インドの世界遺産をどう守るか 歴史家が語る「見過ごされた危機」 video poster
インドはユネスコの世界遺産登録数で世界第5位に位置する「世界遺産大国」です。しかし、人口の急増や無秩序な都市化、汚染、環境変化が、こうした文化遺産に存在そのものを揺るがす脅威を与えていると指摘されています。2025年の今も続くこの課題について、歴史家や活動家は「多くが進んだ一方で、まだ見過ごされている遺産がある」と警鐘を鳴らしています。
インドは世界遺産大国、その足元で何が起きているか
国際ニュースとしても注目されるインドの世界遺産は、歴史的に重要で、人びとの生活の中心に位置する場所に多くあります。古くからの街並みや宗教的建造物、歴史的な都市空間などは、インドの多様な文化と歴史を象徴する存在です。
一方で、その「良い立地」が裏目に出る場面も増えています。大都市の拡大や観光客の増加、周辺インフラの整備などにより、文化遺産が日常的なストレスにさらされているのです。世界遺産として有名な場所だけでなく、公式に登録されていない多くの歴史的な場所も、同じような圧力を受けています。
人口増加・都市化・汚染・環境変化という四重の圧力
歴史家や活動家は、インドの文化遺産が次のような複合的な要因によって脅かされていると指摘します。
- 急速な人口増加:周辺地域での住宅や商業施設の拡大が、遺跡や古い街区を圧迫する。
- 無秩序な都市化:計画性に欠けた開発により、歴史的景観が分断され、保護区域の境界も曖昧になりがちである。
- 汚染:大気汚染やごみ問題が、石造建築や壁画などの劣化を加速させる。
- 環境変化:気候や周辺環境の変化が、劣化のスピードや災害リスクを高めている。
これらの要因は、単独でも文化遺産の劣化を進めますが、同時に進行することで「存在そのものが危うくなる」レベルの影響を生み出します。歴史的価値を持つ建物や街並みが、気づかないうちに徐々に失われていく構図です。
歴史家スワプナ・リドル氏が語る「見過ごされた遺産」
国際メディアCGTNは、インドの歴史家で著述家のスワプナ・リドル氏にインタビューを行い、文化遺産保護の現状と課題を聞きました。リドル氏を含む歴史家や活動家は、インドではこれまで多くの取り組みが行われてきたと評価しつつも、「まだ手が届いていない領域」が残されていると指摘します。
とくに問題視されているのは、世界遺産に登録された有名な場所の影で、「あまり注目されてこなかった遺跡や歴史的な地区」が後回しになりやすいことです。観光資源として分かりやすい場所には資金や人材が集まりやすい一方で、日常の生活空間と重なっているような古い住宅街や、市場、宗教施設などは、開発と保護のせめぎ合いの中で徐々に失われていく危険を抱えています。
「いま介入しなければ間に合わない」
歴史家や活動家が共通して訴えるのは、「すでに多くが進んでいるからこそ、見過ごされた場所への介入を急ぐべきだ」という点です。リドル氏へのインタビューでも、目立つ世界遺産だけを守るのではなく、幅広い歴史的景観や文化的環境を守る視点の必要性が強調されています。
具体的には、次のような考え方が重要だとされています。
- 文化遺産を「個別の建物」ではなく、「周辺の街並みや暮らしと一体の空間」として捉える。
- 大規模な保護プロジェクトだけでなく、小さな歴史的空間にも目を向ける。
- 専門家だけでなく、地域の人びとや自治体を巻き込んだ保全の仕組みをつくる。
これらはインドに特有の課題というより、世界の多くの国と地域が共通して直面しているテーマでもあります。
なぜ「見過ごされた遺産」を守ることが重要なのか
世界遺産や文化遺産の保護は、観光のためだけに行うものではありません。歴史家たちは、それが「人びとの記憶」や「アイデンティティ」を支える基盤だからだと指摘します。
有名な記念碑や寺院だけでなく、日常生活と結びついた小さな歴史的空間もまた、その国や地域の歴史を物語る貴重な手がかりです。そうした場所が失われることは、単に古い建物が減るというだけでなく、未来世代が過去を学び、自分たちの社会を理解する手段が細っていくことにもつながります。
インドの事例は、急速な経済成長や都市化が進む社会において、「発展」と「継承」をどう両立させるかという難問を考えるうえで、重要なヒントを与えてくれます。
日本からこのニュースをどう読むか
インドの世界遺産と文化遺産をめぐる議論は、日本を含む多くの国や地域にとっても無関係ではありません。人口構造の変化や都市再開発、観光の増加など、似た構図は世界各地で見られます。
国際ニュースとしてこのテーマを見るとき、日本の読者にとっての問いは次のようなものになりそうです。
- 自分の身の回りにある「小さな歴史的な場所」は、どのように守られているのか。
- 経済的な合理性と、歴史や文化を守る価値をどうバランスさせるべきか。
- 観光や開発に関わるとき、文化遺産への影響をどこまで想像できているか。
インドでの議論や、スワプナ・リドル氏のような歴史家の発信は、世界遺産や文化遺産を「遠い国の観光スポット」ではなく、「自分たちの社会の未来を考えるための鏡」として捉え直すきっかけを与えてくれます。
これから私たちにできること
文化遺産保護の最前線に立つのは、もちろん現地の人びとや専門家です。しかし、インドの事例から学びつつ、遠く離れた私たちにもできることがあります。
- 知ることから始める:国際ニュースや解説を通じて、インドをはじめ世界の文化遺産の現状に関心を持つ。
- 「持続可能な観光」を意識する:文化遺産を訪れる際には、混雑やごみ、マナーなどが遺産に与える影響を考える。
- 身近な歴史を振り返る:自分の住む地域の歴史的な場所や文化を見直し、その価値について家族や友人と話してみる。
インドの世界遺産をめぐる議論は、「何を残し、何を変えていくのか」という、現代社会共通のテーマそのものです。歴史家や活動家が指摘する「今、介入が必要だ」というメッセージを、自分たちの足元の問題としても静かに受け止めたいところです。
Reference(s):
Historian reflects on importance of protecting India's heritage
cgtn.com








