シンガポール、移民家事労働者に中国語方言講座 高齢者ケアと信頼づくり狙う
シンガポールで、家庭で働く移民家事労働者向けにホッケン語や広東語など中国語方言の講座が2025年に導入される計画です。高齢者の多くが方言を使う社会で、言葉の壁をどう埋め、ケアの質と信頼関係を高めていくのか注目されています。
何が起きているのか
シンガポールの家事労働者支援団体・Center for Domestic Employees(CDE)は、ホッケン語や広東語といった中国語方言の講座を2025年から移民家事労働者向けに提供する計画です。教育・人材省の政務次官を務めるガン・シオウ・ファン氏が、国際移住者デーを前にしたイベントで明らかにしました。
この取り組みの狙いは、家事労働者が雇用主やその家族、とくに高齢者とより円滑にコミュニケーションを取れるようにすることです。ガン氏は演説で、方言レッスンの導入は信頼と長く続く関係づくりにつながると強調しました。
CDEは、シンガポール全国職業労働組合会議(National Trades Union Congress)によって設立された非政府組織で、家事労働者の相談や研修を担っています。
なぜ方言なのか:高齢者世代の言葉の現実
なぜ今、中国語の標準語ではなく「方言」なのでしょうか。その背景には、シンガポール社会の言語構成、とくに高齢者世代の実情があります。
2021年の最新国勢調査によると、5歳以上の居住者のうち、家庭で最も頻繁に中国語方言を使う人は8.7%でした。55歳以上に絞るとその割合は21.9%にまで高まります。
さらに、55歳以上で中国語方言を主に使う人のうち、33%は第二言語を話さないとされています。多くの高齢者にとって、ホッケン語や広東語などの方言こそが「唯一の言葉」になっているということです。
こうした家庭で暮らす高齢者の日常生活や介護を支えているのが、移民家事労働者です。言葉が通じなければ、日々の細かな体調変化や気分の変化を把握することが難しくなり、ケアの質にも影響が出かねません。
語学だけでなく介護スキルも強化
今回のイニシアチブは、単なる語学講座にとどまりません。CDEはヘルスケア・アカデミーと提携し、より高度な介護研修も提供する予定です。
研修には、次のような分野が含まれます。
- 認知症ケアに関する講座
- 乳幼児(乳児)ケアに関する講座
中国語方言でのコミュニケーションと介護スキルを組み合わせることで、「言葉は通じるがケアが不安」「技術はあるが意思疎通に時間がかかる」といったギャップを埋める狙いがあります。
メンタルヘルス支援と雇用主向けワークショップ
CDEは、メンタルヘルスの面からも移民家事労働者を支えようとしています。精神疾患への偏見解消と早期支援に取り組む非営利団体・Silver Ribbon(Singapore)と連携し、無料のカウンセリングサービスやメンタルヘルス講座を提供する計画です。
雇用主に向けては、家事労働者のストレスや不安に気づき、適切に支援するための無料ワークショップも開かれる予定です。家庭内での日常的なコミュニケーションの取り方や、休息時間の確保、相談しやすい雰囲気づくりなど、雇用主の向き合い方が見直されるきっかけになりそうです。
シンガポールの移民家事労働者はいま
シンガポール人材省によると、2024年6月時点でシンガポールには約29万4,900人の移民家事労働者が働いており、同国の外国人労働力全体の19%を占めています。
高齢化が進み、共働き世帯も多いシンガポールにとって、移民家事労働者は家庭生活と介護を支える重要な存在です。その一方で、長時間労働や孤立、言葉の壁など、多くのストレス要因を抱えがちな立場にもあります。
今回の方言講座や介護・メンタルヘルス研修は、そうした負担をやわらげつつ、家庭側と家事労働者の双方にとってより良い環境をつくる試みといえます。
日本への示唆:多言語ケアをどう整えるか
日本でも、介護や家事の分野で外国人労働者の受け入れが続いています。地方を中心に、高齢者が方言でしか十分に意思疎通できないケースは珍しくありません。
シンガポールの事例は、次のような取り組みを考えるヒントになります。
- 利用者の言語背景に合わせた語学研修を用意する
- 介護スキルと語学をセットにした実践的な研修を行う
- 家事労働者や介護人材自身のメンタルヘルスを支える仕組みを整える
言葉の通じるケアは、高齢者や乳幼児にとっての安心につながるだけでなく、家事労働者にとっても「自分はこの家庭の一員だ」と感じられる土台になります。
多言語・多文化が共存する社会で、どのように信頼関係を育てていくのか。シンガポールが移民家事労働者向けの中国語方言講座と包括的な支援策に踏み出した動きは、日本を含むアジア各国にとっても、今後の制度づくりを考えるうえで注目すべき取り組みといえます。
Reference(s):
Singapore to offer Chinese dialect classes for migrant workers
cgtn.com








