ミャオ族の飛歌 中国貴州に響く天空の民謡 video poster
中国南西部・貴州省の山あいで暮らすミャオ族には、日常から人生の節目までを歌い上げる民謡、飛歌(flying songs)が受け継がれています。山々を越えて届くその歌声は、いまも地域の文化と人びとのつながりを支える大切な存在です。
山あいに響くミャオ族の民謡「飛歌」
ミャオ族の飛歌は、とくに中国・貴州省東部の凱里(Kaili)、剣河(Jianhe)、雷山(Leishan)、台江(Taijiang)、黄平(Huangping)などの県に受け継がれている民謡です。これらの地域では、飛歌は特別なときだけに歌う「芸術作品」ではなく、生活そのものに溶け込んだ歌だとされています。
飛歌は、ミャオ族の人びとの暮らしのあらゆる場面に寄り添っています。
- 畑仕事をするときの労働歌として
- 結婚や出産といった祝いの場で
- 家を建てるときの共同作業を支える歌として
- 若い男女が思いを交わす恋の歌として
- 集落の人びとが集う社交の場での歌として
このように、飛歌は「特別なイベント用の歌」ではなく、生活の時間を区切り、気持ちを伝え合うための、身近で実用的な歌でもあります。
山の地形が育てた「声を飛ばす」歌
飛歌の正確な起源は、口承で伝えられてきたため詳しくは分かっていません。それでも、その独特のスタイルは、険しい山岳地帯という環境と深く結びついているとされています。
谷と谷、山と山に隔てられた暮らしの中で、遠く離れた相手に声を届けるには、強く、はっきりとした発声が必要でした。こうした生活の工夫の延長線上に、現在の飛歌のスタイルが形づくられていったと考えられます。
飛歌には、次のような特徴が見られます。
- 山を越えて届くような力強い声量
- 遠くまで響く、のびやかなロングトーン
- 感情を細かく表現する抑揚豊かな旋律
ただ大きな声というだけでなく、聞き手の心に届くよう工夫された声の運び方が、飛歌を「歌の技」としても魅力的なものにしています。
人生の節目を彩る飛歌の役割
飛歌は、ミャオ族の人生の節目に深く関わっています。結婚の場では、祝いの言葉や新しい生活への願いが歌に込められます。出産のときには、新たな命への喜びと健やかな成長を祈る気持ちが歌として表現されます。
また、家を建てるときや村人総出の作業の場では、飛歌がリズムを生み、長時間の労働を支える役割も果たします。恋愛や求愛の場面では、直接言葉にしにくい感情を歌に託すことで、相手の心にそっと近づく手段にもなっています。
こうした場面で交わされる歌は、単なる娯楽ではなく、ミャオ族の価値観や世界の見方を共有するための大切なメディアでもあります。
口承で受け継がれる文化遺産
飛歌は、楽譜や書物ではなく、親から子へ、先輩から若者へと、口から口へ伝えられてきました。歌詞やメロディーは、世代を経るなかで少しずつ変化しながらも、核心となる思いは受け継がれてきたと考えられます。
口承の文化には、次のような特徴があります。
- 言葉だけでなく、場の空気や人間関係ごと伝わる
- 時代や状況に合わせて、自然に内容が更新されていく
- 歌う人びと自身が「生きた記憶」として文化を担う
デジタル機器で簡単に音楽を再生できるようになった現代だからこそ、こうした「人から人へ」の伝承のあり方は、改めて考える価値があるといえます。
デジタル時代に考える「声」の力
日々、画面越しのコミュニケーションが増えている私たちにとって、山々を越えて声を届けてきた飛歌は、「声そのものの力」を思い出させてくれる存在でもあります。
飛歌の背景にあるのは、離れていても互いにつながりたいという思いと、それを支える工夫です。その発想は、インターネットで世界がつながる現在の私たちにも通じるものがあります。
中国貴州省のミャオ族が育んできた飛歌に耳を傾けることは、自分たちの暮らしやコミュニケーションのあり方を見つめ直すきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
Miao people's melodious magic: The enchanting 'flying songs'
cgtn.com








