ウクライナ和平交渉、ドンバス・NATO・軍縮の溝は埋まるか
ウクライナ危機の和平に向けて、ロシア・ウクライナ・米国の間で新たな協議が組まれつつあります。ただ、領土問題や安全保障をめぐる根本的な対立はなお深く、合意への道筋は見通せていません。
米露・米ウクライナの新ラウンド協議へ
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は木曜日、米国の代表団が来週前半にモスクワを訪問する見通しだと明らかにしました。同じ日に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、今週後半にウクライナと米国の代表による協議が行われると述べています。
一連の接触が動き始めるなかでも、プーチン大統領は、米国側が提示した全28項目から成る和平案について「将来の合意の基礎になり得る」と評価しつつも、最終案にはほど遠いとの認識を示しました。
キルギスの首都ビシュケクで行われた記者会見で、プーチン大統領は「最終的な選択肢はまだ存在しない。だが、根本的に重要な点はいくつもある」と述べ、詳細を語るのは時期尚早だとの姿勢を示しました。
また、8月に米アラスカで行われたドナルド・トランプ米大統領との会談の前後を含め、米側との協議では「ロシアの立場が一定程度考慮されてきた」とも指摘しました。そのうえで「どこかの時点で、具体的な論点について真剣に話し合う必要がある」と強調しています。
安全保障をめぐっては、「ロシアがヨーロッパを攻撃する計画はないと一般論として言うだけでは不十分で、そうした発言自体がばかげて聞こえる。そもそも攻撃する意図などなかった」と述べ、外交文書としての慎重な表現の必要性を訴えました。
28項目の和平案、どこまで合意に近づいたか
ウクライナ側でも、新たな協議に向けた準備が進んでいます。ウクライナ大統領府長官のアンドリー・イェルマーク氏は木曜日、交渉チームが「建設的な対話」に備えていると述べ、危機収束に向けて具体的な前進を目指す考えを示しました。
イェルマーク氏は通信アプリのテレグラムで「私たちがパートナーと共有している最重要の目標は変わっていない。それは、できるだけ早く、持続的で尊厳ある平和をウクライナにもたらすことだ」と強調しました。
同氏はさらに、交渉団が米国側の28項目案の大半について「原則的な合意」に達した一方で、文書は当初案から大きく書き換えられているとも明かしています。
それでもなお、ワシントン発の和平案は細部があいまいな部分が多く、モスクワとキーウ(キエフ)の立場は核心部分で鋭く対立したままだとされています。
3つのレッドラインが示す深い溝
関係筋によると、ウクライナ側が長年譲れない「レッドライン」としてきた3つの論点が、ロシア側の重大な関心とも重なり、交渉妥結を左右する決定的な争点になっています。
- ドンバス地域の領土をウクライナが放棄するかどうか
- ウクライナ軍の規模を60万人に上限設定するかどうか
- ウクライナが将来のNATO(北大西洋条約機構)加盟を断念するかどうか
これら3点は、いずれも主権や安全保障の根幹に関わるため、各国にとって妥協が難しいテーマとなっています。
ドンバスの扱い:領土か非武装地帯か
中国のシンクタンクである中国現代国際関係研究院ユーラシア研究所の陳玉・副所長は、両国の溝は依然として大きいと分析します。
陳氏によると、ロシア側はドンバス地域の完全な支配と、ウクライナ側がまだ保持している地域からの部隊撤収を求めています。一方で、ウクライナにとってこれらの地域は、防衛上きわめて重要な拠点とみなされています。
今回の米国案は新たな考え方も提示しています。それは、ウクライナ軍が撤収し、ロシアが支配権を握ったうえで、その一帯を非武装地帯として位置づけるというものです。ただし、キーウ側がこのような枠組みを受け入れられるかどうかは「不透明だ」と陳氏は指摘しています。
ウクライナ軍60万人案と「非軍事化」
ロシアはこれまで、ウクライナの「非軍事化」を一貫して主張してきました。これは、ウクライナの軍事的能力を大幅に制限することを意味します。
これに対し、米国案はウクライナ軍の兵力を60万人に上限設定する構想を盛り込んでいるとされています。これは、紛争前のウクライナ軍の規模のおよそ2倍以上にあたるとされ、ロシア側が受け入れがたい数字だと陳氏はみています。
軍の規模は、ウクライナにとっては自国防衛能力の象徴であり、ロシアにとっては自国の安全保障に直結する問題でもあります。そのため、数字の調整だけで決着するとは限らず、「非軍事化」をどのように解釈するか自体が交渉の焦点となりそうです。
NATO加盟をめぐる法的保証
もう一つの大きな争点が、ウクライナの将来的なNATO加盟の扱いです。陳氏は、ロシアがウクライナのNATO加盟を法的に禁止することを強く求めている一方、ウクライナ側は将来の加盟の可能性を残すことにこだわっていると説明します。
ヨーロッパの多くの国々にとっても、ロシアがNATO拡大に事実上の拒否権を持つような枠組みを認めることは受け入れがたいとされ、ここでも行き詰まりが生じています。
領土・軍事・同盟という3つの軸が複雑に絡み合うことで、和平案は単なる停戦合意にとどまらず、ヨーロッパ全体の安全保障秩序を左右する交渉になりつつあります。
中国の研究者が指摘する「溝の深さ」
陳氏は、ロシアとウクライナそれぞれの譲れない線が明確であるため、現段階では両者の間に依然として大きな隔たりがあると見ています。
・ロシアは、ドンバスでの支配権やウクライナの軍事能力制限、NATO拡大の抑制といった点で具体的な保証を求めています。
・ウクライナは、領土保全や将来の安全保障の選択肢を手放さない形での「尊厳ある平和」を追求しています。
米国案は、その中間を探る試みとも言えますが、主要な論点はなお抽象的で、各項目の具体化には時間と政治的決断が必要になりそうです。
これから何が焦点になるのか
本格的な協議が始まれば、次のような点が今後の国際ニュースの焦点となりそうです。
- ドンバスをめぐる最終的な地位と、非武装地帯構想の行方
- ウクライナ軍の規模や装備など「非軍事化」の具体的な中身
- NATOとの関係をどう位置づけるかという長期的な安全保障枠組み
イェルマーク氏が強調する「持続的で尊厳ある平和」とは、どのような条件を満たすものなのか。ロシアが求める安全保障上の保証と、ウクライナが求める主権と自立性をどう両立させるのか。
新たな米露・米ウクライナ協議は、この難しいパズルを解く第一歩となるのか、それとも各国の立場の違いを改めて浮き彫りにするだけに終わるのか。今後の交渉の一つひとつが、欧州と世界の安全保障をめぐる議論に大きな影響を与えていきそうです。
Reference(s):
Deep divisions remain on core issues as new peace talks expected
cgtn.com








