AIでブドウ品種改良が4倍速く 中国研究チームの精密育種とは
3年かかるブドウの結実サイクルを、AI(人工知能)で一気に短縮──中国・深圳の研究チームが発表した新しいブドウの「精密育種」技術が、国際誌『Nature Genetics』で紹介され、農業テック分野で注目を集めています。
AIが変えるブドウ育種:長いサイクルへの挑戦
ブドウは、種をまいてから実がなるまでに通常3年ほどかかり、優れた新品種を生み出すにはさらに長い時間と労力が必要です。そのため、世界中の研究者が、より速く、より正確に望ましい品種を設計・育種する方法を探してきました。
こうしたなか、中国農業科学院・農業ゲノミクス研究所(深圳)の周永鋒(Zhou Yongfeng)研究員が率いるチームは、AIを活用した新しいブドウ育種法を開発しました。この手法により、
- 育種サイクルを大幅に短縮
- 品種特性の予測精度は約85%
- 従来法と比べて育種効率を約4倍に向上
という結果が得られたとしています。
『Nature Genetics』に掲載された最新研究
この研究成果は、国際的な科学誌『Nature Genetics』に月曜日付で掲載されました。周研究員は、今回の成果について次のように述べています。
「この研究は、ブドウの精密育種設計を実現し、ブドウ品種のイノベーションを加速させることが期待されます。また、他の多年生作物の育種にも参考となるでしょう。」
多年生作物とは、果樹や茶、コーヒーなど、一度植えると複数年にわたって収穫できる作物のことです。育種に時間がかかるこれらの作物にとって、サイクル短縮は大きな意味を持ちます。
ブドウの「設計図」を読み解く:ゲノムとパングノム
AIで精密な設計・育種を行うには、膨大で正確なゲノム(遺伝情報の全体像)と遺伝形質のデータが欠かせません。周氏のチームは、2015年からブドウの設計育種に取り組んできました。
2023年には、ブドウとして初となる「完全なゲノム地図」を公開。さらに、その成果を土台に、複数のブドウ品種の遺伝情報を統合した初のブドウ・パングノム「Grapepan v1.0」を構築しました。
パングノムとは、
- 1つの品種だけでなく、多数の品種をまとめて解析することで
- ブドウという作物全体に共通する遺伝子
- 特定の品種だけが持つ特徴的な遺伝子
を同時に把握するための「拡張されたゲノム地図」です。これにより、どの遺伝子がどのような形質(粒の大きさや色、味など)に関わるかを、より立体的に理解しやすくなります。
1万種類から400品種を選抜 29項目を2年間追跡
チームは、遺伝子と形質の関係をさらに詳しく調べるため、約1万種類に及ぶブドウの中から400以上の代表的な品種を選抜しました。
そのうえで、2年にわたり、以下を含む29の農業形質について詳細な調査を実施しました。
- 房の大きさ(房重や粒の付き方)
- 果粒に含まれる代謝物(糖、酸、香り成分など)の含有量
- 果粒サイズ
- 果皮の色
これらのデータをもとに、ブドウの遺伝情報と実際の形質を結びつけた「遺伝マップ」と「形質マップ」を構築。ここまで整理されたデータがあるからこそ、AIによる予測モデルが機能しやすくなります。
機械学習モデルが「有望な苗」を早期に判定
では、こうしたデータを育種にどう活かすのでしょうか。周氏のチームは、機械学習(データからパターンを学習するAI手法)を導入し、ブドウの特性を早期に予測するモデルを開発しました。
このモデルは、苗の段階で遺伝情報を入力すると、将来どのような特性を持つブドウになるかを高い精度で予測します。周氏によると、この技術により育種家は次のような判断が可能になります。
- 大量の育種素材の「遺伝的なポテンシャル」を短時間で評価
- 優れた特性を持つ候補を効率よく選抜
- 望ましい特性を持たない苗を早い段階で間引き
これにより、不適切な苗にかけていた労力や土地、資金を減らし、限られた資源をより有望な個体に集中させることができます。結果として、育種全体の効率は従来の約4倍まで高まったとしています。
多年生作物全体への波及効果に期待
周研究員は、このブドウの精密育種技術が、他の多年生作物の育種にも参考になるとしています。果樹やワイン用ブドウなど、多年生作物は一度植えると長く付き合うことになるため、
- 気候変動への対応力(耐暑性・耐寒性など)
- 病害虫への強さ
- 品質の安定性
といった点を見極めたうえで品種を選ぶことが重要です。AIを用いた早期予測と精密設計は、こうした条件に合う品種を、従来より速く見つけるための有力なツールになり得ます。
6件の国家発明特許を取得 今後の注目ポイント
この研究はすでに6件の国家発明特許の認可を受けており、国際特許も1件出願中です。実用化に向けた準備が徐々に進んでいる段階だといえます。
今後、注目したいポイントとしては、例えば次のような点が挙げられます。
- AIモデルが実際の圃場やワイナリーなど現場レベルでどこまで再現性を示すか
- 他の果樹や多年生作物への応用がどの程度進むか
- 農業分野全体で、ゲノム情報とAIを組み合わせた「設計育種」がどこまで一般化するか
ブドウの一粒から、農業とAIの新しい関係が見えてきています。スマート農業や農業テックに関心のある読者にとっても、今後の展開をフォローしておきたい研究と言えるでしょう。
Reference(s):
Chinese scientists use AI to accelerate precise grape breeding
cgtn.com








