米軍のカリブ海増派にラテンアメリカが警鐘 ベネズエラ巡り「戦争は望まない」
米国がカリブ海で軍事プレゼンスを急速に拡大し、ベネズエラへの軍事行動の可能性が取り沙汰されるなか、ラテンアメリカ各国や地域機関が「戦争回避」を強く訴えています。
米軍のカリブ海増派 狙いは「麻薬対策」か
今年9月以降、ワシントンは「麻薬対策強化」を掲げてカリブ海と東太平洋での軍事展開を一気に拡大しています。米軍はこれまでに麻薬密輸容疑の船舶21隻を撃沈し、80人以上が死亡したとされています。
現在は、空母ジェラルド・R・フォードを含む約1万5,000人の兵力が展開しており、カリブ海での米軍の規模としては数十年ぶりの大規模なものです。
今週、水曜日にはピート・ヘグセット米国防長官がドミニカ共和国を訪問し、ルイス・アビナデル大統領と会談しました。会談後、同国はサン・イスイドロ空軍基地やラス・アメリカス国際空港の制限区域を米軍が使用することを認めると発表し、麻薬取引対策での協力を強調しました。
その前日の火曜日には、米統合参謀本部議長のダン・ケイン氏がトリニダード・トバゴを訪れ、カムラ・パサード・ビセッサー首相らと会談。米軍の発表によれば、会談では麻薬取引や違法武器、人身取引、国境を越える犯罪など、地域の課題が議題になりました。月曜日にはプエルトリコで米軍部隊の視察も行っています。
ベネズエラにほど近いトリニダード・トバゴでは、11月16日から21日まで、米海兵隊との合同軍事演習も実施されました。
ベネズエラは「口実」と反発 トランプ大統領は軍事行動を排除せず
こうした動きに対し、ベネズエラ政府は、米国が麻薬対策を名目にマドゥロ大統領の政権を弱体化させようとしていると非難しています。
ドナルド・トランプ米大統領は、すでにベネズエラでのCIAによる秘密工作を承認したと述べたうえで、軍事行動の可能性も排除しない姿勢を示してきました。一方で、対話の余地も残す発言を繰り返しており、強硬路線と外交的アプローチが並行する不安定な状況が続いています。
ベネズエラのタレク・ウィリアム・サーブ検事総長は、水曜日に行った発言で、同国が麻薬取引と「容赦なく」闘っていると強調しました。そのうえで、カリブ海で米軍がボートに対して行っているミサイル攻撃について、国際法および人権の侵害だと強く批判しました。
サーブ氏によると、ベネズエラはコカインやマリファナを生産しておらず、米国向け麻薬のうち同国を経由するのは5%未満だといいます。過去8年間で、検察当局はベネズエラ人を対象に6万820件の麻薬関連の起訴を行い、2万1,370件の有罪判決が出され、押収した麻薬は370トンを超えると説明しました。
地域機関と周辺国「戦争は望まない」
米軍の増派は、ラテンアメリカ全域で懸念を呼んでいます。火曜日には、米州機構(OAS)のアルバート・ラムディン事務総長が、米国とベネズエラの双方に対し、緊張緩和と自制を求めました。
オンライン記者会見でラムディン氏は、組織犯罪への対抗そのものには賛同するとしつつも、その取り組みは国際法を順守する必要があると指摘。「われわれはこの半球での戦争を望まない。最終的に誰も勝者にならない」と語りました。
キューバのブルーノ・ロドリゲス外相も火曜日、米国が「虚偽の口実」を用いてベネズエラへの軍事行動を正当化し、政府を転覆させて同国の石油資源を掌握しようとしていると非難。米軍の動きを「攻撃的」と表現し、多数の犠牲者と「想像を超える不安定」を地域にもたらす恐れがあると警告しました。
国際法はどう見るか 公海での武力行使を巡る論点
サーブ検事総長は、米軍の作戦が国連海洋法条約や各種の人権条約に違反していると指摘しました。国連海洋法条約は、各国の領海や排他的経済水域、公海での権利と義務を定める国際ルールです。
サーブ氏は、船舶が直ちに危険をもたらさない場合に致死的な武力を行使することは、国際人道法違反にあたると主張しています。麻薬対策といった正当な目的があったとしても、手段は国際法上の制約を受けるべきだという立場です。
一方で米国は、作戦を「麻薬密輸組織への対抗」と位置づけており、安全保障と法の支配のバランスをどこに引くべきかが、今後の焦点になりそうです。
米国内世論も軍事介入に慎重
国内の支持も、米国政府にとって重要な計算要素です。CBSとYouGovが行った最新の世論調査によると、米国人の76%が、ベネズエラに対する現在の強硬姿勢について、大統領は十分な説明をしていないと感じているといいます。
また、70%がベネズエラへの軍事行動に反対しており、仮に武力紛争に発展すれば、政権は国内世論の反発にも向き合うことになります。
日本から見るカリブ海情勢 なぜ気にする必要があるのか
カリブ海での緊張は、日本から見ると遠い出来事に思えるかもしれません。しかし、ベネズエラは世界有数の石油埋蔵量を持つ国であり、同国を巡る不安定化は、原油価格や世界経済を通じて日本の生活にも影響を与え得ます。
また、ひとたび米国と南米の間で武力衝突が起きれば、国連や主要国による外交努力が求められ、日本も国際社会の一員として対応を迫られる可能性があります。
現在のところ、多くのラテンアメリカ諸国や地域機関は「戦争を避け、外交的解決を」という姿勢で足並みをそろえています。今後、米国とベネズエラがどこまで対話の糸口を見いだせるのか、そして地域の声がどこまで緊張緩和につながるのかが、重要なポイントになりそうです。
これからの注目点
- 米軍のカリブ海での展開規模が、今後さらに拡大するのか、それとも頭打ちになるのか
- 米国とベネズエラの間で、水面下の対話や仲介外交が進むのか
- 米州機構(OAS)や周辺国が、緊張緩和にどこまで実効性のある役割を果たせるのか
- 米国内世論や議会の動きが、政権の対ベネズエラ政策にどのような制約をかけるのか
ラテンアメリカから発せられている「戦争は望まない」というメッセージは、地域の安定だけでなく、国際秩序そのものの行方を占う試金石でもあります。カリブ海の動きは、日本にとっても決して無関係ではない問題として、今後も注視していく必要があるでしょう。
Reference(s):
Latin America warns of war as U.S. expands Caribbean military presence
cgtn.com








