習近平氏が語ったAPEC CEOサミット演説:グローバル化と中国経済の行方
2024年11月、ペルーの首都リマで開かれたAPEC CEOサミットで、中国の習近平国家主席が経済グローバル化の行方と中国の改革・開放について包括的なメッセージを発信しました。本記事では、その演説の要点と、アジア太平洋や世界経済にとっての意味を整理します。
2024年リマのAPEC CEOサミット演説とは
習主席は、ラテンアメリカと中国の歴史的なつながりに触れつつ、現在の世界を「激動と変革の新たな時代」にあると位置づけました。無制限の一国主義や保護主義、分断に向かう世界経済が、グローバル化の流れを逆行させかねないと警鐘を鳴らしました。
一方で、経済グローバル化は「社会の生産力の発展に対する客観的な要請」であり、科学技術の進歩がもたらした「強大な歴史の潮流」だと強調。たとえ向かい風があっても、大きな流れそのものは変わらないという認識を示し、協力を断ち切ろうとする動きは「逆行」にすぎないとの立場を明確にしました。
そのうえで、アジア太平洋経済が今後どこへ向かうのかは、「前に進むか、流されるか」という選択であり、地域全体が進路を決めるべきだと呼びかけました。
キーワードは「包摂的なグローバル化」
演説の中心は、「より普遍的に利益を分かち合う経済グローバル化」をどう実現するかという提案でした。習主席は主に次の3点を挙げています。
1. イノベーションを成長エンジンに
第一に、世界経済の成長エンジンとしての「イノベーション」の重要性です。習主席は、イノベーションは生産力の源泉だとしたうえで、人工知能(AI)を含む新しい技術革命の波を生かし、世界経済を活性化させるべきだと述べました。
同時に、科学技術の進歩は一部の国だけでなく「全人類」に利益をもたらすべきだとし、途上国の科学技術能力の向上を支援しつつ、知識と技術の国際的な流れを促進する必要があると呼びかけました。
2. グローバル経済ガバナンスの改革
第二の柱は、時代に合わせた「グローバル経済ガバナンス(世界経済のルール・制度)」の改革です。習主席は、「共に話し合い、共に建設し、共に享受する」という原則に沿い、世界経済地図の現実をよりよく反映する仕組みに改めるべきだと指摘しました。
具体的には、いわゆるグローバル・サウス(新興国・途上国)の代表性と発言力の強化、各国に対して「平等な権利・機会・ルール」を確保することの重要性を強調。世界貿易機関(WTO)を中心とした多角的貿易体制を維持し、開かれた世界経済を推進しながら、世界の産業・サプライチェーンの安定と円滑化を図るべきだと述べました。
3. 人民中心と格差是正
第三の柱は、「人民中心」と「格差是正」です。習主席は、富める者がますます富み、貧しい人々が取り残されるような状況では、世界の繁栄と安定は達成できないと指摘しました。
「真の発展とは、すべての国の共通の発展だ」とし、経済成長と人々の幸福を両立させること、すべての国・階層・コミュニティが発展の成果を享受できる「包摂的な環境」を整えることの必要性を強調しました。
そのうえで、中国が提唱する「グローバル発展イニシアチブ」への積極的な参加を呼びかけ、国連の「2030アジェンダ」の実施を加速させ、各国のバランスある十分な発展を後押しする姿勢を示しました。
アジア太平洋の「次の30年」をどう描くか
習主席は、APECが冷戦終結前夜に誕生し、新たなグローバル化の波のなかで、アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化や経済的な相互利益に大きく貢献してきたと評価しました。その成果として生まれたのが「アジア太平洋の奇跡」だと位置づけています。
そのうえで、アジア太平洋は今後も経済グローバル化の「機関車」であり続けるべきだとし、次のような方向性を示しました。
- 平和と安定、多国間主義、開かれた地域主義といったこれまでの特徴を維持する
- 開放性と包摂性というアジア太平洋の「ブランド」をさらに磨く
- グリーン(環境調和)とデジタルを軸に、新たな発展モデルを打ち出す
- 「アジア太平洋運命共同体」を構築し、今後30年の「黄金期」を切り開く
アジア太平洋を、グローバル化を前に進める牽引役として再定義しようとするメッセージとも言えます。
中国が示した4つの約束
演説の後半では、習主席は「昨年7月に中国共産党が第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)を開き、改革の包括的な計画を採択した」と振り返りました。およそ5年かけて300を超える改革措置を実行することで、中国自身の発展だけでなく、世界の発展にも新たな機会を作り出すと説明しています。
1. 全面改革で世界経済に成長エンジンを提供
第一に、中国は「ハイスタンダードな社会主義市場経済」の構築を掲げ、公平で活力ある市場環境づくりを進めるとしました。資源配分の効率を高めるため、財政・税制改革、統一的な全国市場の整備、新型都市化の推進など、重点分野での改革を打ち出しています。
また、消費拡大や内需の強化を通じて改革の効果を高め、経済の回復と成長を後押しする方針を説明。演説時点で習主席は「今年の成長目標を達成し、世界最大の成長エンジンであり続ける自信がある」と述べました。
2. ハイテクとデジタルで「高品質な成長」をめざす
第二に、「ハイクオリティな発展」を通じて世界経済の質的向上をリードするという方針です。習主席によると、同年上半期には中国のハイテク製造業とハイテクサービス業への投資が二桁の伸びを記録し、産業構造と成長モデルの高度化が進みました。
今後は、新たな生産力の源泉を育てつつ、実体経済とデジタル経済の深い統合を進めると強調。サービス産業の拡大やインフラの近代化、産業・サプライチェーンの強靱化を図りながら、「一帯一路」協力を通じて陸と海が連結したネットワーク構築を進めるとしました。
3. グリーン転換で気候変動対策に貢献
第三に、グリーン発展を通じて世界の脱炭素・気候変動対策を後押しするという点です。習主席は、中国の経済・社会発展における「グリーン度」が高まっていると説明しました。
中国は世界で初めて「土地劣化ゼロ増加」を達成し、新たな造林面積は世界全体の4分の1を占めると紹介。新エネルギー分野の拡大や「グリーン鉱業」の国際協力を進め、エネルギー消費の効率を大きく高めていると述べました。
さらに、中国の風力・太陽光発電製品によって、他国は約8億1,000万トンの二酸化炭素排出を削減し、クリーンで信頼でき、手ごろなエネルギーへのアクセスを得ていると強調し、こうした取り組みが世界の気候変動対策の重要な一部になっていると位置づけました。
4. さらなる開放で世界と成長機会を共有
第四に、高い水準の対外開放を通じて、中国の発展機会を世界と共有するというメッセージです。習主席は、「開放は中国式現代化の際立った特徴だ」と述べ、具体的な措置を詳しく挙げました。
- 製造業への外資参入制限を全面的に撤廃
- 越境サービス貿易について、全国レベルで初のネガティブリスト(禁止・制限事項の一覧)を導入
- 通信、インターネット、教育、文化、医療などの分野をさらに開放
- 包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)やデジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)のルールを参照し、制度面からの開放を強化
- 144時間のトランジットビザ免除の対象を拡大し、「中国への旅行」が世界で人気になっていると紹介
今後も、自主的かつ一方的に新たな開放措置を打ち出し、世界に向けたハイスタンダードな自由貿易圏ネットワークを拡充し、「中国の扉をさらに大きく開いていく」としています。
歴史と比喩で語られた「つながる太平洋」
演説では、歴史やことわざを引用しながら、アジア太平洋とラテンアメリカの結びつきが語られた点も印象的でした。
- 16世紀後半、絹や陶磁器を積んだ「中国船」がラテンアメリカに到達し、友好的な交流が始まったと紹介
- 「果実を食べるときは木を思い、水を飲むときはその源を思うべきだ」という古代中国の学者の言葉を引用し、中国の発展はアジア太平洋抜きには語れず、その成果も地域に還元されると説明
- ペルーで広まっているという「チャンカイから上海へ」という言い回しを引き合いに出し、500年前の中国船と現代の物流ルートを重ね合わせた
こうした比喩を通じて習主席は、「開放と連結の精神」を共有し、広大な太平洋を「より大きな繁栄と成長の通り道」にしようと呼びかけました。
2025年の今、このメッセージをどう読むか
2024年11月のAPEC CEOサミットでの演説は、揺らぐグローバル化のなかで、アジア太平洋と中国がどのような役割を果たすのかをめぐる中国側の見取り図を示すものでした。
とくに、
- イノベーションとデジタル化を軸にした成長戦略
- グリーン転換と気候変動対策を重ねた産業政策
- 制度面まで踏み込んだ対外開放の拡大
といった点は、アジア太平洋の企業や投資家にとって、今後数年のビジネス環境を考えるうえで重要な論点となりそうです。
世界経済の不確実性が高まるなか、各国・各地域がどのような形で「包摂的なグローバル化」を描き、そのなかでどんなパートナーシップを構築していくのか。2025年の今、改めてこの演説を読み解くことは、私たち一人ひとりが自分の仕事や生活の延長線上で世界とのつながりを考えるヒントにもなりそうです。
Reference(s):
Full text of President Xi Jinping's written speech at APEC CEO Summit
cgtn.com








