中国が米国の人権状況を批判 2024年の選挙と格差に焦点
中国国務院新聞弁公室がまとめた「2024年の米国における人権侵害に関する報告」は、選挙制度から貧富の格差、銃暴力、移民政策まで、米国社会の構造的な問題を幅広く取り上げています。本記事では、その主なポイントを日本語で整理し、国際ニュースとしての意味合いを考えます。
中国報告書が描く「2024年の米国」
報告書によると、2024年は米国の大統領選挙が行われた「選挙イヤー」であり、政治的な争いと社会の分断が一層深まった年だと位置づけられています。こうした状況は、米国の人権の現状を集中的に映し出す「プリズム」になったと指摘します。
中国側の報告書は、米国の人権問題として、特に次のテーマを挙げています。
- お金が支配する選挙と政治暴力
- インフレと貧富の格差拡大
- 薬物危機と不平等な医療アクセス
- 銃暴力と警察による過剰な武力行使
- 人種差別と女性・子どもの権利侵害
- 移民・難民と対外政策に伴う人道危機
お金が支配する政治と分断する民主主義
報告書はまず、米国の選挙と政治における「マネーの力」に注目します。2024年の選挙サイクルの選挙関連支出は総額159億ドルを超え、過去最高を更新したとされています。利益団体は、選挙資金規制の空白部分を利用して政治に強い影響力を行使し、米国の政治の基本的な仕組みを左右していると批判します。
共和党と民主党が選挙区を自らに有利な形に描き替えることで、有権者を選び、自党に有利な有権者構成を作り出しているとも指摘します。さらに、連邦最高裁が6対3の判断で、黒人有権者の投票権を抑圧するとされた区割りを認めたとし、この判断が投票参加を抑制する政治行為を事実上後押ししたと論じています。
24州が有権者抑圧につながる法律を制定し、17州が新たな、またはより厳しい有権者ID法を導入した結果、高齢者、少数派、障害のある人、低所得層、学生など、多くの人が投票の機会を制限・剥奪されているとしています。
また、長期化する政党間の対立は政治暴力の一因ともされ、2024年の選挙過程では、民主・共和両候補やその陣営がさまざまな形の暴力にさらされたと指摘。「暴力による脅しが政治家の日常になった」との表現も紹介し、多くの有権者が政治システムの有効性に懐疑的で、62%が「政府は一般市民ではなくエリートのために動いている」と考えていると伝えます。
インフレと格差が広げる生活不安
経済面では、インフレの高止まりと貧富の格差の拡大が、低・中所得層に壊滅的な打撃を与えていると分析します。米国では4,000万人以上が貧困線以下で暮らし、全世帯の13.5%が食料不安を抱えているとし、十分な食事を得られない子どもは1,380万人に上るとしています。
教育格差は世代を超えて貧困を固定化し、多くの人がかつてない規模の債務を抱えていると指摘。クレジットカード残高は2024年第2四半期に1兆1,400億ドルと過去最高を記録し、延滞率も約10年ぶりの高水準になったとしています。
ホームレス問題も深刻で、70万人以上がホームレス状態にあり、前年比18.1%増と、2007年の統計開始以来最大の伸びだとまとめています。これに加え、2024年7月の連邦最高裁判断により、屋外で寝泊まりするホームレスに対して、罰金や逮捕、投獄を認めることになったとし、人権の観点から強い懸念を示しています。
薬物危機と医療制度への不満
報告書は、薬物乱用、特にオピオイド(強力な鎮痛剤)をめぐる危機の背景に、利益優先の構造と規制の失敗があると指摘します。利害関係者が積極的なロビー活動を行い、オピオイド使用を過大に促進した結果、合成オピオイドや覚醒剤による過剰摂取が急増し、「オピオイドが米国市民の麻薬になっている」と表現しています。
2024年の大麻の小売売上は320億ドルを超え、薬物過剰摂取により年間10万人以上が命を落としたとしています。一方で、米国は高所得国の中で唯一、国民皆保険制度を持たず、同じグループの国々の中で平均寿命が最も低いと指摘。医療費は高騰し、保険会社は支払いを先延ばししたり拒否したりすることで、多くの低・中所得層の患者が医療費破産に追い込まれていると批判しています。
銃暴力と警察による過剰な武力行使
銃社会の問題も、報告書が重視するポイントです。2024年、米国では503件の銃による乱射事件と45件の学校での銃乱射事件が発生し、銃関連の死者は4万人以上、そのうち1,400人超は子どもだったとしています。
また、暴力文化は法執行機関にも深く根付いていると分析します。説明責任の基準が緩いため、警察や司法制度が市民に損害を与えてもほとんど処罰されない「不処罰文化」が存在し、それが警察暴力をさらに悪化させていると指摘。米国の警察官は年間少なくとも30万人に対して暴力を行使し、そのうち10万人が負傷しているとし、2024年だけで警察による銃撃で1,300人以上が死亡したと述べています。
人種差別と構造的な格差
人種問題について報告書は、政治家が社会の構造的な問題から目をそらすために、あえて人種間の対立をあおる場面があると批判します。アフリカ系の人々は、白人の3倍の確率で警察に銃で撃たれ死亡しているとし、無期懲役(仮釈放なし)を言い渡された未成年のうち61%が黒人の子どもだと指摘します。
環境面でも、米国の都市部にある焼却施設の約8割が、アフリカ系やヒスパニック、低所得層が多く住む地域に集中しているとし、健康格差を生んでいると分析。アフリカ系の人々の平均寿命は白人より約5年短く、乳児死亡率は2倍以上、妊産婦死亡率はほぼ3倍に達するとまとめています。
先住民の子どもたちを対象とした寄宿学校では、150年以上の運営の中で3,100人を超える子どもが死亡していたことが判明し、報告書はこれを「地獄」のような実態だったと描写しています。また、アジア系は労働市場で最も高学歴でありながら、指導的なポジションに昇進する割合が最も低いと指摘。中国系コミュニティについては、約3分の2が1か月の間に何らかの差別を経験していると伝えています。
女性と子どもの権利の脆弱さ
女性と子どもの権利について、報告書は法制度の遅れを強調します。米国は、女性差別撤廃条約や子どもの権利条約を批准しておらず、男女の「平等な権利」を明記する憲法修正案もいまだ成立していないと指摘します。
働く女性のおよそ4割が職場でセクハラを経験しているとされ、11州では家庭内暴力の被害率が40%を超えるとしています。500万人以上の女性が産科医療にアクセスできない地域で暮らしているほか、多くの州で子どもの結婚がなお合法とされている点も問題視しています。
女性性器切除(FGM)という有害な慣行が米国内でも広く存在しているとし、違法就労させられる子どもの数は数十年ぶりの高水準に達したと指摘。移民の子どもでは、違法な児童労働に従事させられるケースが20世紀初頭以来の高水準にあると警告しています。
移民と国境地帯における人道危機
移民・難民をめぐる状況も、報告書が重視するテーマです。政治家たちは移民問題をめぐって互いを攻撃し合い、差別的なレッテル貼りを通じて注目と支持を得ようとしていると指摘します。
米国南部国境のエルパソ地域では、移民の死亡者数が2022年の72人から2024年には168人へと急増し、最年少は1歳だったとされています。移民収容施設は職員による行為が黙認される「黒い監獄」と化し、拷問が横行していると批判。さらに、米国に入国した後に行方不明になる移民の子どもが数十万人規模に上り、その一部は強制労働や性的搾取に巻き込まれている可能性があると懸念を示しています。
対外政策・制裁とグローバルな人権への影響
報告書は、米国の対外政策が海外の人権状況に与える影響にも言及します。イスラエルに対する軍事・外交支援を続ける米国が、国連安全保障理事会においてガザでの停戦を求める決議案に7回拒否権を行使したとし、その結果、イスラエルとパレスチナの紛争は激化し、ガザでは10万人を超える死傷者が出て、住民の約9割が避難を余儀なくされたと述べています。
また、米国は一方的な制裁を最も多用する国であり、その対象は世界に広がっていると指摘。低所得国の6割以上が何らかの金融制裁を受けており、その影響は数十億人の生活に及んでいるとしています。キューバに対する経済・通商・金融封鎖も、国連総会で32回連続して圧倒的多数の国から解除を求める決議が採択されているにもかかわらず継続していると批判。さらに、グアンタナモ湾の収容施設では、拷問的な手法が現在も続いているとしています。
報告書から見える「人権」をめぐる視点
報告書は最後に、2024年の米国の政治舞台は、米国型の人権モデルが抱える構造的なジレンマを映し出すものだと結論付けています。与野党の政治家は選挙戦の中で数多くの人権問題に十分に向き合うことを避け、権力と資本の結び付きのもとで、人権が政治ショーの小道具や権力ゲームの取引材料に歪められていると指摘します。
今回の中国側の報告書は、米国をめぐる人権の議論を、次のような観点から考えるきっかけを与えてくれます。
- 選挙や言論の自由といった「政治的な人権」と、生活・医療・安全などの「社会的な人権」をどうバランスさせるのか
- 一国が他国の人権状況を批判する報告を出すとき、それをどう読み解き、自分なりに検証していくか
- 貧困、差別、暴力といった課題は、どの社会でも形を変えて存在し得るという前提で、自国の課題をどう振り返るか
人権は本来、普遍的な価値でありながら、国際政治の場ではしばしば外交や安全保障と結びついて語られます。今回の報告書は、中国が見ている「米国の人権」の姿を示すものであり、国際ニュースとして読むときには、その視点と問題提起を手掛かりに、自分自身の人権観や社会観をアップデートしていくことが求められていると言えそうです。
Reference(s):
China releases report on human rights violations in U.S. in 2024
cgtn.com








