中国研究チーム、ウイルス伝播の新パターンを発見 合成生物学で解明
中国科学院の深圳先端技術研究院(SIAT)の研究チームが、合成生物学の手法を使ってウイルス伝播の新しいパターンを発見したと発表しました。国際科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に掲載されたこの研究は、感染症がどのように広がるのかを理解するうえで重要な手がかりになりそうです。
研究のポイント
今回の国際ニュースで注目されるポイントを、先に整理しておきます。
- 中国の研究チームが、大腸菌とそれに感染するウイルス(バクテリオファージM13)を使って実験を実施
- 合成生物学と数理モデルを用いて、宿主(大腸菌)の移動速度とウイルス感染の関係を解析
- 細菌集団が一方向に素早く移動するほど、感染した細菌が集団から振り落とされ、最終的に健康な細菌だけが残るというパターンを確認
「移動すればするほどウイルスが広がる」という従来のイメージとは違う結果が示された点が、大きな特徴です。
何が「新しいパターン」なのか
これまで多くの研究では、動物の移動や渡りはウイルスや病原体の拡散を加速させると考えられてきました。移動距離が長くなればなるほど、多くの個体や環境と接触し、感染が広がるという発想です。
ところが、新しい研究では、オオカバマダラ(モナークチョウ)のように長距離移動を行う動物の一部で、移動中の病気の感染確率が下がる例もあることが示されています。今回の研究は、そのような現象の背景にある「パターン」を、微生物レベルで再現しようとしたものです。
研究チームは、大腸菌の集団が一定の方向へ移動する状況を実験室で再現しました。その結果、集団全体が速く、方向性を持って移動する条件では、ウイルスに感染した細菌が集団から置き去りにされやすく、時間がたつほど健康な細菌だけが残るというダイナミクス(動きのパターン)が確認されたといいます。
合成生物学と数理モデルで「移動」をつくり出す
今回の論文の特徴は、合成生物学と呼ばれる手法を駆使している点です。合成生物学とは、遺伝子や細胞を「部品」のように設計・組み合わせて、新しい機能を持つ生物システムをつくり出す研究分野です。
研究チームは、大腸菌を「宿主」、バクテリオファージM13を「ウイルス」として組み合わせ、両者が相互作用する人工的なシステムを構築しました。さらに、
- 宿主である大腸菌の移動のしやすさ
- ウイルスの感染しやすさや増え方
といった性質を人工的に操作し、その結果を数理モデルで解析することで、移動と感染の関係を丁寧に追いかけました。
こうして見えてきたのが、「方向性を持った速い移動は、感染した個体を集団から自然と振り落とす」というメカニズムです。
動物の長距離移動とのつながり
今回の実験は大腸菌とウイルスを用いたものですが、背景にあるのは、動物の長距離移動と感染症との関係をめぐる疑問です。
従来、「渡り鳥はウイルスを世界中に運ぶ」といったイメージで語られることが多くありました。しかし、長距離の移動によって、結果として集団全体の感染リスクが下がる可能性も示唆されています。
今回の研究は、そのような現象を微生物の世界で再現した一例といえます。細菌レベルでも、集団が一定の方向へ素早く移動することで、感染した個体が置き去りになり、健康な個体だけが残るというパターンが確認されたからです。
感染症研究への示唆
論文の責任著者である深圳先端技術研究院のFu Xiongfei氏は、今回の成果について「感染症の伝播パターンをより深く理解するための手がかりになる」としています。
感染症の広がり方を考えるとき、私たちは「どれだけ多くの人が接触したか」に注目しがちです。しかし、この研究が示すのは、「集団がどのように動くか」という視点も同じくらい重要になりうる、ということです。
- 集団の移動速度
- 移動の方向性(まとまって動くのか、バラバラなのか)
- 感染した個体が集団内にとどまりやすいかどうか
といった要素が、感染の広がり方そのものを変えてしまう可能性があります。
私たちが考えたいポイント
もちろん、実験室での大腸菌とウイルスの結果を、そのまま人間社会の感染症に当てはめることはできません。それでも、「移動=リスクの増加」という単純な図式だけでは、現実のウイルス伝播を説明しきれないことを、この研究は静かに示しています。
日常生活や社会のしくみを考えるうえでも、
- 人や物がどのようなパターンで移動しているのか
- その中で、感染した個体が集団に残るのか、自然に離れていくのか
といった視点を持つことは、今後の感染症対策やリスク評価を考えるうえでヒントになりそうです。
国際ニュースとしての一報にとどまらず、「集団の動き方が健康にどのような影響を与えるのか」という、より広い問いを投げかける研究だといえるでしょう。
Reference(s):
Chinese researchers discover new pattern in virus transmission
cgtn.com








