中国の生成AI動画が示すテック自立 トランプ&ハリス「結婚式」の舞台裏
米国の政治家ドナルド・トランプ氏とカマラ・ハリス氏が仲むつまじくキスを交わす「結婚式」動画が、中国のSNSで大きな話題になりました。もちろん現実の出来事ではなく、生成AIが作り出したフィクションです。この動画はその後、AI生成コンテンツであることを示すタグが付いていなかったとして削除されましたが、中国のAI動画技術の存在感を象徴する出来事となりました。
バズったAI「結婚式」が映した中国の生成AI最前線
トランプ氏とハリス氏という米大統領選の候補者を題材にしたこの動画は、単なるジョークを超えて、現在の国際ニュースの背景にある生成AIの加速を映し出しています。政治的に対立する人物同士が仲良く寄り添うという、現実ではあり得ないシーンが、自然な映像として滑らかに描かれていたからです。
このほかにも、中国の動画サイトやSNSには、次のようなファンアート的なAI動画が次々と投稿されました。
- 古代の人物がハンバーガーを食べるシーン
- 映画の中で敵対しているキャラクター同士が抱き合うシーン
- 現実には交わらないはずの人物や世界が同じ画面で共演するシーン
どれも、個人クリエイターがテキストや画像を入力するだけで生成したもので、映像制作のハードルが急速に下がっていることを物語ります。
OpenAIのSoraと、中国発AI動画モデルの台頭
こうした流れの背景には、OpenAIが発表した高品質なテキストから動画を生成するサービス「Sora」の存在があります。Soraのデモ映像が世界を驚かせた一方で、一般ユーザーはまだ実際に触ることができませんでした。そのなかで、中国のクリエイターたちは、国内で開発が進むさまざまなAI動画サービスを使って、独自の映像を量産しています。
代表的なものとして、動画サービス「Kwai」が展開するKlingモデル、TikTokが関わるJimeng(旧称Dreamina)、清華大学も参加するViduなどが挙げられます。いずれも、中国で独自開発された生成AIモデルで、ユーザーが入力したテキストや画像から、短いアニメーションから映画のようなシネマティックな映像まで幅広く生成することができます。
認可モデルは2024年だけで50未満から300超へ
制度面でも動きは加速しています。2024年1月から11月にかけて、政府の認可を受けた生成AIモデルの数は、50未満から300を超えるまでに急増しました。わずか1年足らずで、数としては6倍以上に膨らんだ計算です。
これは、生成AIをめぐるエコシステムが急速に立ち上がっていることを示します。大手テック企業だけでなく、スタートアップや研究機関も参入し、多様なモデルとサービスが同時多発的に生まれていると考えられます。
政府支援とテック自立が後押し
この急速な発展を支えているのが、政府による政策的な後押しと、テクノロジーの自立を重視する戦略です。近年、政府は次のような取り組みを進めてきました。
- AI研究への投資拡大など、研究開発への資金支援
- 専門のAI研究センターや実証拠点の設立
- AIサービスを社会で活用しやすくするための規制やルールづくり
生成AIは、その中核に位置づけられていますが、取り組みはそれだけにとどまりません。5G、量子コンピューティング、スーパーコンピューティングといった分野でも技術開発が進められ、総合的な技術力の底上げが図られています。政府は、こうした技術革新が長期的な繁栄と安全保障の基盤になると明確に位置づけています。
なぜ日本の読者にとって重要なのか
では、この中国の生成AIとテック自立の動きは、日本の私たちにとって何を意味するのでしょうか。国際ニュースとして注目すべきポイントを整理すると、次のようになります。
- AI動画をめぐる国際的な競争が、技術力だけでなくルールづくりの段階に入りつつあること
- AI生成コンテンツにラベル表示を求める動きなど、プラットフォーム運営と表現のバランスをどう取るかという課題
- 個人クリエイターが高度な映像表現にアクセスできるようになる一方で、偽情報やなりすましのリスクも高まること
中国の事例は、生成AIをどう活かし、どう管理していくのかという問いに対して、一つのモデルを提示しているとも言えます。私たち一人ひとりが、AIで作られた映像をどのように見分け、どう付き合っていくのか。国や企業だけでなく、ユーザー側のリテラシーも問われる時代が本格的に始まっています。
Reference(s):
New innovation drive: AI videos show China's tech self-reliance
cgtn.com








