FRBクック理事、トランプ大統領の解任通告に提訴へ 揺れる中央銀行の独立性
2025年12月上旬、米連邦準備制度理事会(FRB)のリサ・クック理事が、自身を解任しようとするトランプ大統領に対抗し、職を守るために提訴する方針を示しました。米国の中央銀行の独立性と世界の金融市場にとって、大きな試金石となる動きです。
クック理事、解任通告に対し提訴へ
クック理事は、FRBの政策決定を担う理事会メンバーであり、同職としては初の黒人女性です。そのクック氏に対し、トランプ大統領は「欺瞞的で犯罪の可能性がある行為」に関与したとして解任する意向を示しました。
これを受けて、クック氏の弁護人であるアビー・ロウエル氏は声明を発表し、大統領の解任試みは一通の照会文書だけを根拠としたものであり、事実的にも法的にも正当性を欠くと主張しました。クック氏側は連邦裁判所に提訴し、解任を無効とする判断を求める構えです。
トランプ大統領は記者団に対し、クック氏の後任として「優秀な候補者」がいるとしつつも、裁判所がクック氏の続投を認める判断を下した場合にはそれに従うと述べています。
焦点はFRBの独立性と長期任期
FRBの声明によると、クック氏を含む理事たちは原則14年の任期を持ち、その地位は簡単には失われないとされています。これは、短期的な政治的思惑から距離を置き、経済データと米国民の長期的な利益に基づいて金融政策を運営するための仕組みです。
トランプ大統領は月曜日にクック氏の解任を「即時発効」と発言しましたが、FRBはクック氏の地位に変更はないとの立場を示しており、大統領と中央銀行の認識のずれが表面化しています。
法律が定める「for cause」罷免とは
1913年に制定された連邦準備法は、FRB理事を「正当な理由がある場合」には解任できると定めています。英語で「for cause」と呼ばれるこの条項が、現職理事の解任を巡って本格的に争点となるのは今回が初めてです。
FRBの歴史を研究する専門家は、問題となっている住宅ローンの取引がクック氏のFRB就任前に行われ、上院での承認過程でも公になっていた点を指摘しています。過去に適法に処理された取引を、後になって突然「解任理由」とみなすことが、この「for cause」の考え方とどこまで整合的なのかが、今後の法廷の重要な論点となりそうです。
モーゲージ疑惑の中身:2つの住宅ローン
トランプ大統領はクック氏宛ての書簡の中で、クック氏がミシガン州とジョージア州の別々の物件を、それぞれ住宅ローンの申請書で「主たる居住地」と記載していたと主張しています。これらのローンは2021年、クック氏が学者として活動していた時期に組まれたものです。
住宅金融を監督する連邦住宅金融局(FHFA)のトランプ政権下の指名者であるウィリアム・ピュルト氏が、先週この問題を最初に指摘し、司法長官パメラ・ボンディ氏に調査を要請しました。司法省が捜査に踏み切るかどうかは、現時点で明らかになっていません。
クック氏は2022年にFRB理事に就任しており、問題となっているローン取引はいずれもその前に行われました。専門家は、これらの情報は指名時の審査過程で既に公的記録として把握されていたと指摘しており、「今になって同じ事実を理由に解任を正当化できるのか」が大きな争点となります。
トランプ大統領とFRBの緊張関係
トランプ大統領は、最初の在任期間から一貫してFRBに大幅な利下げを求めてきました。最近になってその圧力は一段と強まり、政策金利を数パーセント引き下げるよう求める発言を繰り返しています。
大統領はかつて、ジェローム・パウエル議長の解任もちらつかせていましたが、直近ではその方針からいったん後退したとされています。一方で、今回のクック理事を巡る動きは、FRB人事を通じて金融政策の方向性に影響を及ぼそうとする試みと受け止められています。
人事で理事会の多数派を握る可能性
クック氏がFRBを去ることになれば、大統領は7人いる理事の過半数を指名できることになります。既に2人の現職理事に加え、ホワイトハウスの経済学者であるスティーブン・ミラン氏の理事就任案が保留されているためです。
トランプ大統領は、任期が来年1月に切れる一時的な理事ポストに指名しているミラン氏を、クック氏の後任候補として検討する考えも示しています。さらに、米紙はトランプ氏と近い関係にある世界銀行グループ前総裁のデービッド・マルパス氏の名前も取り沙汰されていると報じました。
こうした人事が実現すれば、FRB理事会の構成はトランプ政権寄りに大きく傾き、利下げや金融規制緩和などの政策が推進されやすくなるとの見方も出ています。
市場の反応:ドルとアジア株が下落
大統領によるFRBへの介入と受け止められかねない今回の動きは、ドルや米国債への信認を揺さぶり、世界の投資家に不安を与えています。報道によれば、トランプ大統領がクック氏の解任を指示し、貿易相手国への関税や半導体輸出規制の強化を改めて示唆した翌火曜日、ダウ先物やアジア株は下落しました。
市場参加者にとって、中央銀行が政治から独立していることは、通貨の価値と国債の安全性を判断する際の重要な前提条件です。もし大統領が気に入らない理事を容易に解任できるとなれば、「政策が選挙スケジュールに左右されるのではないか」という懸念が強まり、金利や株価の変動が大きくなる可能性があります。
人種と多様性の観点から見る今回の人事
クック氏は、FRB史上初めての黒人女性理事として知られてきました。そうした中で、トランプ大統領がここ数カ月の間に、図書館業務を統括する連邦機関の長や全米労働関係委員会の委員長など、複数の黒人女性を要職から外してきたことも報じられています。
このため、一部では「多様性と代表性を軽視するメッセージではないか」との懸念も出ています。一方で、大統領側は、クック氏のケースについても住宅ローンを巡る行為に焦点を当てており、人種やジェンダーは関係ないと主張するとみられます。今回の提訴は、こうした議論にも影響を与えることになりそうです。
これからの焦点:裁判所の判断とFRBの行方
クック氏が予定どおり2038年までFRB理事として務めるのか、それともトランプ大統領による解任が認められるのかは、司法の判断に委ねられます。大統領は裁判所の結論には従うと明言しており、その意味でも今回の訴訟は制度の枠組みを試す重要なケースになります。
もし大統領による解任が認められれば、将来の政権も同様の手段を使いやすくなる可能性があり、FRBの独立性に長期的な影響を与えるかもしれません。逆に、裁判所がクック氏の主張を支持すれば、「for cause」条項のハードルが改めて確認され、大統領による介入には強い歯止めがかかることになります。
日本の読者が押さえておきたいポイント
- 中央銀行の独立性:FRB理事の長期任期と解任条件は、物価安定や金融システムの信頼性に直結します。
- 市場への波及効果:ドルや米国債の信認低下は、為替レートや日本の株価、金利にも影響し得ます。
- ガバナンスと多様性:初の黒人女性理事を巡る人事は、米国の統治のあり方や社会の分断を映し出す鏡でもあります。
FRBは世界で最も注目される中央銀行の一つです。クック理事とトランプ大統領の対立は、一見すると米国内の人事問題に見えますが、日本を含む世界の投資家と市民にとっても、今後の金融政策と市場の安定性を占う重要なニュースと言えます。
Reference(s):
Fed Governor Cook will sue to keep her job as Trump mulls replacement
cgtn.com








