製品を報復関税の対象とするのか。
- トランプ米大統領が示した7月9日の期限までに、米印がどこまで歩み寄れるのか。
- 自動車以外の分野、特に農業や乳製品にまで対立が波及するのか。
日本にとっても、WTOルールに基づく通商秩序が揺らげば、世界のサプライチェーンや企業活動の前提が変わりかねません。インドと米国の交渉の行方は、アジアの貿易構造や日本企業の戦略にも影響を与える可能性があり、今後のWTOでの議論と両国の対応を継続して見ていく必要があります。
今回の米印対立は、保護主義の高まりと、多国間ルールを通じてそれに対抗しようとする動きが交差する象徴的な事例でもあります。数字とルールの両面から、この問題を追い続けることが求められています。
Reference(s):
India proposes retaliatory duties at WTO over U.S. auto tariffs
cgtn.com







