ガザで中東初の飢饉認定 国連報告が示す人道危機とは
ガザで飢饉が公式に認定された意味
国連の支援を受けた最新の報告書が、ガザ地区の一部で「飢饉」が発生していると正式に確認しました。これは中東で初めて公式に認定された飢饉であり、ガザの人道危機が新たな段階に入ったことを示します。
報告書によると、ガザ地区の人口のおよそ4分の1にあたる50万人超が飢饉の状態にあり、その中心はガザ市です。危機は南部のデイル・アル・バラフやハンユニスへも広がっており、より状況の把握が難しい北部では、さらに深刻である可能性が指摘されています。
国際基準で見る「飢饉」認定の条件
今回の評価は、世界の飢餓危機を分析する枠組みである「統合食料安全保障分類(IPC)」に基づいています。IPCは食料不安を5段階で示し、最も深刻な第5段階が飢饉です。
ある地域が飢饉と認定されるには、次のような条件が同時に満たされている必要があります。
- 少なくとも20%の世帯が、極端な食料不足に陥り、ほぼ飢えた状態にあること
- 5歳未満の子どもの少なくとも30%が、急性栄養不良(身長に比べて極端にやせた状態)であること
- 1日あたり1万人につき2人が、飢えやそれに関連する病気で死亡していること
今回の報告書は、ガザの一部地域でこれらの基準が満たされていると判断し、飢饉を公式に宣言しました。
数字で見るガザの飢えの深刻さ
報告書は、2025年9月末までの見通しとして、次のような厳しい数字を示しています。
- ガザ全域で約64万人(人口の約3割)が、IPCで最も深刻な「壊滅的な食料不安」に直面
- さらに約114万人が、上から2番目に深刻な「緊急」レベルの食料不安に置かれる見込み
- ガザの農地のおよそ98%が破壊されるか、立ち入りができない状態
子どもや妊産婦への影響も極めて大きくなっています。2025年7月だけで、1万2千人以上の子どもが急性栄養不良と確認され、その数は年初の6倍に達しました。新生児のおよそ5人に1人は、早産か低体重で生まれているとされます。
報告書は、2026年半ばまでに、約4万3千人の子どもと5万5千人の妊娠・授乳中の女性が、命に関わる栄養不良のリスクにさらされる可能性があると警告しています。
日常が「生き地獄」になるということ
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ガザの状況を「人為的な災害」であり、「人類そのものの失敗」だと表現し、「言葉を失うほどの生き地獄であり、もはや飢饉と呼ぶしかない」と述べました。
報告書によれば、ガザでは今も食料へのアクセスが大きく制限されています。2025年7月時点で、深刻な空腹を訴える世帯の数は5月の2倍以上、ガザ市では3倍以上に増えました。約4割の世帯が「何日も食べない日がある」と答え、大人が自分の食事を抜いて子どもに食べさせる事例が広がっています。
ガザ市では毎日、数万人が小麦粉や缶詰を求めて長い列に並びますが、多くは何も得られずに帰宅せざるをえません。2児の父ハディ・アルソラニさんは「子どもに少しでも食べさせるため、自分は1日1食にしている」と話します。
東ガザ市ザイトゥーン地区に住むウム・アフメドさんは、ここ数週間、子どもたちに平たいパンだけを食べさせてしのいでいるといいます。5歳の息子は痩せこけ、疲れ切った様子で、「食料と薬が手に入らなければ、息子の命が危ない」と不安を語ります。
子どもたちと医療現場が直面する現実
ガザ市のアル・シファ病院では、毎日、多くの子どもたちが重度の栄養失調や脱水症、貧血などで運び込まれています。同病院の小児科医アフメド・ユセフ医師は「必要な薬や栄養剤が不足しているため、救えるはずの命を失っている」と訴えています。
ガザ保健当局は、2023年10月に始まった今回のパレスチナとイスラエルの衝突以降、飢餓や栄養失調が直接の原因となった死者が少なくとも273人、そのうち112人が子どもだとしています。戦闘開始から2年以上が経過した現在も、飢えによる犠牲は増え続けています。
なぜ「人為的な飢え」と呼ばれているのか
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は、今回の飢饉を「意図的に作られた飢え」であり、「イスラエル政府によって人為的にもたらされたものだ」とソーシャルメディアで非難しました。数カ月にわたり食料や生活必需品の搬入が妨げられてきたことが背景にあると指摘しています。
国連機関は、イスラエルによる軍事作戦の激化と人道支援へのアクセス制限が続けば、子どもや高齢者、障がいのある人々を中心に、避けうるはずの死が急増すると警告しています。
一方、イスラエル首相府は、こうした報告や指摘を退け、ガザ地区に飢饉は存在しないとしています。認定をめぐる評価と受け止めは、当事者や関係国の間で大きく分かれています。
国際法上の義務と高まる外交的圧力
グテーレス事務総長は、占領下にある住民に対し、占領勢力には国際法の下で食料と医療の供給を確保する明確な義務があると強調し、「この状況を処罰なしに放置することはできない」と述べました。
多くの専門家は、飢饉の公式な宣言には政治的な意味もあると見ています。ラマラを拠点とする政治アナリストのエスマト・マンスール氏は、国際的に合意された指標に基づく報告である以上、イスラエルを支持してきた国々に対しても、人道支援の拡大や支援物資搬入の確保を求める圧力が一段と強まるだろうと指摘します。
パレスチナ外務省は、飢饉を止め、封じ込めるためには、国際社会がイスラエルに対し「大量虐殺、追放、併合の行為を直ちにやめさせる」ための断固とした行動を取るべきだと訴えました。
飢饉は止められるのか──残された時間
ラザリーニ事務局長は、即時停戦と人道支援団体による安全な活動が認められれば、飢饉の拡大は今からでも抑えることができると述べています。逆に言えば、戦闘と封鎖が続く限り、ガザの飢えはさらに深刻になり、2026年に向けて壊滅的な人道危機が続く可能性が高いということです。
飢饉は自然災害ではなく、戦闘や封鎖、人道支援の妨害といった人間の選択の結果として起こりうることを、今回のガザの事例は突きつけています。国際社会がどのような選択をするのかが、今後数カ月のガザの運命を大きく左右しそうです。
遠く離れた地域に暮らす私たちにとっても、この国際ニュースは、戦争と人道危機がどのように結びつき、一般市民の生活を奪っていくのかを考えるきっかけになります。情報に触れ続けること自体が、ガザで何が起きているのかを世界が忘れないための第一歩と言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








