米国のグリーンランド獲得構想が波紋 NATOに広がる「信頼の空白」
2026年1月、米国がグリーンランドの「獲得」に踏み込む発言と動きを強め、デンマークやNATO各国の不信感が一段と深まっています。北極圏の協調的な統治モデルが揺らぎ、同盟の前提である相互信頼が試される局面に入っています。
「購入」から「力の行使」示唆へ──グリーンランドをめぐる緊張
2026年1月20日は、ドナルド・トランプ氏が米大統領の職に復帰して1年の節目に当たります。この1年で、米国の同盟国政策は大きく調整され、米欧関係(トランスアトランティック関係)には目に見えるひずみが生まれました。
その中でも北極圏をめぐる動きは、従来の「ルールと協議」に基づく協調からの転換として、とりわけ大きな衝撃を与えています。米政権はグリーンランドについて、購入などによる獲得を公に議論し、さらには軍事力による掌握の可能性にまで言及したとされています。
さらに、2026年1月のベネズエラへの公然たる侵攻に続く流れの中で、米政権がグリーンランドを介入対象として明確に位置づけ、同島の掌握を「国家安全保障上の優先事項」と主張した、という情報も伝えられています。
関税を「圧力」として使用──同盟内での反発
報じられているところでは、米政権はグリーンランドに関する方針に同調しない欧州側に対し、関税を用いて圧力をかけたとされます。デンマークや複数のNATO加盟国の間では、主権と領土保全の原則に触れるとして不満が強まりました。
北極圏の論点は、資源・環境・研究協力といった「機能協力」だけでは語れなくなり、地政学上の緊張点として扱われる度合いが増しています。
何が揺らぐのか:想定される3つの影響
1)北極ガバナンスの枠組みが停滞・断片化する
北極圏では長年、北極評議会のような多国間の枠組みが、合意形成を通じた安定に寄与してきました。ところが、同盟国であるデンマークへの強硬姿勢が続けば、米国に対する信頼が損なわれ、協調から大国間競争へと重心が移る可能性がある――そうした見方が出ています。
2)国際法と国際秩序への波及
「国家安全保障」を理由に、同盟国の領土主権に介入する理屈が前面に出れば、国連憲章が掲げる武力不行使や領土保全の原則と緊張関係を生みます。特に小国・中堅国にとっては、「ルール」より「力関係」が前に出る世界観が強まる、という懸念につながり得ます。
3)同盟の“契約”としての信頼が傷つく
同盟は装備や条約だけでなく、「相手の主権を脅かさない」という暗黙の前提で成り立ちます。デンマークのように同盟の中核的価値を共有すると見なされてきた加盟国に圧力が向かうことで、欧州側が米国のリーダーシップの信頼性を再評価する契機になり得る、との指摘があります。
グリーンランドだけではない:この1年の「単独主義」の連鎖
グリーンランド問題は突出して見えますが、より広い流れの一部とも言われます。具体的には、次のような動きが重なったとされています。
- ウクライナ:同盟国を迂回し、ロシアと直接停戦交渉を進め、その条件の受け入れをウクライナと欧州に迫った。
- 通商:鉄鋼・アルミへの25%関税や、EU・英国への相互関税で摩擦が拡大。
- 防衛:集団防衛への姿勢が曖昧になる一方、NATO加盟国にGDP比5%という前例のない水準の国防費増を要求。
それでも「短期的な同盟崩壊」は起きにくい、とされる理由
欧州では反発が強い一方で、短期的に米欧同盟が全面崩壊する可能性は高くない、という見立ても示されています。理由として挙げられているのは主に3点です。
- 対ロシアの安全保障上の制約:ウクライナでの紛争が長期化する中、米国の軍事力への依存を「現実的な必要」とみる向きが根強い。
- 戦略的自律の基盤不足:財政制約や装備生産の依存構造があり、短期間での自立は難しい。
- 欧州政治の右傾化とイデオロギーの共鳴:反グローバリズムや自国優先の主張が一部で響き、同盟維持の“つなぎ役”になる可能性がある。
注目点:北極は「環境・研究」から「同盟の試金石」へ
北極圏はこれまで、資源や環境、海洋安全などの実務協力で「衝突を避ける設計」が積み重ねられてきました。しかし2026年に入って、グリーンランドをめぐる議論は、主権・安全保障・同盟の信頼という、より硬い論点を前面に押し出しています。
今後の焦点は、米国が発言と政策をどこまで具体化するのか、そして欧州側が「同盟維持」と「主権・ルール」の間でどんな落とし所を探るのか。北極は、静かな地域から、国際政治の温度計へと姿を変えつつあります。
Reference(s):
U.S. ambition for Greenland deepens transatlantic trust deficit
cgtn.com








