中国AIがけん引する産業デジタル化 世界インターネット会議報告を読み解く
AIが産業のデジタル化をどう加速しているのか。中国で約一万カ所のスマート工場が稼働し、AI特許が急増していることが、世界インターネット会議で公表された最新報告から見えてきました。本稿では、その要点とグローバル産業、日本への示唆を整理します。
世界インターネット会議が示したAI×産業の現在地
中国浙江省の水郷・烏鎮で開催された二〇二四年の世界インターネット会議烏鎮サミットでは、中国サイバースペース研究院が二つの報告書を公表しました。ひとつは中国のインターネット発展をまとめた「中国インターネット発展報告二〇二四」、もうひとつは世界の動向を整理した「世界インターネット発展報告二〇二四」です。
両報告書は、情報インフラ、デジタル経済、サイバーセキュリティ、法に基づくサイバー空間ガバナンスなどを幅広く分析し、その中で特に、AIが産業のデジタル化と高度化を支える中核技術として位置づけられています。サミットのテーマは、人を中心に据え、善き目的のためにAIを活用するデジタル未来をめざし、サイバー空間での共同体を築くというものです。
約一万カ所のスマート工場 AIが生産現場を変える
報告によると、中国本土では全国でほぼ一万カ所のデジタル化工場やスマート工場が整備されています。そのうち四百二十一カ所は、国家級のスマート製造デモ工場として育成されており、その約九割がAIやデジタルツインの技術を導入しています。
- 全国のデジタル化工場・スマート工場:約一万カ所
- 国家級スマート製造デモ工場:四百二十一カ所
- その約九割でAIやデジタルツインを活用
デジタルツインとは、現実の工場や設備をデジタル空間上にそっくり再現し、シミュレーションや遠隔監視に使う技術です。これにAIによる需要予測や品質検査、設備保全などが組み合わさることで、生産効率の向上や不良率の低下、エネルギー使用の最適化が進みつつあります。
特許と大規模モデルから見るAI競争力
AI関連特許のデータからも、産業デジタル化を支える技術基盤の厚みがうかがえます。二〇二三年末時点で、中国本土におけるAI発明特許の有効件数は三十七万八千件に達し、前年から四〇パーセント以上の増加となりました。この伸びは、世界平均の約一・四倍とされています。
- AI発明特許の有効件数:三十七万八千件(二〇二三年末時点)
- 前年から四〇パーセント超の増加(世界平均の約一・四倍)
- 二〇一四〜二三年の生成AI関連特許出願:三万八千件超で世界首位
- 二〇二四年三月時点で、パラメーター数十億以上の大規模モデルが百件超
生成AIとは、文章や画像、音声、プログラムコードなどを自動生成するAIの総称です。その中核となるのが、大量のデータを学習した大規模モデルです。報告では、パラメーター数が十億を超える大規模モデルが二〇二四年三月の時点で百件以上存在し、中国本土での生成AI開発が急速な成長フェーズに入っているとしています。
アリババとバイドゥ 現場で使われるAIプラットフォーム
こうした大規模モデルは、工場だけでなく、電子産業、ヘルスケア、交通などさまざまな分野で実務に使われ始めています。報告では、アリババグループとバイドゥの事例が紹介されています。
アリババグループのクラウド部門が展開する自社開発モデル群「Qwen」では、これまでに百種類を超えるオープンソースモデルが公開され、累計ダウンロード数は四千万回を突破しました。また、アリババのAIオープンモデルコミュニティ「ModelScope」には、二〇二四年九月末時点で八百万人超の開発者が参加し、モデルの開発や実装に取り組んでいるとされています。モデルをオープンソース化することで、スタートアップや中小企業でも高度なAIを活用しやすくなり、産業分野への実装が加速している構図です。
一方、バイドゥが開発した「ERNIE Agent」は、同社の基盤モデル「ERNIE」の能力を産業向けに拡張する役割を果たし、八十万超の開発者と十五万社の企業が活用していると報告されています。中国工程院の朱有勇院士のチームと連携して開発された「農業院士エージェント」は、朱氏の研究や農業知見を取り込み、作物の栽培方法や病害虫対策などについて農業従事者をリアルタイムに支援するツールとして紹介されました。
大規模モデルと専門家の知見を組み合わせることで、医療や農業など人手不足が指摘される分野で、現場に密着したAIサービスを提供する動きが広がっていることがうかがえます。
市場規模と産業主導のAI研究
市場規模の面でも、AIプラットフォームと応用分野は急速に拡大しています。調査会社IDCの推計によると、中国本土における大規模モデル関連のプラットフォームとアプリケーション市場は、二〇二三年に十七億七千万元規模に達しました。
研究開発体制にも変化が見られます。世界インターネット発展報告は、将来の産業を支えるAI技術への期待から、産業界によるAI研究投資が拡大していると指摘します。二〇二三年に発表された著名な機械学習モデルのうち、産業界から生まれたものが五十一件だったのに対し、学術界の貢献は十五件にとどまりました。資金やデータ、計算資源へのアクセスが限られる学術機関から、よりリソースを投入できる産業界へと人材が移りつつあり、産業界主導のイノベーションが進んでいる構図です。
今後は、産業界の実装力と、大学などが持つ基礎研究の知見をどう結びつけるかが、技術競争力を左右するポイントになりそうです。
グローバル産業と日本への示唆
こうした動きは、中国本土にとどまらず、サプライチェーンを通じて世界の産業構造にも波及していきます。製造拠点や調達先として中国本土と深く結びつく日本企業にとっても、スマート工場やAI活用の水準は、自社の競争力に直結するテーマです。
今回の報告書から、日本の読者が押さえておきたいポイントを整理すると、次のようになります。
- 生産現場のデジタル化が「一部の先進工場」から「全国規模」へと広がりつつあること
- 生成AIと大規模モデルが、一般業務だけでなく製造や農業などリアルな産業の現場にも浸透し始めていること
- オープンソース化されたモデルを軸に、開発者コミュニティがエコシステムとして形成されていること
- AI研究の重心が学術界から産業界へ移りつつあり、実装志向の研究が加速していること
これらは、日本企業や研究機関、そして個々の開発者にとっても他人事ではありません。スマート工場や生成AIの活用で何を目指すのか、自社の強みをどうデジタル化し、どの部分を外部のプラットフォームに委ねるのか。そうした戦略的な問いが、これから一層重要になっていきます。
世界インターネット会議が掲げた、人を中心にAIを善く使うというテーマは、技術開発の方向性を考えるうえでの共通の軸になり得ます。産業のデジタル化が進む中で、利便性や効率だけでなく、働き方や地域社会への影響も見据えながら、AIとの付き合い方をアップデートしていくことが求められています。
Reference(s):
Report: AI empowering digital development of global industries
cgtn.com








