メルツ独首相が語る国内安定と対外戦略 中国訪問構想と移民・経済政策
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相がベルリンで記者団と懇談し、連立政権の安定を強調しつつ、移民政策、欧州と米国をめぐる経済課題、アジア重視の外交方針、ウクライナ戦争や中東情勢への対応など、幅広いテーマで立場を示しました。
この記事のポイント
- 司法人事をめぐる対立を「ときおりの後退」とし、2025年予算に向けて政権は安定していると強調
- 移民・難民政策では、メルケル氏の「We can do this」を「十分に成功していない」と振り返り、より厳格な管理方針を示唆
- EUレベルの法人課税構想には明確に反対し、ドイツ企業への新たな税負担を拒否
- 米国がドイツ車に最大30%の関税を課す可能性に警鐘を鳴らし、早期の対話を呼びかけ
- 中国訪問を軸に、インド、インドネシア、日本を回るアジア歴訪を構想
- ウクライナ支援と対ロシア制裁で、EU内調整の難しさを吐露
- イスラエル支持を維持しつつも「無条件の支持」ではないと明言し、ガザとヨルダン川西岸への懸念を表明
安定を演出するメルツ首相のメッセージ
メルツ首相は会見で「ドイツは安定した基盤、安定した連邦議会の多数派の上に立っている」と述べ、政権内の不協和音を抑えるメッセージを前面に出しました。
最近、司法トップ人事をめぐり連立内で対立が表面化し、一部の法案や政策の進行に不透明感が広がっていました。メルツ氏はこうした動きを「ときおりの後退」と認めつつも、2025年の予算編成プロセスに向けて「継続性」を強調し、政権の足元は揺らいでいないとアピールしました。
移民政策:メルケル時代からの見直し
国内議題の中心となったのが移民・難民政策です。メルツ氏は、2015年の難民危機の際にアンゲラ・メルケル前首相が示した「We can do this(私たちはやり遂げられる)」という有名なメッセージを、珍しく公の場で評価し直しました。
「彼女が指していた領域において、私たちは明らかに成功していない。まだ終わっていない」と述べ、ドイツ社会への統合が十分に進んでいないとの認識を示しました。そのうえで、自身の率いるキリスト教民主同盟(CDU)は、より厳格な入国管理と統合政策を提案していく考えをにじませました。
経済政策:EU法人税構想にノー、米関税に危機感
経済政策では、メルツ氏はEUレベルでの法人課税、つまり企業に対する共通の新税を導入する構想に明確に反対しました。「ドイツとしてそのようなアプローチを取ることは排除できる」と述べ、ドイツ企業の競争力を損なう新たな税負担は受け入れられないとの立場を打ち出しました。
また、米国がドイツ製自動車に最大30%の関税を課す可能性についても警鐘を鳴らしました。輸出に依存するドイツ経済にとって大きな打撃となり得るため、「このような関税を避けるため、緊急に対話が必要だ」と、米側との協議を急ぐべきだと訴えました。
アジア重視:中国訪問構想と広がる外交
外交分野では、メルツ首相が将来を見据えて言及した数少ない国の一つが中国でした。会見時点で日程は正式には固まっていないものの、年内(同年10月ごろ)をめどに中国を訪問し、経済界の代表団とともに二国間の経済協力を強化する計画であると伝えられています。
さらに、この訪問はインド、インドネシア、日本を含むアジア歴訪の一環となる見通しです。ヨーロッパ経済が試練に直面するなかで、成長市場が多いアジアとの関係をどう深めるかは、ドイツだけでなく日本を含む地域各国にとっても重要なテーマです。メルツ氏の構想は、ドイツがアジアにより戦略的に関与していく転換点として注目されます。
ウクライナ支援と対ロ制裁:EU内の温度差も浮き彫りに
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、メルツ氏は長距離兵器の供与や対ロシア制裁の強化に向けた取り組みを詳しく説明しました。CDUの交渉担当者らが、最新の制裁パッケージを実現するため、EU首脳に対して直接働きかけを行わざるを得なかったと明かしました。
このプロセスは一筋縄ではいかなかったようです。メルツ氏によると、スロバキアの首相を説得するため、ほぼ毎日のように電話をかけ続けたといい、EU内部でも対ロシア政策をめぐる温度差が残っていることがうかがえます。
中東情勢へのスタンス:イスラエル支持と人道支援の両立
中東に関して質問されると、メルツ首相は「ドイツは今後もイスラエルの支持者であり続ける」と述べつつも、「無条件の支持」という言葉は一度も使ったことがないと強調しました。ガザ地区やヨルダン川西岸でのイスラエルの行動には批判的な視点も示しており、支持と批判のバランスを取ろうとする姿勢がにじみます。
会見後に行われたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との電話協議について、メルツ氏の報道官は、首相が「ガザ地区の人々に急を要する人道支援が、安全かつ人道的な形で届けられなければならない」と強調したと説明しました。また、ヨルダン川西岸の併合につながるような一方的な措置はあってはならないとの考えを伝えたとしています。
日本からどう読むか
今回の会見は、ドイツの国内政治の安定が試されるなかで、対外政策をどう描き直すのかを示す一つの窓になっています。移民政策の見直し、対米・対EUの経済交渉、対ロシア制裁の維持といった課題は、日本を含む他の民主主義国とも共通するテーマです。
加えて、メルツ首相が構想するアジア歴訪には日本も含まれています。ドイツがアジアとの経済・安全保障協力を深めようとする動きは、今後の日独関係や、アジアとヨーロッパの連携のあり方を考えるうえで、見逃せない流れと言えるでしょう。
Reference(s):
Meeting the media, Merz seeks stability at home and clarity abroad
cgtn.com








