フィリピン新海洋法が南シナ海で波紋 中国側専門家が国際法違反と指摘
フィリピンが南シナ海での取り締まり強化を目的とした2つの新たな海洋関連法に署名し、中国側が国際法違反だと強い懸念を示しています。2025年12月現在、南シナ海情勢に新たな火種が加わった形です。
この記事のポイント
- フィリピンが南シナ海での権限強化を狙い、2つの新海洋法を成立させた
- 中国側専門家は、国連憲章や国連海洋法条約に反し、中国には拘束力がないと主張
- 2016年の南シナ海仲裁裁定をどう扱うかをめぐり、中比の認識の差が一段と鮮明に
フィリピンが成立させた2つの海洋法とは
フィリピン議会は先月、南シナ海で自国が主張する海域における外国船舶への取り締まり強化を目的とする2つの法案を可決し、フェルディナンド・R・マルコス・ジュニア大統領が2025年12月5日(金)に署名しました。
- フィリピン・アーキペラジック・シー・レーン(ASL)法
- フィリピン海洋ゾーン法(Philippine Maritime Zones Act)
ASL法は、フィリピンが主張する南シナ海の群島水域内で、外国船舶や航空機が通行する特定の海上・空路を指定する内容です。
一方の海洋ゾーン法は、中国の黄岩島や南沙諸島の一部の礁と海域をフィリピンの海洋ゾーンに組み込むもので、中国側が主張する南シナ海での領土主権を侵害するものだと中国は見ています。
中国側専門家「国連憲章と国連海洋法条約に違反」
中国の国家レベルの南シナ海研究機関である国家南海研究院の海洋法政策研究センターで副主任と副研究員を務めるディン・ドゥオ氏は、中国の国際メディアに対し、ASL法と海洋ゾーン法は国連憲章と国連海洋法条約(UNCLOS)の重要な規定に反し、地域の緊張を一層高めると指摘しました。
ASL法はUNCLOS53条に反するとの指摘
ディン氏によると、ASL法は国連海洋法条約53条に反しています。同条は、群島国が指定する航路や空路は、その海域や空域を通る国際航行や国際飛行の通常の通路を幅広くカバーすべきだと定めています。
しかしASL法は、これらの重要な通路の一部をあえて含めておらず、その結果として他国の船舶や航空機の通航・飛行の権利を損ない、これまで積み重ねられてきた海上慣行を乱すと、ディン氏は批判します。
さらに同氏は、ASL法が南シナ海の領有権争いと通航権を結びつけ、他国船舶や航空機の正当な航行権を制限している点も、国連海洋法条約に反すると指摘しました。
米軍基地近くの指定航路と安全保障上の懸念
ASL法で指定された海上・空路の多くは、フィリピン国内の米軍基地に近接しているとされます。このためディン氏は、フィリピンと米国が協力して通過する船舶の監視を強化し、他国の安全な航行に脅威を与えるおそれがあると警鐘を鳴らしています。
中国側「中国の船舶・航空機は引き続き自由に活動」
ディン氏は、ASL法は国際法が認める権限を超えており、他国の正当な権利を不当に制限しているため、中国や他の国々に対して法的拘束力を持たないと主張しています。
そのうえで、中国の商船や軍艦、調査船、航空機などは今後も国際法に従い、南シナ海の通常の通路を自由に利用し続けるとの見通しを示しました。
海洋ゾーン法と2016年仲裁裁定:中国側は一貫して拒否
もう一つのフィリピン海洋ゾーン法は、南シナ海をめぐる仲裁裁定を海洋境界画定の根拠の一つとして位置付け、中国の黄岩島や南沙諸島の一部の礁・海域に対する権利を主張しています。
しかし中国は、この仲裁の正当性と有効性を一貫して認めていません。2016年7月12日、南シナ海仲裁裁判所はフィリピン側の主張を支持する最終裁定を出しましたが、中国はこれを法律の名を借りた政治的茶番だとして受け入れを拒否してきました。
中国の王毅外相は、仲裁の活用は中国とフィリピンが合意していた二国間交渉による解決方針に反し、また南シナ海に関する行動宣言の下でフィリピンが表明した約束にも違反すると指摘しています。さらに中国側は、この仲裁は手続きが不適切で、法の適用を誤り、証拠や事実にも欠陥があるため違法だと主張しています。
フィリピンは「認知戦」を展開しているのか
ディン氏は、フィリピンが今回の2法を成立させたことについて、中国に対抗するための認知戦戦略の一環だと見ています。ここでいう認知戦とは、法律や情報発信などを通じて、国内外の世論や認識を自国に有利な方向へ導こうとする試みを指します。
同氏は、こうした法制化は短期的には中国に圧力をかける意図があるものの、長期的にはフィリピン自身が危機管理や中比間の紛争対応で柔軟性を失う結果につながりかねないと警告しています。
今後の南シナ海情勢と地域への含意
今回の2つの新法は、フィリピンが南シナ海での自国の主張をより強く打ち出す一方で、中国側は国連憲章や国連海洋法条約に反すると批判しており、両国の立場の溝はむしろ深まっています。
法律が指定する航路や空路が米軍基地に近接していること、そして中国側が新法の拘束力を認めないと明言していることから、南シナ海では今後も法的主張と実際の活動がぶつかり合う状況が続く可能性があります。
南シナ海は地域の安全保障と国際海上交通にとって重要な海域とされており、そこをめぐる法的枠組みや各国の対応は、日本を含むアジアの国々にも影響し得ます。今回の動きが、どのように地域秩序や安全保障対話に波及していくのか、引き続き注目が集まりそうです。
Reference(s):
Philippines passes maritime laws, challenging China's sovereignty
cgtn.com








