中国・南水北調10年 河南省焦作市に見る水資源とエコロジーの変化
世界最大級の水利事業である中国の「南水北調プロジェクト」は、事業開始から10年を経て、水資源の安定供給とエコロジー回復の両面で重要な役割を担っています。河南省焦作市は、その具体的な変化がよく見える地域の一つです。
南水北調プロジェクトとは
南水北調プロジェクトは、水資源が豊かな地域から水需要の高い地域へ大量の水を長距離で送る、中国の国家的な水利プロジェクトです。複数のルートのうち、いわゆる「中線ルート」は中国中部の河南省を通過し、その途中にある焦作市では市中心部を直接流れています。
焦作市への送水は2014年に始まりました。以来、南と北を結ぶ人工の「水の大動脈」として機能し、プロジェクト全体は開始から10年の節目を迎えています。
河南省焦作市に広がる「水と緑」のコリドー
焦作市は、中線ルートが市街地を貫く唯一の都市です。この10年で、湖北省の丹江口ダムからすでに4億3,000万立方メートル以上の水の供給を受け、水不足の解消に大きく貢献してきました。
この安定した水供給を背景に、焦作市は従来の石炭産業中心の経済構造から、より持続可能で環境に配慮した産業や都市づくりへと舵を切りつつあります。水インフラが、エネルギーや産業の転換を後押しする役割を果たしていると言えます。
運河沿いには、約10キロメートルにわたる緑地の回廊(グリーンコリドー)が整備されました。ここは市民の散歩やランニング、憩いの場として活用される一方で、鳥や水生生物の生息地ともなり、都市の生態系を支える重要な帯状空間になっています。
また、これまでに6,000万立方メートル以上の水が生態環境の回復のために活用され、河川や湖沼などの水系の改善と、周辺の自然環境の再生につながっています。水を「使う」だけでなく「自然に戻す」ための補給に振り向けることで、水とエコロジーの好循環をめざす取り組みが進んでいます。
数字で見る南水北調:10年で広がる恩恵
南水北調プロジェクト全体でも、この10年で水の流れは着実に広がってきました。中国の水利部の報道官は、国務院新聞弁公室の記者会見で、プロジェクト開始以来の成果として次のような数字を示しています。
- 総送水量:767億立方メートル
- 受益人口:1億8,500万人以上
- 対象となる中・大都市:45都市
これらの都市では、家庭向け・産業向けの水供給の信頼性が大きく高まりました。断水リスクの低減や、水質・水量の安定は、企業活動や住民の生活を支えるインフラの基盤となります。
同時に、水を受け取る側の地域では、節水や効率的な利用に向けた取り組みも進み、水資源の使い方そのものが見直されつつあります。大規模な水供給に頼る一方で、無駄遣いを減らし、限られた水をどう賢く循環させるかが政策の重要な柱になっていることがうかがえます。
水資源とエコロジーを両立させるインフラという視点
焦作市の例が示すのは、大規模インフラを単なる「水を運ぶ装置」にとどめず、都市の構造や環境を変える基盤として活用しうるという点です。水質の改善や水量の安定は、産業構造の転換や住民の生活の質の向上とも結び付きやすくなります。
また、運河沿いに整備された緑地や、生態系を意識した流水の配分は、洪水や干ばつへの備えだけでなく、都市のヒートアイランド対策や生物多様性の確保にもつながる可能性があります。水インフラとエコロジーを一体で考える発想は、今後の都市政策にとって重要なヒントと言えるでしょう。
10年後を見据えて:問われるのは「水の使い方」
南水北調プロジェクトは、この10年で莫大な量の水を南から北へと運び、多くの都市に新たな選択肢をもたらしました。一方で、プロジェクトの効果を最大化するためには、受け手側の都市や地域がどのように水を管理し、節水や再利用を進めていくかがこれからの焦点になります。
河南省焦作市のように、水資源の安定供給をテコに産業構造や都市空間を変えていく動きは、今後ほかの都市にも広がる可能性があります。大規模インフラをきっかけに、より持続可能で環境負荷の小さい都市づくりをどう進めるのか——南水北調プロジェクトの次の10年は、その試金石となりそうです。
Reference(s):
South-to-North Water Diversion Project boosts water supply and ecology
cgtn.com








