トランプ大統領の大型法案「One Big Beautiful Bill」の中身を解説
トランプ大統領が署名した「One Big Beautiful Bill」とは
米国のドナルド・トランプ大統領が、大型の政策法案「One Big Beautiful Bill」に署名し、法律として成立しました。減税と歳出削減を同時に進めるこの法律は、米国の財政運営と格差構造に大きな影響を与える可能性があり、国際ニュースとしても注目されています。
ホワイトハウスで行われた署名式は、前日に下院で僅差の賛成多数(賛成218、反対214)で法案が可決された直後に行われました。全ての民主党議員と、共和党のトマス・マッシー議員(ケンタッキー州)、ブライアン・フィッツパトリック議員(ペンシルベニア州)の2人が反対票を投じています。
トランプ大統領は署名式の前に、上院与党・共和党のジョン・スーン院内総務と、下院議長のマイク・ジョンソン氏を称賛し、「この2人は負けることのないチームだ」と述べました。署名式は、独立記念日の行事の一部として、B-2爆撃機のフライオーバー(航空展示)とあわせて演出されたとされています。
法案の柱:大規模減税と歳出削減
「One Big Beautiful Bill」は、トランプ政権の政策アジェンダをまとめたものと位置づけられており、税制改革と歳出削減が二本柱です。
10年間で4兆ドル規模の減税
法案は今後10年間で4兆ドル規模の減税を行う一方、少なくとも1.5兆ドルの歳出削減を目指すとしています。主な税制措置としては、残業代やチップ(チップ収入)への課税を大幅に軽減するほか、相続税・贈与税の非課税枠を大きく引き上げ、今後はインフレに応じて自動的に調整される仕組みが導入されます。
トランプ大統領は、この減税が経済成長を押し上げると強調していますが、多くの専門家は、高所得者や富裕層に恩恵が集中しやすい仕組みだと指摘しています。
医療保険(メディケイド)の大幅削減
歳出面では、低所得者や障がいのある人が利用する公的医療保険制度メディケイドの支出を、今後10年で約1兆ドル削減する方針が盛り込まれました。制度利用にあたっての要件も厳格化される見通しで、米議会予算局(CBO)は、10年の終わりまでに最大約1,200万人が医療保険を失う可能性があると試算しています。
メディケイドへのこれほど大きな削減は、1960年代の制度創設以来で最大規模とされ、地方の小規模病院を中心に、多数の病院閉鎖が相次ぐとの見方も出ています。
食料支援(SNAP)の対象絞り込み
また、低所得者向けの食料支援プログラム「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」については、受給要件が厳しくなります。特に、条件付きで支援を受けられる年齢の上限を54歳から64歳に引き上げることで、今後10年間で2,300億ドル規模の支出削減を図るとされています。現在、SNAPは4,000万人を超える人々が利用しており、生活直撃への懸念が広がっています。
クリーンエネルギー優遇の縮小
バイデン前政権の下で導入されたクリーンエネルギー関連の税控除や補助金も見直しの対象です。再生可能エネルギーインフラの整備や、新エネルギー車の購入に対する税優遇が縮小・廃止される可能性があり、環境関連産業への投資にも影響が出るとみられています。
軍事費・国境警備費への重点配分と債務上限引き上げ
こうした社会保障や環境関連の削減分は、軍事費と国境警備の予算増額に振り向けられる設計です。同時に、連邦政府の債務上限を5兆ドル引き上げることも盛り込まれました。
それでもなお、今後10年間で約3.3兆〜3.4兆ドルの財政赤字を追加的に生み出すと見込まれており、「財政健全化どころか、赤字をさらに積み増す」との懸念も根強くあります。
「貧しい人から豊かな人へ」?格差拡大への懸念
法案は、富裕層向けの減税を拡大する一方で、低所得層向けの医療・食料支援を大幅に削減する内容となっており、民主党などからは「最も貧しい人々から最も裕福な人々への巨額の所得移転だ」とする批判が上がっています。
世論調査では、この法律に「反対」と答えた人は49%に上り、「賛成」の29%を大きく上回りました。米国の非営利調査機関ピュー・リサーチ・センターによる調査では、多くの人が、財政赤字の拡大や低所得層への打撃を懸念する一方で、主な受益者が富裕層になることに強い疑問を抱いていることが示されています。
2026年中間選挙を見据えた政治戦略
ホワイトハウスは、この法案を「大統領が掲げてきた公約の集大成」であり、「米国民にとっての勝利」だと強調しています。報道官のカロライン・レヴィット氏は、法案の成立を「大統領が訴え、国民が選んだ政策が実現した日」だと述べました。
一方、民主党は、法案への反発の大きさを、2026年の中間選挙で下院多数派奪還を目指すうえでの追い風にしたい考えです。低所得者や地方の有権者を中心に、医療・食料支援の削減への不満が高まれば、選挙結果にも影響しうるためです。
共和党内でも揺れはあり、トランプ大統領と対立してきたネブラスカ州選出のドン・ベーコン下院議員と、ノースカロライナ州選出のトム・ティリス上院議員は、すでに引退の意向を表明しました。こうした選挙区では、野党・民主党が議席を獲得しやすくなるとの見方も出ています。
このニュースをどう読むか——日本への示唆
「One Big Beautiful Bill」をめぐる議論は、米国の税制や社会保障だけでなく、「財政赤字を抱えるなかで、誰に負担を求め、誰を優先的に支えるのか」という問いを浮かび上がらせています。
少子高齢化が進み、財政と社会保障の持続可能性が課題となっている日本にとっても、米国の大規模な税制・社会保障改革は他人事ではありません。どのような政策が格差を広げ、どのような仕組みが社会の安定につながるのか——今回のアメリカの動きを、日本の議論を考える材料として捉えてみることができそうです。
Reference(s):
cgtn.com








