世界古典会議で語られた「文明の対話」と若者の役割 video poster
世界の古典研究者が集うWorld Conference of Classicsの開幕式で、ケンブリッジ大学のギリシャ語学者ティム・ウィットマーシュ氏が、文明同士の「学び合い」と若い世代の古典離れをどう乗り越えるかについて語りました。古代のテキストをめぐる議論は、2025年を生きる私たちの問いとも深くつながっています。
本記事では、この国際ニュースの現場で語られたメッセージを、日本語ニュースとして分かりやすく整理します。
World Conference of Classicsとは何か
World Conference of Classicsは、古典学(古代の言語・文学・思想などを研究する分野)に関わる研究者や学生が集まり、世界各地の古典文化について議論する国際的な場として位置づけられています。第1回となる今回の会議では、「文明と文明がどう学び合うか」が大きなテーマの一つになりました。
基調講演に立ったのは、英国学士院フェローであり、英国・ケンブリッジ大学のギリシャ語リージャス教授(王室により任命される教授職)を務めるティム・ウィットマーシュ氏です。同氏は、異なる文明が互いに学び合うことの価値と、古典研究にもっと若者を巻き込む必要性を強調しました。
文明同士が学び合うことの意味
ウィットマーシュ氏がまず強調したのは、古典を一つの文明の「遺産」として閉じ込めるのではなく、世界に開いた共有財産として捉える視点です。古代ギリシャの哲学も、アジアや中東、アフリカなど他地域の思想も、現代の私たちが共に読み、対話することで初めて新しい意味を帯びます。
異なる文明のテキストを並べて読むことで、
- 自分が「当たり前」と思っている価値観が、実は歴史的・地域的なものであることに気づく
- 他者の世界観を想像する力が鍛えられる
- 単一の正解ではなく、複数の答えが共存しうることを学べる
といった気づきが生まれます。こうした「文明の対話」は、分断や対立が語られがちな国際情勢のなかで、別の関係性を模索するヒントにもなりえます。
なぜ若い世代に古典が必要なのか
講演のもう一つの柱が、「より多くの若者を古典研究に巻き込むこと」の重要性でした。SNSや動画コンテンツが日常になっているデジタル世代にとって、紀元前のテキストは一見、遠くかけ離れた存在に見えるかもしれません。
しかしウィットマーシュ氏は、古典こそ現代の若者にこそ開かれるべきだと訴えました。その理由は、少なくとも次のように整理できます。
- 批判的に考える力を育てる:古典テキストは、一語一句を丁寧に読み解き、背景を想像しながら理解していく作業が欠かせません。これは情報があふれる時代に必要な「考える筋力」を鍛えます。
- 多様性への感度を高める:古代社会にも、性別・階級・出自といったさまざまな差異が存在しました。それらをどう描き、どう語ってきたかを学ぶことは、今日の多様性の議論を考える土台になります。
- 自分の言葉を持つ手がかりになる:古典に登場する人物たちは、多くの葛藤や選択に直面します。その物語を通じて、読者は自分の生き方や価値観を言葉にするヒントを得ることができます。
古典学を「閉じた専門」から「開かれた対話」へ
古典学は、ともすると一部の専門家だけの世界に見えがちです。難しい原語や専門用語が並び、一般の読者や学生には近づきにくい領域だと感じられることも少なくありません。
ウィットマーシュ氏のメッセージは、そのイメージを大きく書き換えるものです。古典を、
- 国や地域を超えて共有できる「共通の話題」
- 世代やバックグラウンドの違いを越えて語り合える「対話の場」
- 過去と現在、そして未来をつなぐ「長い時間軸」を意識させる媒体
として位置づけ直すことで、若い世代が自分事として関わりやすくなります。
日本から考える「文明の学び合い」
日本でも、古典教育は受験科目としての印象が強く、「点数のための古文・漢文」になりがちです。しかし、世界の古典研究者が集う会議で交わされている議論は、それを超えた可能性を示しています。
例えば、
- 古代ギリシャの哲学と、日本や東アジアの思想を並べて読む授業
- 古典テキストを題材に、現代の社会問題(環境、格差、戦争と平和など)をディスカッションするゼミ
- オンラインで世界各地の学生と古典について語り合うプロジェクト
といった取り組みは、まさにウィットマーシュ氏が強調した「文明同士の学び合い」と「若者の参加」を同時に実現する場になりえます。
2025年の私たちへの問い
技術が急速に進歩し、生成AIなど新しいツールが日常化している2025年、古代のテキストに時間をかけて向き合うことは、いささか逆行しているようにも見えます。しかし、ウィットマーシュ氏の言葉は、その「逆行」にこそ意味があると示唆しています。
瞬時に情報が手に入る時代だからこそ、
- ゆっくり読むこと
- 異なる文明の声に耳を傾けること
- 過去の人びとの葛藤と自分の経験を重ね合わせて考えること
が、これまで以上に重要になっているのかもしれません。
World Conference of Classicsで投げかけられた「文明はどう学び合えるか」「そこに若者はどう関われるか」という問いは、日本の教室やオンラインコミュニティにいる私たち一人ひとりにも開かれています。ニュースとして事実を追うだけでなく、自分自身の学びや対話のあり方を見直すきっかけとして受け止めてみる価値がありそうです。
Reference(s):
Fostering cross-cultural exchange can inspire a new generation
cgtn.com








