米EU関税合意、安堵と不満が交錯 15%関税が欧州経済に投げる影
米国と欧州連合(EU)の新たな関税合意をめぐり、欧州では「危機回避」と安堵する声と、「屈服だ」と憤る声が鋭く対立しています。米EU関税をめぐる今回の国際ニュースは、世界の貿易ルールと欧州経済の行方を考えるうえで重要な意味を持ちます。
米EUの「関税ディール」は何が決まったのか
今回焦点となっているのは、世界の貿易の約3分の1を占める米国とEUのあいだで発表された「枠組み合意」です。この合意により、米国は大半のEU製品に対して15%の輸入関税を課すことになります。
この15%という水準は、ワシントンが当初示していた30%関税の「半分」であり、最悪の通商危機は回避されたとも言えます。ただし、欧州側が望んでいたよりははるかに高い水準であり、自動車や医薬品といった戦略産業に対する保護は限定的とされています。
一方で、この合意にはエネルギーや資源分野での大規模な投資・購入約束も含まれています。EUは今後3年間で、石油や液化天然ガス(LNG)、原子力燃料などに総額7500億ドルを投じる「戦略的購入」を約束しました。
ドイツは「危機回避」と評価、EU通商担当も擁護
EU最大の経済規模を持つドイツは、この米EU関税合意を前向きに評価しています。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、輸出に依存する同国経済にとって深刻な打撃となり得た通商対立が避けられたと強調しました。
メルツ首相は「この合意によって、輸出志向のドイツ経済を深刻に傷つけかねなかった通商紛争を回避することに成功した」と述べています。
EUのマロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員も、「30%関税という代替案に比べれば、これが非常に厳しい状況下で得られた最善の合意だ」と説明し、防御的ながらも合意を擁護しました。
フランスは「屈服」と批判 欧州統合の理念とのズレ
一方で、EU第2の経済規模を持つフランスの反応は厳しいものです。フランソワ・バイルル首相は、この米EU関税合意を「屈服」と呼び、「欧州にとって暗い一日だ」と強く非難しました。
バイルル首相はSNSへの投稿で、「自由な国家の同盟が、単に屈服に甘んじるべきではない」と訴え、米国への譲歩に見える今回の合意は、欧州の自立性や通商主権の理念に反するとの立場を明確にしています。
ポルトガルは「不均衡」と警戒 中小輸出国の不安
ポルトガルもまた、この米EU関税合意に懸念を示しています。同国の経済・領土結束省は、今回の合意を「限定的な改善」にとどまるとし、本来目指すべきは関税や貿易障壁を段階的に撤廃する「真の自由貿易」だと強調しました。
ポルトガルの企業団体であるポルトガル企業連合(CIP)のラファエル・アルヴェス・ロシャ事務局長は、合意内容を「欧州の生産者にとって不均衡で不利だ」と批判しています。
ロシャ氏は、当初予想されていた「ハリケーン」が「嵐」で済んだことを喜ぶようなものだと比喩しつつも、平均約2.5%とされる現行の関税水準から15%へと大幅に引き上げられることは、輸出企業に深刻な負担となりかねないと警鐘を鳴らしました。
CIPによると、ポルトガル政府はこうした悪影響に備え、国内企業向けの財政支援策で対応する方針だといいます。
ハンガリーのオルバン首相は辛辣な比喩
ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、今回の米EU関税合意を一段と辛辣に批判しています。オルバン氏は、自国が注目する英国との合意と比較しながら、今回の枠組み合意を「より悪い条件だ」と位置づけました。
自身の政党の報道官がホストを務めるフェイスブックのライブ配信で、オルバン氏は「ドナルド・トランプはウルズラ・フォン・デア・ライエンと合意に達したのではなく、トランプがフォン・デア・ライエンを朝食に平らげてしまった」と述べ、EU側が一方的に押し切られたとの見方をあらわにしました。
詳細はこれから 8月1日までに共同声明を準備
一部の加盟国が不満を表明しているものの、この米EU関税をめぐる枠組み合意そのものが頓挫する可能性は高くないとみられています。通商交渉は欧州委員会の専権事項であり、各国政府が単独で合意を覆す余地は限られているためです。
ただし、合意内容の多くはまだ細部が固まっていません。EU当局は、8月1日までに詳細を明らかにする共同声明をまとめると説明しており、今後数週間から数か月にかけて、より包括的な最終合意を目指した交渉が続けられる見通しです。
ドイツ政府も、とくに鉄鋼セクターをめぐる取り扱いなどについては、引き続き詰めが必要だとしています。
エネルギー・投資面の約束とその課題
今回の米EU関税合意には、関税だけでなくエネルギーを軸とした投資面での約束も組み込まれています。トランプ米大統領は、日本との間で先週署名した6000億ドル規模の合意を上回る内容だと胸を張り、このディールが大西洋を挟んだ米欧関係を強化し、米国輸出企業への「不公正な扱い」を是正すると主張しました。
EU側が掲げる7500億ドル規模の戦略的購入には、石油、LNG、原子力燃料などが含まれるとされています。一方で、米国のLNG生産は今後4年間でほぼ倍増する見通しであるものの、それでも欧州の需要を完全に満たすには不足する可能性が指摘されています。また、米国の石油生産は以前の予測より低くなると見込まれています。
巨額の購入約束を掲げながら、EUがどのようにこれらのコミットメントを実際に履行していくのかは、なお不透明です。エネルギー安全保障と気候変動対策、そして財政負担のバランスをどう取るのかが、今後の焦点となります。
欧州経済と日本への含意:何を読み取るべきか
平均2.5%程度だった関税が一気に15%まで引き上げられれば、欧州企業の価格競争力は確実に削がれます。短期的には、米国向け輸出に依存する製造業や、サプライチェーンの一部を欧州に置く企業ほど打撃を受けやすいでしょう。
一方で、30%関税という「最悪シナリオ」が回避されたことに、ドイツなどが一定の安堵を示すのも理解できます。今回の米EU関税合意は、「どこまで譲歩すれば危機を避けられるのか」という現実的な政治判断の産物とも言えます。
日本にとっても、これは対岸の火事ではありません。米国と日本の間でも6000億ドル規模の合意が結ばれたとされるなか、主要経済圏との二国間交渉が相次ぐことで、世界の通商ルールや多国間枠組みの位置づけは変化しつつあります。
今回の米EU関税をめぐる動きは、次のような問いを投げかけています。
- 関税引き上げによって守られる産業と、逆に割を食う産業はどこか
- 短期的な危機回避のための妥協は、長期的な交渉力低下につながらないのか
- エネルギーの巨大な購入約束は、気候政策や財政にどんな影響を与えるのか
スキマ時間にニュースを追う私たち一人ひとりにとっても、今回の米EU関税合意は、国際ニュースを「ただの出来事」として消費するか、それとも自分の仕事や生活、日本の通商戦略と結びつけて考えるかを問う材料になっています。
Reference(s):
cgtn.com








