フィリピン新海洋法に中国専門家が警鐘 南シナ海の平和は揺らぐか
フィリピンで「海洋ゾーン」と「群島航路」を定める2つの新しい海洋関連法が成立し、中国側が強く反発しています。南シナ海の秩序やアジア太平洋の安定にどんな影響が出るのか、中国の専門家の見方を中心に整理します。
フィリピンで成立した2つの海洋関連法とは
今回フィリピンで成立したのは、次の2つの法律です。
- フィリピン群島航路法(Philippine Archipelagic Sea Lanes Act=ASL法)
- フィリピン海洋ゾーン法(Philippine Maritime Zones Act)
これらの法案は2025年9月にフィリピン議会を通過し、12月上旬の金曜日にフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領が署名して成立しました。フィリピン側は、群島国家としての海域を整理し、通航ルールを定める狙いがあるとされています。
中国側が強く反発する理由
しかし、この動きに対して中国は強い懸念と反対を示しています。中国の全国人民代表大会(全人代)外事委員会は、フィリピン海洋ゾーン法について、「2016年の南シナ海仲裁の違法な裁定を国内法で実行に移そうとする試みだ」として、断固反対する声明を発表しました。
中国側によると、同法は中国の黄岩島と南沙諸島の大部分および関連海域をフィリピンの海洋ゾーンに組み込んでおり、中国外交部はこれが「南シナ海における中国の領土主権と海洋権益を深刻に侵害する」と批判しています。
国際法・合意とのずれを懸念
中国国際問題研究院の栄鷹(ロン・イン)研究員は、アジア太平洋地域はおおむね安定している一方で、不安定要因も抱えていると指摘したうえで、今回の2つの海洋法は「中国の領土主権と海洋権益を著しく侵害するだけでなく、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法のもとで他の当事者が持つ正当な権利も損ない、南シナ海行動宣言(DOC)の精神にも反する」と述べています。
栄氏はまた、フィリピンの行動は中国だけでなく、「地域の国々や国際社会からも批判・反対されるべきだ」として、問題の広がりを警告しています。
専門家が指摘する3つのリスク
1. 航行の自由への新たな制約
南シナ海問題を専門とする南中国海研究院の丁多(ディン・ドゥオ)副所長は、とくに群島航路法(ASL法)の中身に強い懸念を示しています。
同法は「国連海洋法条約に違反し、フィリピンの主権と権利を侵害する外国船舶や航空機は、フィリピンの航路通航権を行使できない」と規定しています。丁氏は、これは南シナ海の領有権・管轄権をめぐる紛争と、航路の通航権を意図的に結びつけるものであり、「外国船舶や航空機の正当な通航権を制限する点で、UNCLOSの規定から明確に逸脱している」と指摘します。
国際法上、航路の設定は安全や環境保護の観点から行われますが、領有権紛争を理由に特定国の通航を制限することは、国際社会の多くが慎重である分野です。その意味で、今回のASL法は他国にとっても無関係ではありません。
2. 米軍基地周辺での監視強化による緊張
丁氏がもう一つ問題視しているのは、法律で指定された海上・航空ルートが、フィリピン国内にある米軍基地に近接している点です。氏は「フィリピンと米国がこの機会を利用して協調し、航行中の船舶を監視することも排除できず、各国の航行安全を脅かしかねない」と警告しています。
もし監視や軍事活動がエスカレートすれば、南シナ海を通る商船や航空機にとってもリスクが高まり、日本を含む地域のサプライチェーンにも影響が及ぶ可能性があります。
3. 紛争の「国際化」による対立の固定化
栄氏は、フィリピン側が2つの法律を通じて目指しているのは、「違法な仲裁裁定を実行に移し、自国の違法な主張を既成事実化することだ」と分析します。
そのうえで、「フィリピンは南シナ海問題を繰り返しあおり立て、問題の『国際化』を加速させることで、米国やその同盟国に自らの違法な主張や権利侵害行為への支持を求めている」とし、こうした動きが地域の分断や対立を固定化させる懸念を示しました。
南シナ海の安定と米国の役割
南シナ海は、エネルギー資源や海洋資源が豊富なだけでなく、世界の海上輸送の要衝として、地域の平和・安定・繁栄に直結する海域です。そのため、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、対立を管理し協力を進める枠組みづくりを模索してきました。
栄氏は、域外の国である米国の役割について、「米国は、中国や関係国、ASEANが違いを管理し、平和・協力・友情の海を築こうとする努力を尊重し、支えるべきだ」と強調しています。
また、今後発足する米新政権に向けて、「本当に南シナ海の平和と安定を重視するのであれば、政策を調整し、国際法を順守し、中国や関係国が平和と安定維持のために行っている努力を尊重し、そこから干渉したり一方的に利益を得ようとしたりするのをやめる必要がある」と述べています。
日本の読者が押さえておきたいポイント
今回のフィリピン新海洋法をめぐる動きから、日本の読者として意識しておきたい点を整理します。
- フィリピンは国内法で海洋ゾーンと航路を定めることで、南シナ海での自国の主張を強めようとしている。
- 中国は、黄岩島や南沙諸島の扱いを含め、自国の領土主権と海洋権益を侵害するものだとして強く反発し、国際法や既存の合意への違反を指摘している。
- 航路や空路の設定が米軍基地周辺と重なることで、監視・軍事活動の活発化と、それに伴う偶発的な衝突リスクが高まる可能性がある。
- 南シナ海は日本のエネルギーや貿易を支える重要なシーレーンでもあり、法制度や安全保障環境の変化は、日本経済にも間接的な影響を与えうる。
感情的な二元論ではなく、「国際法」「地域秩序」「当事国の利害」がどう絡み合っているのかを意識しながらニュースを追うことが、SNSなどで議論を深めるうえでも重要になりそうです。
南シナ海情勢は、今後のフィリピンの運用、中国とASEANの対話、そして米国を含む域外諸国の関与のあり方によって、大きく方向が変わりうるテーマです。引き続き、冷静な対話と国際法に基づく解決が実現できるかどうかが問われています。
SNSでこのテーマを共有するなら、例えば次のようなハッシュタグが考えられます。
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Reference(s):
Philippines' two maritime laws violate regional peace: experts
cgtn.com








