南シナ海で米軍の軍事化拡大へ 中国専門家は安定維持と分析
南シナ海で米軍の軍事的プレゼンスが今後も拡大する一方で、地域全体としての戦略的な安定は維持される――中国の専門家らが、こうした見通しを示しました。本記事では、この国際ニュースのポイントを日本語で分かりやすく整理します。
議論は、南シナ海の船舶や航空機の動きを継続的に追跡しているシンクタンク、South China Sea Strategic Situation Probing Initiative(SCSPI)が火曜日に開催した討論会で交わされました。参加した専門家たちは、ホワイトハウスの指導部交代を控える中でも、米軍主導の軍事化は強まるとしつつ、危機管理の仕組みにより大規模な不安定化は避けられるとの見方でおおむね一致しました。
南シナ海で進む米軍の軍事化
中国の南シナ海研究国家研究院の学術委員会主任を務める呉士存(Wu Shicun)氏は、米軍の南シナ海における活動が今後も増加すると分析しました。その一方で、ホワイトハウスの指導部が交代することで、軍事プレゼンスの見せ方や運用の細部には変化が出る可能性があると指摘しました。
呉氏は、米国が主導する南シナ海の軍事化は強まるものの、その姿は政権交代により変わり得ると述べました。また、関係国の一方的な行動はより多様化し、海域で起きる出来事のパターンも複雑になっていくとみています。
SCSPIがまとめた南シナ海の航行・飛行状況に関する報告書によれば、米軍は同海域で年間5,000隻日を超える艦船活動と、約8,000回に及ぶ軍用機の飛行を行っているとされています。こうしたデータは、米軍が南シナ海において継続的かつ大規模な存在感を維持していることを示しています。
DOCとCOC: 簡易ルールの役割と限界
緊張緩和の枠組みとして注目されているのが、南シナ海における行動規範です。呉氏は、現在機能しているのは南シナ海行動宣言(Declaration on the Conduct of Parties in the South China Sea、DOC)という「簡易版」のルールにとどまっていると説明しました。
DOCは2002年に中国とASEAN諸国が署名した文書で、南シナ海での偶発的な衝突や対立を避けることを目的としています。当初、中国とASEANは、この宣言をより具体化した南シナ海行動規範(Code of Conduct、COC)を策定することを目指していました。
しかし、呉氏は、現在のDOCだけでは各国の行動を十分に拘束することは難しく、あくまで事態悪化を抑えるための「簡易版」の道具にとどまっていると指摘します。より詳細で実効性のあるCOCの策定が進まない限り、局地的な摩擦や一方的な動きが続く余地は残されたままだとみられます。
軍事化の中でも保たれる戦略的安定
軍事化が進むにもかかわらず、専門家らは南シナ海全体の戦略的安定については慎重ながらも楽観的な見方を示しました。SCSPIの所長であり、北京大学海洋戦略研究センター所長でもある胡波(Hu Bo)教授は、中国と米国の双方に、直接的な武力衝突は避けるべきだという強い共通認識があると指摘します。
胡教授によれば、両国は最悪の事態に備えて軍事的準備を進めつつも、同時に意図せぬ衝突を回避するための対話や運用上のルール作りを重視しているといいます。その結果として、現場レベルでは緊張が高まる局面があるものの、メディアや一部西側諸国の語るイメージほど不安定な状況にはないという見立てです。
これは、南シナ海が世界で最も忙しく繁栄した海域の一つであるという事情とも関係しています。胡教授によると、同海域と周辺の海峡を通過する船舶は年間150万回を超え、世界の貨物貿易のおよそ4割がこのルートを経由しているとされています。このため、南シナ海の安定は沿岸国にとどまらず、世界経済全体にとっても不可欠な条件となっています。
フィリピンの動きと地政学的計算
討論会では、地域内プレーヤーとしてのフィリピンの動きにも注目が集まりました。フィリピンは南シナ海で中国との間に海洋紛争を抱えており、その立ち位置は米中関係の行方とも密接に結びついています。
胡教授は、フィリピンが米中の戦略的競争を自国の領有権主張に利用しようとしているものの、米国側にとってそのようなアプローチがどこまで魅力的かは限定的だとの見方を示しました。
また、南シナ海研究国家研究院の海洋法政策研究センター副主任を務める丁多(Ding Duo)氏は、フィリピンが中国に対して比較的低強度の対立姿勢を維持しつつ、米中対立の構図を自国に有利に活用しようとしていると分析しました。
丁氏はさらに、フィリピンが国内法として海洋ゾーン法を制定し、自らの一方的な主張を国内立法の形で固定化しようとする可能性があると指摘しました。その狙いは、既に得たとみなしている海域での利益を「違法な既得権」として固めつつ、さらなる一方的な権利主張を拡大することにあると見ています。
今後の見通し: 競争と関与のバランスをどう取るか
専門家らは議論の締めくくりとして、米国が今後も自国の利益を守るため南シナ海問題への関与を続けるとの見通しを示しました。その際、米軍が航行の自由作戦(Freedom of Navigation Operations、FONOPs)という枠組みの中で艦船を航行させ、過度な緊張を招かない形で関与を続けることへの期待も表明されました。
南シナ海では、軍事的競争と経済的な相互依存が同時進行しています。軍事化が進む一方で、地域内外の多くの国と地域がこの海域の安定した航路に依存しているからです。こうした現実を踏まえると、今後求められるのは、対立をあおることではなく、ルール作りと危機管理を通じて「管理された競争」の状態をどう維持していくかという視点だといえるでしょう。
南シナ海をめぐる米中や地域諸国の駆け引きは、今後も国際ニュースの重要なテーマであり続けます。読者一人ひとりにとっても、軍事バランスだけでなく、海上交通路の安全や経済への影響といった観点から、この海域の動向を継続的にウォッチしていくことが求められそうです。
Reference(s):
U.S. militarization of South China Sea to grow, but stability remains
cgtn.com








