G20リオで習近平氏が語った「公平なグローバル・ガバナンス」とは
2024年11月のG20リオ首脳会議で、中国の習近平国家主席が「公平で公正なグローバル・ガバナンス」の構築を呼びかけました。本稿では、そのスピーチの要点と背景を整理します。
2024年G20リオ首脳会議での習主席スピーチ
2024年11月18日、ブラジル・リオデジャネイロで開かれた第19回G20サミット第2セッションで、中国の習近平国家主席は「公平で公正なグローバル・ガバナンス体制のために力を合わせよう」と題する演説を行いました。
習主席は、G20が発足から16年間で世界金融危機や気候変動、新型コロナウイルスなどの危機を乗り越えるうえで重要な役割を果たしてきたと振り返りつつ、今後もグローバル・ガバナンスを前進させる原動力であるべきだと強調しました。
そのうえで、人類は「運命共同体」であり、各国は互いを脅威ではなく機会として捉え、ライバルではなくパートナーとして向き合うべきだと述べました。国連憲章の目的と原則、国際法に基づく国際秩序を守ることの重要性も改めて訴えています。
5つの柱で見るグローバル・ガバナンス改革
演説の中心は、グローバル・ガバナンス改革に向けた5つの分野別提案です。経済、金融、貿易、デジタル、生態環境という5つの柱から、G20の役割を再設計しようという構図が見えてきます。
1. 世界経済ガバナンス:協力と成長戦略の再強化
第一の柱は、世界経済ガバナンスの改善です。習主席は、G20がこれまで策定してきた包括的成長戦略や「強く、持続可能で、均衡が取れ、包摂的な成長」の枠組みを土台に、各国の協力を一段と強める必要があるとしました。
- 財政、金融、通貨、構造改革といったマクロ経済政策の協調を強化すること
- 新たな質の生産力を育成し、全要素生産性を高めることで世界経済の可能性を広げること
- G20財務相・中央銀行総裁会議を、マクロ経済政策協調の「バラスト」(重し)として活用すること
- 開発途上国の債務問題について、国際金融機関や商業債権者を含む主要債権国が債務削減や返済猶予に参加すること
- 汚職に対してゼロトレランス(不寛容)の姿勢を貫き、逃亡犯の送還や不正資産の回収で国際協力を強化し、汚職に関わる人物と資産の「安全な避難場所」をなくすこと
2. 世界金融ガバナンス:安定と代表性の向上
第二の柱は、世界金融ガバナンスの改善です。ここで習主席は、開発途上国の発言力と代表性を高めることを強く打ち出しました。
- 世界銀行による出資比率(シェアホルディング)の見直し
- 国際通貨基金(IMF)によるクォータ(出資・議決権比率)の再調整を、合意済みの時間軸と道筋に沿って実施すること
- 各国の国内金融政策の調整による負の波及効果を防ぎ、国際金融市場の安定を守ること
- 金融リスクの監視、早期警戒、危機対応の仕組みを強化し、デジタル通貨や課税分野での協力を進めること
- 「G20持続可能な金融ロードマップ」の実行を加速し、開発途上国のグリーン投資需要に応えること
3. 世界貿易ガバナンス:開かれた多角的体制の再構築
第三の柱は、世界貿易ガバナンスです。習主席は、国際経済と貿易の議題の中心に「開発」を据え、貿易と投資の自由化・円滑化を着実に進めるべきだと述べました。
- 世界貿易機関(WTO)の改革を推進し、一方的な措置や保護主義に反対すること
- WTOの紛争解決メカニズムを早期に正常化させること
- 「開発のための投資円滑化協定」をWTOの法的枠組みに組み込むこと
- 電子商取引(eコマース)に関する合意形成を早期に進めること
- 従来からの懸案と新しい課題の両方に対応し、将来志向のルールづくりを進めて多角的貿易体制の権威と有効性を高めること
- 経済問題の政治化や、世界市場の分断、グリーン・脱炭素の名の下での新たな保護主義的措置を避けること
また、中国とインドネシアなどが提唱した「強靭で安定した産業・サプライチェーンに関する国際協力イニシアチブ」に触れ、より平等で包摂的、建設的な産業・供給網パートナーシップの構築に向け、各国との協力を深める用意があると述べました。
4. 世界デジタルガバナンス:イノベーションを包摂的に
第四の柱は、デジタル分野のガバナンスです。習主席は、G20デジタル経済相会合の機能を強化し、デジタル移行やデジタル経済と実体経済の深い融合、新領域におけるルールづくりを主導していくべきだと提案しました。
特に人工知能(AI)については、国際的なガバナンスと協力を強化し、AIを一部の富裕な国だけの「ゲーム」にするのではなく、「善のため」「すべての人のため」の技術とする必要があると強調しました。
演説では、中国が2024年に世界AI会議とグローバルAIガバナンスに関するハイレベル会合を開催し、「グローバルAIガバナンスに関する上海宣言」を発表したこと、国連総会でAI能力構築に関する国際協力を強化する決議採択を他国と共に推進したことにも言及しています。さらに、2025年にもう一つの世界AI会議を開催し、G20各国の参加を歓迎すると述べました。
5. 世界生態ガバナンス:気候と生物多様性への対応
第五の柱は、生態環境、すなわち気候変動や生物多様性に関するガバナンスです。習主席は「共通だが差異ある責任」という原則を重視しつつ、パリ協定と「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」を完全かつ効果的に実施し、人類と自然の調和ある共生を目指す必要があると述べました。
- 先進国は、開発途上国に対して資金、技術、能力構築の支援を提供する責任があること
- 直近の国連生物多様性会議で得られた合意を踏まえ、今後の気候変動や砂漠化に関する国連会議で前向きな成果が得られるよう、各国が協力すべきであること
- エネルギー転換とエネルギー安全保障は重大な課題であり、「旧を廃して新を立てる」のではなく、新しいエネルギーを着実かつ秩序立って導入しながら、世界経済全体のグリーンで低炭素な転換を加速すべきであること
中国としても、グリーンインフラ、グリーンエネルギー、グリーン鉱業、グリーン輸送などの分野で国際協力を深め、可能な限り開発途上国を支援していく姿勢を示しました。
安全保障ガバナンスと地域紛争への言及
演説の後半では、グローバル・セキュリティの問題にも触れています。習主席は、グローバル・ガバナンスの一部として安全保障ガバナンスを位置付け、G20は国連と安全保障理事会がより大きな役割を果たすことを支持すべきだと述べました。
ウクライナ危機:三つの原則と「平和の友」
ウクライナ危機については、戦線の拡大、敵対行為のエスカレーション、火に油を注ぐ行為を避けるという三つの原則を挙げ、政治的解決に向けた環境づくりが重要だと主張しました。
中国とブラジルは、複数のグローバル・サウス諸国と共に「ウクライナ危機に関する平和の友グループ」を立ち上げ、より多くの「平和の声」を集めることを目的としていると説明しています。
ガザ情勢とパレスチナ問題:二国家解決の必要性
ガザでの戦闘については、人々に深い苦しみをもたらしているとしたうえで、即時停戦と戦闘の終結、人道危機への対応と戦後復興支援の必要性を訴えました。
パレスチナとイスラエルの衝突の「根本的な出口」は、二国家解決の実現、パレスチナの正当な民族的権利の回復、そして独立したパレスチナ国家の樹立にあると指摘しています。
G20の原点に立ち戻る呼びかけ
演説の締めくくりで習主席は、G20が創設時の使命に立ち返り、リオデジャネイロを新たな出発点として、パートナーシップを継承し「真の多国間主義」を実践しようと呼びかけました。
そして、共通の発展と繁栄に向けて、より良い未来を切り開くために共に努力しようと各国首脳に訴えています。
newstomo読者への視点:何が読み取れるか
この演説からは、次のようなポイントが浮かび上がります。
- G20を舞台に、グローバル・ガバナンスの議論を経済から安全保障まで広げていこうとする動き
- 国際金融機関やWTO改革を通じて、開発途上国の代表性や開発アジェンダを前面に押し出す姿勢
- AIやデジタル、グリーン転換といった新しいルールづくりの分野で、国際協力を主導しようとする意図
- ウクライナやガザといった危機に対し、即時停戦や政治的解決を重視する立場
G20リオでの習主席のスピーチは、世界経済だけでなく、デジタル、環境、安全保障までを含む広い意味でのグローバル・ガバナンスの青写真を示したものと言えます。各国がこの提案をどのように受け止め、具体的な国際ルールや協力枠組みに落とし込んでいくのかが、今後の注目点となりそうです。
Reference(s):
Full text: Xi Jinping's speech during 2nd session of 19th G20 Summit
cgtn.com








