中国で「気温指数」正式運用 農業・エネルギーの気候リスクを金融でヘッジ
中国で新たな気候関連の金融指標「気温指数」が正式に立ち上がりました。農業やエネルギー分野の気候リスクを、金融市場の仕組みを通じてどうカバーしようとしているのかを整理します。
中国の国家機関と商品取引所が共同開発
中国の国家気象信息センター(NMIC)と鄭州商品取引所は、共同開発した気温指数の正式運用を開始しました。この指数は、農業やエネルギー分野で高まる天候・気候リスクをヘッジ(対策)するとともに、金融市場におけるリスク管理を強化することを目的としています。
NMICによると、この気温指数は国家レベルのプラットフォーム上に構築され、実体経済のニーズを強く意識した設計になっています。気象データと電力需要、金融市場の需要を結びつけることで、気候リスクを数値として捉えやすくする狙いがあります。
気温指数の仕組み:1991年からの時間別データを活用
気温指数は、高解像度の気温観測データをベースに、1991年までさかのぼる時間別(1時間ごと)の気温変化を利用して算出されます。冷房需要と暖房需要を別々にとらえるために、それぞれ異なる基準気温を設定し、冷房度時間指数・暖房度時間指数といった指標を構成しているのが特徴です。
冷房度時間や暖房度時間とは、ある基準気温をどれだけ上回ったか・下回ったかを時間とともに積み上げていく考え方で、実際の冷暖房需要やエネルギー消費と関連づけやすい指標です。これを金融商品に結びつけることで、異常高温や厳冬といった事態に備えることが可能になります。
長江中下流域の53地点で2024年から試行
この気温指数は、2024年9月から中国・長江中下流域の53の基準地点で試行運用が行われてきました。長江中下流域は農業生産が盛んな地域であると同時に、工業や電力需要も集中するエリアでもあり、気温変動の影響を受けやすい地域といえます。
約1年以上にわたる試行を経て正式運用に入ったことで、今後は対象地域や対象分野の拡大が注目されます。
ビッグデータ基盤「天擎」と「天鏡」を活用
気温指数の算出には、中国の気象ビッグデータクラウドプラットフォームである天擎(Tianqing)と、総合気象業務のリアルタイム監視システムである天鏡(Tianjing)が活用されています。さらに、中国気象データネットワークの情報も組み合わせることで、全国規模でのデータ処理と監視が可能になっています。
現在、気温指数は標準化された処理システムを確立しており、リアルタイムで6種類のサブ指数を公表しています。その一部には、
- 日平均気温指数
- 冷房指数
- 暖房指数
などが含まれ、これらを組み合わせることで、季節ごと・地域ごとの気温リスクを立体的に把握できるようになっています。
農業・エネルギー・金融の現場でどう使われるか
この新しい気温指数は、複数の分野での活用が想定されています。
- 農業分野:高温や低温が続くと、作物の生育や収量が大きく変動します。気温指数に連動した保険や金融商品を活用することで、収入の急激な落ち込みをある程度カバーしやすくなります。
- エネルギー分野:猛暑による冷房需要の急増や寒波による暖房需要の増加に備え、電力会社やエネルギー関連企業が、需要変動リスクをヘッジする手段として指数を利用できる可能性があります。
- 金融市場:気温に連動するデリバティブ(金融派生商品)や、気候関連の投資商品を設計する際の基準指標として用いることで、気象リスクを組み込んだポートフォリオ管理がしやすくなります。
気候変動が進むなかで、気温の「平年並み」が当てになりにくくなっている今、こうした指数はリスク管理の新しいインフラになり得ます。
日本やアジアの読者にとっての意味
日本を含むアジア各国・地域でも、猛暑や暖冬、豪雨などによる気候リスクが日常化しつつあります。中国で始まった気温指数の取り組みは、次のような観点で参考になりそうです。
- 気象データと電力需要データを組み合わせた「実体経済志向」の設計
- 長期間の観測データ(1991年以降)にもとづく指数化
- リアルタイムでのサブ指数公表による市場との接続
日本でも、農業保険や電力市場で気候リスク対応の議論が進むなか、このような指数のあり方は一つの比較材料になり得ます。各国・地域がそれぞれの気候条件と産業構造に合わせて、どのような指標や金融商品を設計していくのかが、これからの重要な論点です。
これからの論点と展望
今回の気温指数をめぐっては、今後、次のような点が注目されます。
- 指数算出方法の透明性とデータの信頼性をどう高めるか
- 対象地域をどこまで広げ、どの産業までカバーするか
- 気候変動の長期的な影響を指数設計にどう織り込むか
気候変動リスクを「勘」ではなくデータと指数でとらえ、それを金融の言葉に翻訳する試みは、実体経済と金融市場の関係を変えていく可能性があります。今回の気温指数の正式運用は、その一つの実験として、これからのアジアの気候・経済・金融を考えるうえでも注目しておきたい動きです。
Reference(s):
Temperature Index launched to hedge against weather and climate risks
cgtn.com







