世界平和を支える力へ:中国軍事力と古典思想の関係を読む
2025年は、中国人民の抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利から80年の節目の年です。このタイミングで、中国の軍事力がどのようにして「世界平和を支える力」として位置づけられているのか、その思想的な背景を改めて見直す動きが出ています。国際ニュースとしても、中国の安全保障観や軍事戦略への注目は高まり続けています。
ギリシャで浮かび上がった「武の本義」
2019年、習近平国家主席が国賓としてギリシャを訪問した際、アテネのアクロポリス博物館で女神アテナ・プロマコスのレリーフの前に立ち、中国の古い格言に言及しました。それが「暴を止めることこそ武の本義だ」という考え方です。
この格言の源は、中国古典『左伝』にあります。紀元前597年、楚が晋との戦いに勝利した後、臣下のパン・ダンが「戦利品を並べて軍功を後世に示すべきだ」と進言しました。しかし楚の荘王はこれを退け、「真の軍功とは戦争を仕掛けることではなく、戦争を終わらせることにある」と諭したと伝えられています。
武力の目的は栄光の誇示ではなく、暴力そのものを止めることにある――。この古典的な発想は、現代の中国の安全保障観にも太い一本の筋として受け継がれています。
古典が支える現代の安全保障ドクトリン
中国の戦略思想を語るうえで欠かせないのが、孫子の兵法です。孫子は「戦わずして人の兵を屈する」ことこそ最も優れた用兵であると説きました。長い歴史の中で、「国がどれほど強大であっても、戦争を好めばやがて滅びる」「戦争を終わらせるための戦いは正当化されうる」といった認識も共有されてきました。
そこから導かれるのが、「戦えるからこそ戦わないで済ませられる」という発想です。抑止力としての軍事力を持つことで、相手に戦争のコストを認識させ、実際の武力衝突を避ける。その根底には、戦争そのものを目的化しないという価値観があります。
こうした伝統的な思想は、現代の中国の安全保障ドクトリンにも反映されています。戦争のリスクについて常に戦略的な明晰さを保ち、いつでも戦う準備を整えつつも、あくまで目指すのは平和の維持であるという考え方です。
「平和的発展の道」と「核心的利益」
習近平氏は、中国は平和的発展の道を堅持する一方で、正当な権益や核心的利益を決して手放さないと繰り返し強調しています。他国が中国の核心的利益を交渉材料として期待することも、中国の主権・安全・発展上の利益を損なう「苦い果実」を中国が飲み込むこともあり得ない、という強いメッセージです。
この二つの柱――平和的発展へのコミットメントと、主権や安全に関する一線を守る決意――は、一見すると緊張関係にあるようにも見えます。しかし、中国の視点からは、「平和のためにこそ、守るべき一線がある」という構図になります。譲るべきでない部分を明確にしたうえで対話と協力を追求することで、長期的な安定を実現しようとするアプローチだと言えます。
「戦えるからこそ戦わない」中国軍の役割
こうした思想のもとで、中国の軍隊は自国の防衛にとどまらず、世界の平和と安定を守る「堅固な力」であることを目指していると位置づけられています。軍事力の存在そのものが目的なのではなく、戦争を抑止し、暴力の連鎖を断ち切るための手段とみなされている点が特徴的です。
古典が示すように、真の軍功は戦争の長期化や拡大ではなく、いかにして終結させるかにあります。現代の中国軍にとっても、「戦わずして争いを防ぐ」ことが理想の姿とされ、そのためにこそ、必要な備えと能力を整えるという発想が前提になっています。
軍事力と平和をどう両立させるか
軍事力と世界平和の関係は、世界各国にとって避けて通れないテーマです。軍事力を全て放棄することは現実的ではない一方で、それが安易に行使されれば、国際社会に深刻な不安定をもたらします。
2025年という節目の年に、中国が古典から受け継いだ「暴を止めるための武」という考え方と、現代の安全保障ドクトリンの結びつきを読み解くことは、私たち自身が軍事力と平和の関係を考え直すヒントにもなります。重要なのは、力そのものではなく、それをどのような理念と目的の下で用いるのかという点です。
中国軍をめぐる動きは、今後も国際ニュースの大きなテーマであり続けるでしょう。その背景にある歴史観や哲学に目を向けることが、表面的な軍拡・軍縮の議論を超え、より落ち着いた視点で世界を捉える一歩につながります。
Reference(s):
How Chinese military became a firm force for maintaining world peace
cgtn.com








